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8月10日から太平洋側の海水浴は要警戒 急なうねりの襲来をうけることに

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
8月11日9時の波周期予測。黄色の範囲が危険の高い海域(Yahoo!天気・災害)

 小笠原諸島付近の太平洋に低気圧があって、その周辺で発生した波がうねりとなり日本列島に襲来しています。2019年8月11日も同じようなうねりが太平洋側に襲来して、同時多発的に海岸の水難事故が発生しています。

 8月10日からしばらくは太平洋側の海岸には安易に近づけません。急なうねりの襲来を受けることになります。

2019年8月11日の事故のおさらい

・午前9時10分ごろ、神奈川県三浦市の剣埼灯台の下の岩場で、釣りをしていた30代の男性が行方不明となった。

・午前11時20分ごろ、神奈川県小田原市早川の海岸で、男女3人が沖に流された。

・午後1時ごろ、神奈川県真鶴町真鶴の海岸で、少年(17)が沖合約20 mの海面に浮いているのを一緒に来た友人が発見した。

・午後2時40分ごろ、藤沢市鵠沼海岸で、「溺れている人を岸に上げた」と119番通報があった。救助された男性は死亡した。

・正午過ぎ、千葉県勝浦市の守谷海水浴場で海水浴をしていたおよそ40人が、100 mほど沖合に流された。ライフセーバーたちが救助にあたったが男性1人が死亡した。

 特に勝浦市・守谷海水浴場で発生した「急な流れ」によると思われる水難事故では、ライフセーバーの活躍によって犠牲者を最小限に抑えられましたが、場合によっては大惨事となったかもしれません。

 以上、詳細は「今年は海での水難事故が多すぎる。特に11日は同時多発性と言わざるを得ない」を参照してください。

うねりとは

 今回、小笠原諸島付近にある低気圧の下では、風浪が発生しています。この風浪が1000 kmほど離れた日本の沿岸に丸一日かけて到達すると、沿岸で強い風が吹いていないにもかかわらず高い波を観測することになります。これを「うねり」と呼びます。

 昔は「土用波」と言って、夏の土用の時期に海岸に係留していた船が突然の大波でひっくり返るような被害をもたらしたのですが、現在では太平洋側の広範囲で水難事故を発生させます。

 うねりの特徴は、波の周期が長いことです。簡単に言えば次の波が来るまでの時間が長いということです。通常の波だと5秒前後ですが、これが8秒を超えるようになると沿岸において水難事故を誘発するなどの影響が大きくなります。

波予想(波周期)をチェック

 波予想(波周期)はYahoo!天気・災害で確認することができます。72時間後の予想まで確認することができます。まずは図1で確認してみましょう。8月10日午前9時の予想です。

 黄色の領域に注目します。ここは周期で9.0秒以上の波が発生しているようです。立派なうねりであり、沿岸に達すると水難事故を発生させる可能性が極めて高いうねりです。図1では黄色の領域が南西諸島にかかっていることがわかります。

関東沿岸の海水浴は10日午前でおしまい

 一方、関東沿岸では波の周期が4秒から6秒の間にあることがわかります。この時間では水難事故が発生するようなうねりが関東沿岸には到達しないことがわかります。

 しかしながら、伊豆諸島付近で青色から急に黄色に変わる領域があるのがわかるでしょうか。これが午後にかけて徐々に関東沿岸に接近することになります。

図1 8月10日9時の波予測(Yahoo!天気・災害より転載)
図1 8月10日9時の波予測(Yahoo!天気・災害より転載)

 図2は10日15時の予測です。伊豆半島の東側で黄色がかぶり始めたのがおわかりでしょうか。もっとも事故が発生する可能性の高い時間です。なぜなら、その直前まで穏やかな波だったにもかかわらず、突然人を海にひきずりこむような波が襲ってくるからです。もともと怖い海の様相なら誰も海岸に近づかないのですが、穏やかな様相であれば、どうしても海岸に近づいたり、海に入ったりしてしまうからです。

図2 8月10日15時の波予測(Yahoo!天気・災害より転載)
図2 8月10日15時の波予測(Yahoo!天気・災害より転載)

10日午後からの磯釣りはひかえる

 図3は11日9時の予測です。日本列島の太平洋側の沿岸の大部分が黄色で覆われてしまいました。こうなると、どこでも水難事故の発生する危険性が高くなります。当然、朝からの海水浴はできません。

 10日午後から太平洋側で磯釣りを計画されている方がおられましたら、中止もご検討ください。10日夕方にはうねりが入ってきていなくとも、夜間にはいずれの海岸も比較的エネルギーの高いうねりの襲来を受けることになります。しかも闇夜の中での突然の高波の襲来です。なにがなんだかわからないうちに海にひきずりこまれてしまいます。そして、生きて戻ることはきわめて難しくなります。

図3 8月11日9時の波予測(Yahoo!天気・災害より転載)
図3 8月11日9時の波予測(Yahoo!天気・災害より転載)

突然うねりが来るとどうなるか

 周期の長いうねりが襲来すると、どうなるのか。水難事故の観点で2種類を挙げてみたいと思います。

戻り流れでひきずりこまれる例

 図4をご覧ください。海岸にいる人がうねりの襲来を受けている様子です。

図4 うねりによりひきずりこまれる様子(筆者作成)
図4 うねりによりひきずりこまれる様子(筆者作成)

 長い周期をもったうねりは、おおきな水の塊でもあります。それが海岸に到達すると、内陸の奥深くまで遡上します。そして予想もしないような流れを作ります。この流れがやっかいなのです。

 うねりにやられると、海岸の奥の方にいたとしても波をかぶる場合があります。ただ波をかぶるだけならいいのですが、海水は遡上をした分だけかなりの速さをもって戻り流れを作り、人を海にひきずりこみます。この時、足元の砂とともに流されますから、抵抗も摩擦もなく、そのまま海に連れていかれます。

湾内の流れに流される例

 図5をご覧ください。湾を含む地形を上空から見たイメージです。

図5 うねりとそれに伴って発生する流れの様子(筆者作成)
図5 うねりとそれに伴って発生する流れの様子(筆者作成)

 このような湾にうねりが侵入すると、湾内に流れが生じます。この流れは湾内を回った後、沖に向かって流れます。かなり激しい流れで、数百mをあっという間に人を流すくらいです。2019年の勝浦市・守谷海水浴場で発生した流れは、これによって発生したのではないかと予測しています。

まとめ

 8月10日から太平洋側にうねりがはいってきます。このような時には海岸での水難事故が多発します。海水浴、海岸の散歩、磯釣りなどはぜひ控えましょう。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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