日本におけるイノベーションについて考えよう!
イノベーション。近年改めて、注目が高まっている言葉の一つであり、バズワードといえるだろう。
「イノベーション」とは、オーストリアの経済学者である「J.A.シュンペーターの経済発展論の中心的な概念で、生産を拡大するために労働、土地などの生産要素の組合せを変化させたり、新たな生産要素を導入したりする企業家の行為をいい、革新または新機軸と訳されている。技術革新の意味に用いられることもあるが、イノベーションは生産技術の変化だけでなく、新市場や新製品の開発、新資源の獲得、生産組織の改革あるいは新制度の導入なども含む。シュンペーターはイノベーションにより投資需要や消費需要が刺激され、経済の新たな好況局面がつくりだされるのであり、したがってイノベーションこそ経済発展の最も主導的な要因である」(出典:ブリタニカ国際大百科事典・小項目事典)とされるものである。
そのようなことから、社会や世界が大きく変わってきているなかで、そこにおける新しい経済や企業・ビジネスなどがより短期間で求められるようになり、より注目が集まってきているといえるだろう。
しかしながら、筆者のこれまでの限られた経験からも、「イノベーション」は意図して簡単に生まれるものでないこと、どんなに優れたサイエンスやテクノロジーあるいはサービスなどがあっても必ずしも生まれるものあるいは生み出せるものではないと考えている。社会状況や市場の状況、さらにまた偶然性や時代状況などのさまざまな要素なども実は重要で、ある意味でギャンブルに近いものといえるであろう。その意味からも、「イノベーション」は、意図してというよりも、ある意味さまざまな要素の組み合わせで偶然的の結果として生まれるに過ぎないものであるといえるのではないかと考えている。
他方で、その「イノベーション」が生まれる確率を高めることはできると考えている。
ではその確率を高めるために、日本でどのようなことをすればいいのであろうか。
まず社会において、性別・国籍・教育・文化などにおいて多様なバックグラウンドのある人材が活躍し、政策・政治・組織などの意思決定のプロセスに関われるようになっていることが重要だろう。その意味からも、まだまだであるが、日本においても女性が中心のいくつかの自治体ができてきたことには可能性を感じる(注1)。
また日本においても、イノベーションを促進するために、さまざまな試みが政府や民間で行われてきてはいるが、それらは飽くまで点としての試みで、有機的に結びつき、線になり、面になっていない。その意味で、それらの点を結び付けて、有機的なイノベーション向上のためのエコシステムを構築していくことが必要であろう。
その点において参考になるのが、スウェーデンのイノベーションシステム庁「VINNOVA」である。同庁は、技術・通信・労働における分野で同国におけるイノベーションシステムを開発することおよび、ニーズに基づいた研究に対して資金提供を行うことで、同国のサステーナブルな成長を促進することを使命として、2001年に設立された同国のイノベーション政策の政府専門機関である。
同庁は、経営管理グループ、国際協力、健康、地域開発、技術革新管理、産業開発、広報、事業開発支援、戦略分析などの部門の200名超の職員から構成される組織であり、やや古い情報になるが2018年時点で、プロジェクトに対して年間27億スウェーデンクローナ(約340億円)の資金を提供する組織である。しかも、「商品化の高い可能性」「社会に及ぼす大きな影響や利益」「ユニークさ」「万全なチーム体制」「魅力的な企業ビジョン」などがあれば、「黒字転換が近い将来見込めない案件であっても、例えば環境にプラスになるようなプロジェクトであれば積極的に投資していく姿勢」をとっており、資金提供の確率も高いようだ(注2)。このことからも、同国では国の組織が、プロジェクトの価値を判断し、リスクを取りながら、可能性を後押ししていることがわかる。先述したように、イノベーションはある意味ギャンブルなので、このような組織や環境があることが重要なのだ。これに対して、日本は、官も民も可能性をあまり評価せず、リスクも取らない環境の社会だ。これでは、当然にイノベーションが生まれてくるはずがない。
また同庁は、このような組織を運営していくために、多様な主体を巻き込むと共に、組織が柔軟に対応できるように、仕事する場所を内部で自由に移動することができたり、仕事やプロジェクトに応じて場所やレイアウトが変更できるようになっており、同庁の職員も起業家マインドがあるような環境が形成されているようだ。そのことは、同庁の組織や職員自体が、イノベーションを起こす側のマインドや行動を理解できるような環境があることを意味しているといえるだろう。
このようなことから、スウェーデンが世界有数のイノベーション大国として考えられている点において、同庁の役割が高く評価されていることがうなずけるのである。
日本でも、最近、社会変化に伴う新しい問題・課題解決のために、新たなる政府組織としてデジタル庁やこども家庭庁がつくられてきている。そして、そこにおける職員の採用などにおいても従来とは異なる対応がされている。
元気のない日本。この日本を変えるには、大きなイノベーションが生まれてくることが必要だ。日本のこれまでの単一的で形式重視のアプローチとは大きく異なるやり方や組織が必要だ。
その意味からも、日本にも、スウェーデンのイノベーションシステム庁(VINNOVA)のような組織をつくってみてはどうだろうか。日本のような画一化の強い社会だからこそ必要な組織だといえるのではないだろうか。
(注1)拙記事「統一地方選で誕生した女性が政治の中心となった自治体に注目すべき」(2023年5月4日)などを参照のこと。
(注2)詳しくは、次の記事などを参照のこと。
・「多様な主体を巻き込み、変化に適応する行政へ|スウェーデン・・Vinnova」(井上拓央、行政&情報システム597号、2022年6月号、pp.82-85)
・「社会を変える、行政とデザインの現在:スウェーデンVinnovaデザイン・ディテクターDan Hill氏を迎えて」(特許庁のHP、2019年12月18日)
・「【VINNOVA】スウェーデンイノベーションシステム庁とは!?」(It’s Lagom、2018年10月1日)
・「スウェーデン・フィンランド ‐ 産業デジタル化に取り組む」(JETROのHP、2017年8月15日)