学校だったらこうなる 「例え話」でわかる高プロの残酷さ
今国会の目玉、「働き方改革」関連法案の一部である裁量労働制の対象拡大は、厚労省調査の「異常値」問題で紛糾し、法案から削除されることとなった。しかし、法案には、専門職で年収1075万円以上の労働者を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)が盛り込まれている。
私はこれまでも裁量労働制の問題点について指摘してきたが、今回は趣向を変えて「学校」という身近な例に引きつけて考えてみたい。
裁量労働制の本質
裁量労働制や高プロの導入の趣旨は次のようなものだ。
専門性のある仕事に就き、仕事に関する裁量を持っている労働者は労働時間規制に馴染まない。早く業務が終わった日や生活上のニーズがあれば帰ってもいいし、その方が生産性が上がり、ダラダラ残業も減るでしょう、と。
ここで重要なのは、「裁量」の中身である。ここで言う「裁量」とは、仕事の遂行方法についての「裁量」を指している。この「裁量」があれば労働時間が短くなるのだろうか?
「使用者=先生」、「労働者=生徒」として、学校に置き換えて考えてみよう。
先生「今日は先生の出した課題を解いてもらいます。解法は自由です」
生徒A「はい(よし、終わったら早く帰れるぞ)」
先生「では、こちらの問題を解いてください」
……
生徒A「先生、終わりました!(これで帰れる!)」
先生「Aさん、早く解けましたね。では、こちらの問題も解いてみてください」
生徒A「(え、終わりじゃないの? でも先生に逆らったら内申点が下がるかも……)わかりました!」
……
生徒A「先生、終わりました!(さすがにこれで帰れるでしょ!)」
先生「Aさん、さすがですね。そしたら、この問題もどうぞ」
生徒A「はい……(どうしたら帰れるんだ……)」
先生「(君たちに課題の量をコントロールすることはできないのだよ……)」
いくら生徒(=労働者)側に解法(=仕事の遂行方法)についての裁量があっても、課題(=仕事)の量を決めるのは先生(=使用者)なのだから、際限なく居残り(=残業)をさせることができるというわけだ。
現実には、私たちPOSSEに寄せられる相談のほとんどが、そもそも裁量がなく、違法な裁量労働制となっているケースである。しかし、仮に仕事の遂行方法に裁量があっても、「仕事そのもの」は使用者やクライアントから課せられるのが普通だろう。つまり、業務量がコントロールできなければ、労働時間を自ら調整することは不可能である。
例えば、裁量労働制の問題に取り組む「裁量労働制ユニオン」では、次のような相談が寄せられている。
大手グループの広告代理店で働く20代女性は、専門業務型裁量労働制を適用されていた。通常は出勤時間や退勤時間についての裁量があり、みなし労働時間より少なく勤務している日がしばしばあるほどだが、コンペや納期が近くなったり、急な依頼が入ったりすると、たちまち深夜まで持ち帰り残業をせざるを得ない状況になることも多々ある。
最近になって、22時以降まで職場に残っていることが禁止された結果、こうした繁忙期の業務は持ち帰り残業にならざるを得ない。それも、一名だけで作業するのではない。技術の発展により、複数名でSNS、チャット、メール、ファイルのアップロードサイトなどを利用して、画像を共有したり、指示を受けたりしながら、一緒の空間にいなくても作業の進捗を確認して、データの作成をすることができ、そのような持ち帰り残業が深夜、休日などに労働時間の記録に残らない「隠れ残業」というかたちで行われていた。もちろん、深夜手当や休日手当は払われていない。
こうした、裁量労働制の下で起こっている残業代不払いや長時間労働が、高プロでも起こるであろうことは想像に難くない。高プロの適用は「年収1075万円以上」「高度な専門職」とされているが、その要件自体が緩和される可能性もある。
高プロの推進を政府に迫っている経団連によれば、同制度の適用は年収400万円以上が妥当だとされており、成立後に1075万円の基準が維持されるとは到底思われないのである。
裁量労働制の適用拡大に引き続き、高プロも廃案にすべきだろう。
尚、現行の裁量労働制で上のような状態にある方は、違法行為の可能性があるので、ぜひ下記の記事を参照してほしい。