海外修業から帰国し、国内で結果を残す事を誓ったジョッキーの想いとは……
海外で感じた「百聞は一見にしかず」
エースインパクトが無敗で勝利し、日本のスルーセブンシーズが4着と健闘した今年の凱旋門賞(仏・GⅠ)。レース前にその舞台となる2400メートルの馬場を、スタート地点からゴールまで自らの足で歩いて確かめる日本人の男がいた。
「今年は好天が続き、良い馬場状態という事もあるのでしょうけど、聞いていたほど芝丈は長くないし、札幌や函館の芝みたいな感じでした。『百聞は一見にしかず』ですね」
そう語ったのは小崎綾也(栗東・フリー・28歳)。この時、滞在先のドイツから、車で5時間をかけてフランス入り。ヨーロッパ最大の1戦を観戦しに訪れていた。
凱旋門賞が終わった後、そんな彼をドイツに訪ねた。デュッセルドルフの空港から電車を乗り継ぎ1時間と少々。ケルンにあるケルン競馬場が、7月からの、彼の仕事場だった。
「着いた当初は暑い日もあったけど、大分涼しくなってきました」
約3カ月の滞在で、季節の移り変わりを肌で感じていた。
彼と海外で落ち合うのはこれが何カ国目だろう。オーストラリアで、ニュージーランドで、会った。それ以外にアイルランドでも、修業をした。
「どこの国へ行っても、何か発見があります。パリロンシャン競馬場の馬場ではないですけど、見ると聞くでは大違いという事が多々あります」
それはドイツでも同じだったと続ける。
「ドイツの馬というと、パワーがあって、重い馬場をこなせるタイプが活躍するというイメージを持っていました。でも、小柄で、軽い動きの馬が沢山いて、そういった馬達が実際に活躍しています」
短期免許で来日したバウルジャン・ムルザバエフ騎手の紹介で、ドイツのリーディングトレーナー、ペーター・シールゲンに師事した。
「さすがリーディングトレーナーという感じで、ひっきりなしに働いています。毎日5ロットあるのですが、彼は自分でもほぼ全鞍、乗っています」
そんなドイツが誇る伯楽から、騎乗依頼が舞い込んだ。
結果、約3カ月の滞在で12レースに騎乗して、1勝を挙げた。
「1つ勝てたのは大きかったです。その後、勝つ事は出来なかったけど、レースには良いイメージを持って臨めるようになりましたから……」
また、かの地を本拠地として頑張る日本人騎手、寺地秀一の姿勢も刺激になった。
「完全に海外をベースにしているわけですからね。偉いと思ったし、見習わなくては、って感じる事だらけでした」
それぞれの国の競馬文化を、伝聞ではなく、自ら知り、理解する事は、確実にヒキダシを増やしてくれるだろう。
「あちこち行かせてもらい、それぞれの違うやり方を知る事が出来ました。これは大きいと感じました」
全くその通りだろう。どこが良くて、どこが悪いではなく、違いを知り、受け入れる事こそが、生きていく上で、大きな武器になる。世の中、白黒に分けられるモノばかりではないのだ。ただ、自分の目で見て、肌で感じる事が出来ないと、すぐに日常と違う事(他人や他国)を否定しがちになる。違いを受け入れられないのだ。言い方を変えれば心が豊かではないのだ。
日本での活躍を誓う
先週、帰国した小崎は10月21日には京都、翌22日には新潟で騎乗し、日本のキャリアを再開した。ご存知の通り競馬に特効薬はないため、即、勝利して成果を見せる事は叶わなかった。しかし、確実にヒキダシを増やしている彼は、そのうちきっと答えを出してくれるだろう。
「僕は日本のジョッキーなので、日本で結果を出す事が何よりだと考えています。海外で学んできた事を、必ず日本で結果に結びつけられるように頑張ります!」
力強く語ったその言葉が、実現され、いずれ自らの足で確かめたパリロンシャンの2400メートルでも騎乗依頼を受ける日が来るよう、応援しつつ、刮目しよう。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)