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子供のアトピー性皮膚炎が引き起こす精神的問題とその対策

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:アフロ)

アトピー性皮膚炎は、世界中で多くの子供たちが悩まされている慢性の炎症性皮膚疾患です。かゆみを伴う湿疹が体の各所に現れ、日常生活に支障をきたすこともあります。そんなアトピー性皮膚炎が、子供の精神面にも影響を与えていることが、イギリスの大規模な縦断研究で明らかになりました。

【アトピー性皮膚炎と子供の精神的問題の関連】

研究グループは、イギリスの「親と子供の縦断研究(ALSPAC)」に参加した約1万1000人の子供たちを対象に、アトピー性皮膚炎と精神的健康の関係を調査しました。その結果、アトピー性皮膚炎のある子供は、ない子供に比べて、うつ症状や内面化問題(不安や抑うつなどの内向的な問題)のリスクが高いことが分かりました。

特に重症のアトピー性皮膚炎の場合、うつ症状のオッズ比は2.38倍、内面化問題は1.90倍にも上りました。一方、軽症から中等症の場合でも、内面化問題のリスクは29~84%増加していました。日本でもアトピー性皮膚炎の有病率は高く、子供の精神的健康への影響が懸念されます。

【睡眠の質低下が精神的問題に関与】

研究グループは、アトピー性皮膚炎と精神的問題の関係を仲介する要因も探りました。喘息やアレルギー性鼻炎、炎症マーカーの上昇は関連がみられませんでしたが、睡眠の質の低下が一部関与していることが分かりました。

アトピー性皮膚炎では、かゆみのために夜間の睡眠が妨げられることが多いです。睡眠の質が低下すると、子供の情動調整が難しくなり、ストレスへの脆弱性が高まると考えられています。睡眠の質の改善は、アトピー性皮膚炎児の精神的健康の維持に重要と言えるでしょう。

【早期からの評価と介入の重要性】

今回の研究で、アトピー性皮膚炎と精神的問題の関連は4歳という早い時期から見られることが分かりました。子供は、症状によって友達との遊びが制限されたり、外見を気にして自己肯定感が下がったりと、幼い頃から精神的な影響を受けやすいのです。

アトピー性皮膚炎のある子供では、精神面のアセスメントを定期的に行い、必要に応じて早期に介入することが大切だと考えます。保護者への啓発とサポートも忘れてはいけません。皮膚の症状をコントロールするだけでなく、子供の内面的な成長を支える視点が求められます。

参考文献:

Association of Atopic Dermatitis and Mental Health Outcomes Across Childhood.

Kern C, Wan J, et al. JAMA Dermatol. 2021 Sep 1;157(10):1200-1208.

https://jamanetwork.com/journals/jamadermatology/article-abstract/2784155

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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