Yahoo!ニュース

防犯カメラがないと知っていた? 旭川女子高生殺害、捜査の焦点は

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 北海道・旭川市の川で女子高生の遺体が発見された事件で、警察は21歳の女と19歳の女の2人を殺人容疑で逮捕し、送検した。SNSへの画像投稿を巡る金銭要求が発端だったのではないかと報じられているが、事件の経緯については関係者のスマホやサーバのデータを調べれば自ずと答えが出るだろう。むしろ今後の捜査の焦点は、女子高生がどのようにして橋から川に転落することになったのか、その具体的な状況の解明にある。

一連の容疑と逮捕者

 事件は4月18日から19日にかけて発生し、首謀者とみられる21歳の女の車が使用されていた。これまで4人の人物が次の容疑で逮捕されている。4人は知人関係にあり、特に21歳の女は19歳の女について「自分の舎弟」「自分が犯行に誘った」と供述しているという。

(1) 女子高生に対する恐喝容疑
 21歳の女、16歳の少年
(2) 女子高生に対する車内での監禁容疑
 21歳の女、19歳の女、16歳の少年、16歳の少女
(3) 女子高生に対する不同意わいせつ容疑
 21歳の女、19歳の女
(4) 女子高生に対する殺人容疑
 21歳の女、19歳の女

 監禁の途中でコンビニエンスストアに立ち寄っているが、女子高生が大声を出して助けを求め、逃げようとしていた様子や、21歳の女らが女子高生に暴行を加え、車内に連れ戻していた状況が防犯カメラの映像に記録されているという。また、事件後、21歳の女は複数の友人に「高校生に謝らせた」「その後、高校生は帰って行った」という趣旨のメッセージを送信しているとのことだ。

防犯カメラがないと知っていた?

 一方で、ここにきて注目されるのは、計画性をうかがわせる次の報道である。ほかにも同様の事実を報じているメディアが複数ある。

「20代の容疑者が警察の調べに対し、『橋の周辺に防犯カメラがなく、人目に付かない場所だと知っていた』などと供述していることが、捜査関係者への取材でわかりました」
「警察は、防犯カメラに映像が残らない場所を選んだとみて詳しいいきさつを調べています」
高校生殺害 20代容疑者“防犯カメラない場所と知っていた”(NHK)

 先ほど挙げた(1)~(4)のうち、特に重要なのは最も罪が重い(4)の殺人容疑だ。最後の現場である神居古潭の橋での犯行状況が問題となる。ここには女子高生のほか、殺人容疑で逮捕された2人の女しかいなかったとのことだし、場所が場所だけに目撃者がおらず、防犯カメラもなかったとみられるからである。

 現場付近からは女子高生のものとみられる衣類の一部が発見されており、証拠隠滅のために21歳の女らが捨てたとも考えられるが、まだ捜査中の段階だ。

転落状況の解明が鍵に

 そうすると、女子高生が川に落ちた際の具体的な状況の立証が基本的に2人の女の供述頼りになるので、「被害者を橋の上に立たせたら、勝手にバランスを崩して落ちてしまった事故だった」などと、いくらでも弁解を構築できることになる。この種の事件では、2人が自らの行為や責任を相手になすりつけ合うことも予想される。

 2人が女子高生の殺害を自白し、供述も一致しているのであれば、警察としても殺人容疑による逮捕に間違いがなかったということになるから、その供述内容を明らかにするはずだ。これをしていないということは、双方ないし片方が否認しているとか、あいまいな話をしているとか、供述が一致していないということが考えられる。

 「突き落とした」という表現を使っている一部メディアもあるが、転落させて殺害したという容疑にとどまっており、そこまで断定できるには至っていない。2人で女子高生を抱えて放り投げたのか、後ろから背中を押したのか、脅して自ら川に落ちるように仕向けたのか、暴行により意識を失ったので死んだと思いこんで川に捨てたら生きていて溺水により窒息死したのかなど、殺人容疑での起訴や有罪獲得に向け、徹底した捜査による真相の解明が求められる。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

前田恒彦の最近の記事