「ピッタリ1億円」の心理学:お金の力とモチベーション(大谷翔平投手契約更改から)
■日本ハムの大谷翔平投手、「ピッタリ1億」の年棒で契約更改
今年大活躍だった二刀流の日本ハム大谷選手が、年棒1億円で契約更改しました。
「サインしました。ピッタリ1億円です」という言葉から、彼のうれしさが伝わってきます。
■お金の2つの意味と力
心理学の「内発的動機づけ」に関する研究によれば、お金などの報酬には2つの意味があります。
一つは、人を操る力。「制御的側面」です。お金を渡すから働きなさい、お金がもらえるから働きますという側面です。
もう一つが、人への評価。「情報的側面」です。あなたには、これだけのお金を払う価値がありますと、評価して認めてくれているという情報を与えてくれる側面です。
■金のためだけに働く?
金を渡すから働けという意味を感じ取れば、それはもちろん働きます。大金がもらえるならがんばるでしょうし、働かなくてお金がもらえないならいやでしょう。
でも、「金を出しているんだから働けよ」と高圧的に言われている気がすると、「はい、はい、金の分だけ働きますよ」と感じて、それ以上の仕事はしたくなくなります。自律性をなくして、お金の操り人形になってしまうわけです。
そうなってしまえば、上司が見ていないところではさぼったり、なるべく楽をして金だけもらおうとするかもしれません。これでは、やる気(内発的動機づけ)は下がってしまいます。
これでは、ただ金のためだけに働いている状態で、楽しくありませんし、成果も上がりにくいでしょう。
■認めてくれたうれしさ
一方、お金には価値を認めてもらえたという意味もあります。
プロ野球選手の年棒は、様々な要素を考慮して計算されるようです。おそらく大谷翔平選手の場合は、計算の結果は1億円に少し届かなかったのではないかと思います。計算の結果、偶然にも「ピッタリ1億円」ということはなかなかないでしょう。
しかし日本ハム球団としては、「ピッタリ1億円」を提示したのではないでしょうか。大谷選手を「一億円プレイヤー」として認めようという思いを込めて。
年棒が、9800万円でも1億円でも、税金もたくさん取られるし副収入もある大谷選手にとっては、大差はないかもしれません。しかし、大台の1億に乗った喜び、1億円プレーヤーとして認められた喜びは大きいでしょう。
お金にある、「あなたの能力や努力を大いに認めよう」という情報的な側面を感じ取るとき、人々のやる気(内発的動機づけ)は、大きく上昇します。
球団としても、「1億円」ということでマスコミに大きく報道され、大谷選手がさらにやる気を出してくれれば、何百万かの上乗せは安いものかもしれません。
■1億円ではなくても、庶民でも
お金は大切です。働いてかせぐお金には、喜びがあります。もちろんお金自体の価値もあります。しかしそれだけではないでしょう。自分が必要とされている思いや、達成感もあるでしょう。
給料がいくらであれ、支払う側がお金で相手を操ろうとする意図を感じてしまうと、内発的動機づけは低下します。「給料の分は働け」と言われると「給料の分しか働かない」と感じますし、最も楽して給料を得る方法を人は考えてしまいます。
一方、支払う側が感謝の思いを込めて支払う給料、能力や仕事の成果を認めた上でのお金となると、やる気はさらに高まるでしょう。給料は高いにこしたことはありませんが、「給料泥棒!」と言われるよりも、「君の働きは素晴らしい、本当はもっと給料をあげたいぐらいだ」と言われた方が、内発的動機づけは高まるでしょう。
お金には、金額こそが意味を持つ時もあります。しかし、お金が人の心に与える影響は、金額だけでなく、お金が持っている心理的な意味合いなのです。
それは、お金だけではありません。「ほめ言葉」なども含めたすべての「報酬」が同じです。
■大谷翔平選手と年棒1億円
上記の記事「大谷「ピッタリ1億」ダル超え 松坂以来、高卒3年目で大台」の「オーサーコメント」として、下記のように書きました。
人がもらうお金には2つの意味がある。一つは、人を操る力(お金がもらえるから働く)。もう一つが、人への評価だ(それだけの仕事と認めてくれた)。
グランドにはお金が埋まっている。プロだからお金を求めるのは当然。しかし、「ピッタリ1億円」には、「1億円プレーヤー」として認められたという意味がある。一億は、大金の象徴とも言えるだろう。
大谷選手は、その評価にきっと応えてくれると期待したい。そして後に続く少年達にも、成功と活躍の象徴として、1億円プレーヤー大谷翔平選手は大きな夢と目標になるだろう。
大谷選手と、そしてすべてのがんばっている人々の大活躍を、応援したいと思います。