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「ピッタリ1億円」の心理学:お金の力とモチベーション(大谷翔平投手契約更改から)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■日本ハムの大谷翔平投手、「ピッタリ1億」の年棒で契約更改

日本ハムの大谷翔平投手が5日、札幌市内の球団事務所で契約更改交渉を行い、3000万円から7000万増の1億円で更改した。

高卒3年目を年俸1億円で迎えるのは、球界では松坂大輔投手(当時西武)以来、2人目。〜

「サインしました。ピッタリ1億円です」

出典:大谷「ピッタリ1億」ダル超え 松坂以来、高卒3年目で大台 デイリースポーツ 12月5日

今年大活躍だった二刀流の日本ハム大谷選手が、年棒1億円で契約更改しました。

「サインしました。ピッタリ1億円です」という言葉から、彼のうれしさが伝わってきます。

■お金の2つの意味と力

心理学の「内発的動機づけ」に関する研究によれば、お金などの報酬には2つの意味があります。

一つは、人を操る力。「制御的側面」です。お金を渡すから働きなさい、お金がもらえるから働きますという側面です。

もう一つが、人への評価。「情報的側面」です。あなたには、これだけのお金を払う価値がありますと、評価して認めてくれているという情報を与えてくれる側面です。

■金のためだけに働く?

金を渡すから働けという意味を感じ取れば、それはもちろん働きます。大金がもらえるならがんばるでしょうし、働かなくてお金がもらえないならいやでしょう。

でも、「金を出しているんだから働けよ」と高圧的に言われている気がすると、「はい、はい、金の分だけ働きますよ」と感じて、それ以上の仕事はしたくなくなります。自律性をなくして、お金の操り人形になってしまうわけです。

そうなってしまえば、上司が見ていないところではさぼったり、なるべく楽をして金だけもらおうとするかもしれません。これでは、やる気(内発的動機づけ)は下がってしまいます。

これでは、ただ金のためだけに働いている状態で、楽しくありませんし、成果も上がりにくいでしょう。

■認めてくれたうれしさ

一方、お金には価値を認めてもらえたという意味もあります。

プロ野球選手の年棒は、様々な要素を考慮して計算されるようです。おそらく大谷翔平選手の場合は、計算の結果は1億円に少し届かなかったのではないかと思います。計算の結果、偶然にも「ピッタリ1億円」ということはなかなかないでしょう。

しかし日本ハム球団としては、「ピッタリ1億円」を提示したのではないでしょうか。大谷選手を「一億円プレイヤー」として認めようという思いを込めて。

年棒が、9800万円でも1億円でも、税金もたくさん取られるし副収入もある大谷選手にとっては、大差はないかもしれません。しかし、大台の1億に乗った喜び、1億円プレーヤーとして認められた喜びは大きいでしょう。

お金にある、「あなたの能力や努力を大いに認めよう」という情報的な側面を感じ取るとき、人々のやる気(内発的動機づけ)は、大きく上昇します。

球団としても、「1億円」ということでマスコミに大きく報道され、大谷選手がさらにやる気を出してくれれば、何百万かの上乗せは安いものかもしれません。

■1億円ではなくても、庶民でも

お金は大切です。働いてかせぐお金には、喜びがあります。もちろんお金自体の価値もあります。しかしそれだけではないでしょう。自分が必要とされている思いや、達成感もあるでしょう。

給料がいくらであれ、支払う側がお金で相手を操ろうとする意図を感じてしまうと、内発的動機づけは低下します。「給料の分は働け」と言われると「給料の分しか働かない」と感じますし、最も楽して給料を得る方法を人は考えてしまいます。

一方、支払う側が感謝の思いを込めて支払う給料、能力や仕事の成果を認めた上でのお金となると、やる気はさらに高まるでしょう。給料は高いにこしたことはありませんが、「給料泥棒!」と言われるよりも、「君の働きは素晴らしい、本当はもっと給料をあげたいぐらいだ」と言われた方が、内発的動機づけは高まるでしょう。

お金には、金額こそが意味を持つ時もあります。しかし、お金が人の心に与える影響は、金額だけでなく、お金が持っている心理的な意味合いなのです。

それは、お金だけではありません。「ほめ言葉」なども含めたすべての「報酬」が同じです。

家庭でも職場でも「ほめて育てる」がブームです。でも、ほめることでやる気が下がってしまう時もあります。物も言葉も、使いようによって、それぞれ良い効果も悪い効果もあるのです。

出典:ほめることがやる気を奪う!?:内発的動機づけの最新心理学(家庭と職場での「ほめて育てる」の注意点):Yahoo!ニュース個人有料「心理学であなたをアシスト」

■大谷翔平選手と年棒1億円

上記の記事「大谷「ピッタリ1億」ダル超え 松坂以来、高卒3年目で大台」の「オーサーコメント」として、下記のように書きました。

人がもらうお金には2つの意味がある。一つは、人を操る力(お金がもらえるから働く)。もう一つが、人への評価だ(それだけの仕事と認めてくれた)。

グランドにはお金が埋まっている。プロだからお金を求めるのは当然。しかし、「ピッタリ1億円」には、「1億円プレーヤー」として認められたという意味がある。一億は、大金の象徴とも言えるだろう。

大谷選手は、その評価にきっと応えてくれると期待したい。そして後に続く少年達にも、成功と活躍の象徴として、1億円プレーヤー大谷翔平選手は大きな夢と目標になるだろう。

大谷選手と、そしてすべてのがんばっている人々の大活躍を、応援したいと思います。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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