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WBCワールドベースボールクラシック。米国リーランド監督とかけて、少年野球の監督と解く。その心は?

谷口輝世子スポーツライター
WBC、米国代表チームのジム・リーランド監督(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

最初にお断りしなければいけない。

私は今年のワールド・ベースボール・クラシック大会を取材していない。テレビ中継を見て、米国メディアの報道を読んでいただけだ。ただ、今回のWBCで優勝した米国チームのジム・リーランド監督が、デトロイト・タイガースの監督をしていた時にはよく取材させてもらっていた。

今大会、テレビ画面に映るリーランド監督の姿に、私は、少年野球チームの監督像とを重ねていた。スター軍団を束ねる米国代表リーランド監督と、少年野球の監督とが、どこで、どうつながるのか。

WBC米国代表の選手、特に投手たちには、それぞれ所属しているメジャーリーグ球団から投球数など、起用についていくつかの制限がついていたという。酷使はできないが、プレー機会も与えなければいけない。そして、国を代表するチームとして勝たなければいけない。

WBCでの選手起用に注文をつける所属球団を、少年野球チームにおける「保護者」と見立てることもできるのではないか、と思ったのだ。

スケールの違いはあるが、子供のスポーツの監督たちも、預かっている子供にケガをさせてはいけないと気を配っている。控えの子供にも出場機会を与えなければいけない※。保護者からは「うちの子供のこんなところに気をつけてやって欲しい」と頼まれる。いろいろな保護者がいる。そのしんどさと、やりがいは、子供のスポーツに関わった人なら思い当たるところがあるだろう。

※リーランド監督はダニエル・マーフィー(ナショナルズ)とアレックス・ブレグマン(アストロズ)、ジョシュ・ハリソン(パイレーツ)には、プレー機会をあまり与えていない。大不振に陥ったノーラン・アレナド(ロッキーズ)は起用し続けた。控えにも十分に出場機会を与えることはしていない。

もちろん、この重圧はWBCの米国代表監督だけではない。他のチームの代表監督にとっても似たようなものだったに違いない。

そのうえで、WBCで米国代表を率いたリーランド監督は、「保護者(各メジャーリーグ球団)から求められた制限つきの起用」と「チームとして勝ちにいくこと」を両立したと言えるのではないか。

決勝戦の捕手はバスター・ポージー(ジャイアンツ)ではなく、ジョナサン・ルクロイ(レンジャーズ)を先発起用した。ここまで、ポージーとルクロイを交互に使ってきたが、実績から見ると、ルクロイはポージーに及ばない。しかし、リーランド監督はポージーを2試合連続で先発させることを避けた。捕手というポジションの体への負担を考慮して。

米メディアによると、この起用について質問を受けたリーランド監督は「もし、キャッチャーがルクロイだから、我々は勝ちにいっていないと言われたら、私はとても気分が悪い。彼は本当に良い選手だ」と話したそうだ。

リーランド監督がルクロイやポージーと、どのような話をしたかは、知らない。しかし、ルクロイとて、オールスターに2度、選出されているキャッチャーだ。決勝戦に起用されて意気に感じないはずがない。リーランド監督はリスクを計算した上で、腹をくくることができる人だ。送り出すときには100%の信頼を込めていただろう。ルクロイは三回に中前打で出塁し、続くキンズラーの2ランで先制点となるホームを踏んでいる。七回先頭にヒットを打たれるまで無安打無失点のストローマンを支えた。先発起用の期待に応えた。

それは日本との準決勝で、マーク・メランソン(ジャイアンツ)と交代しマウンドに上がったパット・ニシェク(フィリーズ)が、筒香をライトフライに打ち取ったことや、クローザー役を任されたたルーク・グレガーソン(アストロズ)にも当てはまるのかもしれない。(選手層が厚かったことが大きいとも言えるのだろうが)

米国優勝から一夜明けて、リーランド監督と少年野球の監督との、もうひとつの共通点を見つけた。

FOXニュースの記事に、大会MVPストローマンの「僕はタイトルを守るため4年後にまた戻ってくる。彼(リーランド)が、もう、監督をやらないことには、ちょっと動揺している。彼のもとでプレーするのは、とても好きだ」という談話が掲載されていた。

私は以前、米国で受講した子供のスポーツのコーチ講習でこんなことを強調された。「子供たちがスポーツを嫌いにならず、また、やりたいと思うこと。また、このコーチといっしょにやりたいと思う子供が多いほど、優秀なコーチです」。

今回のWBC大会は観客が100万人を突破し、次回以降の盛り上がりを期待させた。米国チームの初優勝で、今まで、冷めた目で見ていた米国ファンにもアピールできただろう。観客が「また、見たい」と願い、選手が「また、やりたい」と思える大会になってきた。

WBC米国代表のリーランド監督は、各球団からのリクエストに応じながら、優勝し、「また、やりたい」と選手に思わせた。72歳の老将は、再びユニフォームを着ることはないと言うが、次回大会へ向けて果たした役割は、決して小さくなかったと思う。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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