ジャニーズのタレントやメディアを支配した「空気」とは何なのか? なぜ日本人は「空気」に縛られるのか?
ジャニーズ事務所の性加害問題をめぐり、藤島ジュリー景子前社長らが9月7日、記者会見を開いた。4時間に及んだ会見。藤島前社長や東山紀之新社長らは被害者たちへ謝罪し、反省する姿勢を示したが、その中で出てきた「空気」という言葉が気になった。ジャニーズのタレントやメディアを支配し、被害の拡大を招いた「空気」とはいったい何なのか。
噂に触れてはいけない「空気」があった
「空気」という言葉を口にしたのは、ジャニーズアイランド社長の井ノ原快彦氏だ。
ジャニー喜多川氏の性加害について認識したのはいつごろか? そんな質問に対して、井ノ原氏は、小学校6年生ごろにジャニーズ事務所に入ったときに、そういう噂を聞いていたとしつつ、「被害に遭われた方が、相談してくるとか、そういうことができない空気はあったと思います」と振り返った。
「小学生とか中学生の自分たちが『それ、ちょっとおかしいんじゃないか』『噂、、、聞いたぞ』というようなことが言えなかったのは、本当に今となっては後悔していますが、言い訳になるかもしれませんけれども、なんだか得体の知れない、それには触れてはいけない空気というのはありました」(井ノ原氏)
ものを言えない「空気」で何もできなかった
また、藤島前社長も、叔父であるジャニー喜多川氏の性加害を知らなかったというのは信じられない、という指摘に対して「空気」という言葉を使った。
ジャニー氏の姉であり、事務所の副社長だったメリー喜多川氏を母にもつ藤島前社長は、ジャニー氏の性加害問題に関する暴露本や雑誌の存在は知っていたが、その内容が真実なのか確かめようとしなかったと釈明。事務所の実権を握っていたジャニー氏とメリー氏に対して、自分の意見を表明することができなかったと説明した。
「その2人に、私が親族であっても、ものを申せなかったという空気が弊社の本当にいびつなところだったと思いますし、それを親族だからこそもっとなにかできることがあったのではないかというのは、もちろん反省しておりますが、当時は何もできなかったです」(藤島氏)
ジャニーズ事務所の中の「空気」が所属タレントや関係者を支配し、ジャニー氏の性加害問題を追及させない状況を作り出していたと言える。
戦後80年たっても「空気」に押し流されている
ジャニーズ事務所の記者会見を論評する討論番組の中でも「空気」という言葉は登場した。
会見後に放送されたネット番組「ABEMA Prime」で、ジャーナリストの佐々木俊尚さんは、今回の性加害問題はジャニー喜多川氏の責任であると同時に、それを許してきた社会の「空気」にも注目する必要があると述べた。
佐々木さんは、評論家の山本七平が書いた著名な書籍『「空気」の研究』に言及しながら、その内容を紹介した。
「日本が太平洋戦争に突っ込んでったのも空気の圧力だったと。御前会議をやって、戦争やりましょうという話になって、みんな内心では『これは無理だよね、アメリカ相手に戦争なんて』と思ってたんだけど、結局、誰も言えない。空気に押し流されて。家に帰ってから、将軍が奥さんに『いやぁ、俺はダメだと思うんだよね』とボソッとこぼすみたいな。でも、会議の上ではそういったことを言わない。そういう空気の圧力があったという話をしている」
佐々木さんは「戦後80年たっても、いまだに同じようなことをやっている」と指摘。そのような空気に対して、メディアが抵抗するどころか、むしろジャニーズ事務所の意向を忖度して、空気を助長する側に回っていたと批判した。
「空気」とは、我々が抵抗できない「何か」
佐々木さんが紹介した山本七平の『「空気」の研究』は、1977年に発表された。40年以上前の書物だが、いまも読み継がれている。
そこにつづられているのは、次のような言葉だ。
<「空気」とはまことに大きな絶対権をもった妖怪である。一種の「超能力」かも知れない>
<もし日本が、再び破滅へと突入していくなら、それを突入させていくものは戦艦大和の場合の如く「空気」であり、破滅の後にもし名目的責任者がその理由を問われたら、同じように「あのときは、ああせざるを得なかった」と答えるであろうと思う>
<「空気」とは何であろうか。それは非常に強固でほぼ絶対的な支配力をもつ「判断の基準」であり、それに抵抗する者を異端として、「抗空気罪」で社会的に葬るほどの力をもつ超能力であることは明らかである>
<「空気」とは、一つの宗教的絶対性をもち、われわれがそれに抵抗できない〝何か〟だということになる。もちろん宗教的絶対性は、大いに活用もできるし悪用できる>
山本は、日本社会を支配する「空気」について、このように述べながら、西洋文明との対比を通じて、その発生原理や対処法を明らかにしようと努めている。
今回のジャニーズ問題は、日本人の行動をいまだに支配している「空気」について、改めて考える良い機会といえるのではないか。
ABEMAの番組の中で、佐々木さんは「この空気の圧力をどうやって破壊するか」が課題だと指摘した。
その上で、メディアが信頼を取り戻すためには、「なぜ我々が報じなかったかということを、洗いざらい明るみに出すしかないのではないか」と述べている。
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