シリア南東部を占領する及び腰のアメリカ軍をかすめるロシアの爆撃
ロシア国防省は6月26日、シリア南東部でアメリカの支援を受ける「テロリスト」の拠点を爆撃したとする声明を発表、空撮した映像を公開した。
ロシア国防省声明
ロシアのRTによると、ロシア国防省の声明の骨子は以下の通りである。
55キロ地帯
声明における「タンフ地区」とは、ヒムス県南東部のイラク国境に位置するタンフ国境通行所を中心とする「55キロ地帯」(55km zone)と呼ばれる地域を指す。
アメリカが主導する有志連合は2016年3月、タンフ国境通行所をイスラーム国から奪い、ここに基地を建設した。同地にはアメリカ軍が200人規模の部隊を、イギリス軍が50人規模の部隊を駐留させるとともに、反体制武装勢力も拠点を設置し、アメリカ軍の教練を受けた。
シリア政府は同地の奪還を試みたが、アメリカ軍はタンフ国境通行所から半径55キロの地域が、領空でのロシアとの偶発的衝突を回避するために2015年10月に両国が設置に合意した「非紛争地帯」(de-confliction zone)に含まれると主張、占領を続けた。タンフ国境通行所一帯地域は以降、「55キロ地帯」と呼ばれるようになった。
アメリカ軍の駐留は、イスラーム国に対する有志連合の「テロとの戦い」を根拠としている。だが、シリアでの「テロとの戦い」は、国連安保理での承認も、シリアのいかなる当事者の同意も得ておらず、国際法上違法行為にあたる。
ロシアの事前通告
アメリカの占領地に対するロシア軍の爆撃がいつ行われたのかは定かではない。
だが、CNNは6月16日、アメリカの複数高官の話として、ロシアが6月第3週の初めに、55キロ地帯で活動を続ける反体制武装集団に対して爆撃を実施することをアメリカに事前に通知していたと伝えた。
同高官によると、通知を受けて、アメリカ軍は反体制武装集団の戦闘員をアメリカ軍の拠点に避難させた。また、アメリカ軍は爆撃が行われた地域から離れた場所に展開していたため、避難せず、また人的、物的被害もなかった。
一方、イギリスを拠点に活動する反体制系NGOのシリア人権監視団は6月15日、55キロ地帯の北西部にある革命特殊部隊軍の拠点1ヵ所が「イランの民兵」所属と思われる無人航空機(ドローン)の爆撃を受けたと発表した。
また、革命特殊任務軍も6月16日、爆撃を受けたことを認め、ツイッターのアカウントを通じて、ムハンマド・タラーア司令官(准将)が現場を視察したと発表した。
ドローンによるこの爆撃が、「イランの民兵」ではなく、CNNが伝えたロシア軍の爆撃、すなわちロシア国防省が発表した爆撃だと考えられる。
革命特殊任務軍は、CIAによるヨルダンでの極秘教練を経て、2015年に結成された組織の一つで、イスラーム国に対する有志連合の「テロとの戦い」の「協力部隊」(partner forces)と位置づけられ、アメリカ軍の支援を受けて55キロ地帯で活動している。
アメリカの及び腰
ウクライナ情勢をめぐってアメリカは西欧諸国や日本とともに、ロシアの侵攻を非難、さまざまな経済制裁を科している。しかし、ウクライナへの軍事支援は常に及び腰で、そのことが結果的にはウクライナ東部を焦土と化している。
ロシアの事前通告に対して、「協力部隊」である革命特殊任務軍を撤退させるだけで、断固たる姿勢をとることができないアメリカのありようは、ウクライナでの及び腰と無力を上塗りするものだと言える。