Yahoo!ニュース

飲食店に8人が“バラバラ入店”してお迎えと案内で疲弊 店主の「集まってから入店して」に賛同できる?

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

バラバラ入店

飲食店を複数人で予約して、バラバラに訪れたことはありますか。

8人の予約が入り、8人の客がバラバラに来店。8回もお迎えに行って席まで案内するので効率も悪く、駐車場も気になるので、集まってから入店してもらいたいということです。

同じアカウントからは、以前にも6人でバラバラ入店に対して、同じような主旨を投稿していました。

返信を確認してみると、ほとんどのコメントは店主の投稿に共感を示すものになっています。

飲食店のビジネス

飲食店の利益は、売上からコスト=費用(原価、人件費、家賃、光熱費など)を引いたものになります。飲食業界の利益率は高くありません。10%もあればかなりよい方で、通常は5%以内といったところ。

売上は通常、客単価と客席数と回転率を掛け合わせて算出されます。

客単価は客ひとりあたりが費やす金額なので、飲食店にとっては、多ければ多いほど嬉しいのは言及するまでもありません。客席数は全体のキャパシティであり、大箱であればあるほど、売上が大きくなります。最後の回転率は、利用者にとってはわかりにくいところですが、これは客席数がどのように回っているかという指標であり、非常に重要です。

客単価を増やすには

飲食店の売上を増やすには、どうすればよいでしょうか。

席数は変わらないので、客単価と回転率を上げていくしか売上を増やす方法はありません。

客単価を増やすには、値上げが最も単純なことですが、客が離れたり、オーダー数が減ったりして、結果的に売上が下がってしまう危険性が高いので、難しいところ。料理をおすすめして一品でも多く注文してもらったり、ドリンクを飲み終えたらすかさず次のドリンクを促したりするのが現実的です。

回転率を高めるには

回転率を高めるには、席の稼働率や回転数を増やさなければなりません。できる限り空いている席をなくすと共に、長居させすぎないことが重要となります。

ファインダイニングであれば、完全予約制に近く、ディナーで1回転というところが多いですが、一斉スタートのカウンターガストロノミーや鮨店であれば、2部制を採用しており、2回転することも一般的です。たとえば、ディナーが18時からの営業で、18時から全席埋まっていて20時に全ての客が退店し、20時30分から別の客が全ての席を専有して営業が終了。これであれば、営業時間中に無駄になる席は一席たりともありません。

カフェは慌ただしいセルフ式から時間の流れが止まったかのようなオーセンティックで高単価なものまであるので、回転数も2回転から10回転とだいぶ異なるのが特徴。

客単価の安いラーメン店や牛丼店、ハンバーガーショップなどのファストフードでは回転率が非常に重要となるので、滞在時間が長い子連れや同行者待ちの問題がよく俎上に載せられます。

空間の価値

飲食店の空間には少なからぬコストがかけられているので、価値があります。

賃貸料があるのは当然のことながら、灯りや空調といった光熱費、テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金がかかっているのです。

滞在時間

飲食店でのディナー滞在時間は通常、1時間30分から2時間となります。カウンタースタイルの完全2部制を敷いているような店であれば、途中入店した場合には、その時に提供しているメニューからしか食べられないと断っていることが多いです。もしくは、滞在時間が決まった居酒屋のコースであれば、次から次へと料理を提供して、時間がきたら終了というケースもあります。

こういったレギュレーションであれば、何人が途中から入店したとしても、開始時間と終了時間に変動はありません。

しかし、遅れた客を待ってからスタートしたり、途中から参加した客にも最初から提供してくれたりする場合には、終了時間が遅くなってしまいます。飲食店は客の滞在時間を考慮して、予約枠を設定してるだけに、終了時間が遅くなってしまうのは困るのです。

客の滞在時間が不必要に長くなれば、空いている席も少なくなってしまいます。次の予約客やウォークインで入りたい客にとっても迷惑をかけてしまうのは自明の理です。

開始時間に全員が集まっていれば、入店時の案内も一度だけで完了し、最初はドリンクのオーダーを行い、そこから料理とスムーズにオペレーションが流れます。しかし、バラバラ入店であれば、その都度席へと案内し、着席する度にドリンクのオーダーとなり、余計な手間がかかります。もしも、ワンオペなどスタッフリソースが不足している状況であれば、オペレーションの効率が悪くなり、他の客へのサービスも滞ってしまいます。

バラバラ入店になる理由

どのような経緯で、バラバラ入店になってしまうのでしょうか。

食事の際に、飲食店で待ち合わせ=集合となるのは、かなり一般的なことです。

店内=テーブルで待ち合わせれば、自然とバラバラ入店になります。店内ではなく、店外、つまり、店前や近くのランドマーク、駅などの公共交通施設で待ち合わせて、全員が揃ってから入店すればバラバラ入店は避けられます。ただ、少し遅れるから先に入店するように同行者から促されることも多く、こうなるとバラバラ入店になります。

バラバラ入店を防ぐにはやはり、同席者の全員が約束した時間に遅れないことが重要です。そうすれば、店内待ち合わせであれば、ウェイティングスペースやエントランス付近で合流し、店外待ち合わせであれば予約時間に間に合うように店に到着できます。

予約時間のどれくらい前から入店できるのかは、飲食店によってさまざまです。オープン時間かどうか、一斉スタートかどうか、複数回転を採用しているかどうかに依存しますが、だいたい予約時間の5分前から10分前からには入店できます。

共食の意味

バラバラ入店することによって、共食の意味合いが薄れてしまいます。

共食とは一緒に食卓を囲んで共に食べることであり、誰かと一緒に食事をすること。配偶者や子どもなど家族や親類と共に食べることはもちろん、パートナーや友人、会社の同僚などと一緒に食事をする場合も当てはまります。

「食育」ってどんないいことがあるの?/農林水産省

共食をするとどんないいことがあるの?/農林水産省

共に同じものを食べることによって、コミュニケーションをとり、絆も育まれます。しかし、バラバラ入店となり、食べ始める時間がバラバラで、食べるものも違っていて、お腹の空き具合も違っていれば、“同じ食体験”を共有したとは言い難いです。

食体験の毀損

来ない人がいるせいで、料理を取り分けたり、残しておいたりと、余計な手間もかかってしまいます。

誰かが遅れてやって来ては乾杯し、説明しながら前菜から順番に提供していては、先に訪れた人は自分のペースで食べ進めることができず、絆を深めるどころではありません。

目まぐるしい現代社会において、時間はとても貴重です。

小さい頃に、食事の時間になっても食卓にいなければ、親に注意された人は多いと思います。みんなで同じ時間に“いただきます”をして食べ始めることは、共に食卓を囲む人間にとっては非常に重要です。

バラバラ入店になりそうなら

バラバラ入店は、客にとっても飲食店にとっても嬉しいことではありません。

会社の仕事の状況によって、開始時間に全員が揃わないことはあるかと思います。しかし、これはただ単に、開始時間が適切ではないだけです。

どの飲食店でも、予約時に必ず訊くのは、予約者の名前と電話番号、そして入店する日時と人数です。アレルギーや好き嫌い、オプションも尋ねますが、最も重要なのは先の4項目となります。入店する日時と人数とは「ある日時」に「ある人数」で入店して食事することを意味しているのです。「ある日時」からバラバラに入店することを意味しているのではありません。

ある日時に全ての人がきっちり揃うのは難しいのは理解できます。しかし、できるだけ多くの人が同時に食事を開始できるように調整することが大切です。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事