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台風19号 知っておきたい支援制度の思わぬ落とし穴

吉川彰浩一般社団法人AFW 代表理事
(写真:アフロ)

東日本広域に甚大被害を及ぼした台風19号から10日が経ちました。

未だ、甚大被害地域では片付け等のボランティア(マンパワー)を必要とする状態が続いています。

被災された方々の生活再建は道半ばどころか、これからとなっています。

その様な中、生活再建に必須な公的支援は先行き不透明な方々にとってはかけがえのない希望となっています。

しかし、この水害時の公的支援は扱い方や、そもそも制度の中身を知らないと思わぬ落とし穴にはまりかねません。

落とし穴への理解を深めて頂くために、公的支援が投入される(支援制度)条件をまずは綴ります。

半壊以上の被害認定が必要

実際に家屋浸水した方が、この状況では住めない!という感覚値で支援制度を受けることは出来ません。

水害に限らず、災害にあった家屋は被害規模に応じた認定をお住まいの自治体からもらわなくてはなりません。

それを証明する物が交付物が「罹災(り災)証明」と言います。

そして規模に応じて、全壊、大規模損壊、半壊、一部損壊といった認定がされます。

台風よる水害の場合、家屋浸水高さが判定の大きな要件になります(注:屋根の損壊や家の傾きなども考慮要件です)

では、どのように認定されるのか、目安としてまとめてくださっている冊子からの紹介です

出典「水害にあった時に 震災がつなぐ全国ネットワーク編 10P」
出典「水害にあった時に 震災がつなぐ全国ネットワーク編 10P」

床上浸水30cm以上は半壊になります。ですが、ここに落とし穴が・・・。

床上浸水30cm未満は半壊にならない点です

後述しますが、被災者生活再建支援金の支給の対象にもなりません。

半壊以上でも被害実態に及ばぬ支援制度

水害で一番困るのは住まいの確保です。それを支援するための制度があります。原則、全壊、大規模損壊の認定を受けた世帯が活用できるものです。(内閣府より被災自治体に半壊世帯にあっても柔軟に対応する旨通知があり、実体は半壊世帯も活用出来ます)

これにも落とし穴があります。

1.応急修理制度と応急仮設住宅等支援の落とし穴

東日本大震災後、「応急仮設住宅」、「みなし仮設住宅(民間賃貸借り上げ制度」、「災害公営住宅」こうしたもの見聞きしたことがあると思います。住まいの確保が困難な方向けの住宅支援です。

とても助かる支援でありますが、これらを活用すると本来いたい場所(ご自宅)の再建に使える制度「応急修理制度」を使うことが現状出来ません。

応急修理制度とは(概略)

 59万5千円を上限として、制度適用の修理範囲に対して国が費用を負担してくれるもの

まずは住む場所の確保だ!と応急仮設住宅等に入居したとします。でも本来は自宅に住みたいと誰もが願うわけです。そういえば応急修理制度がある!それを使って自宅を直そう!は出来ません。

現行の住まいの確保支援はあくまで、経済的困窮者への住まいの確保を第一としているからです。

こちら「応急仮設住宅等の支援」と「自宅修繕のための応急修理制度」が併用出来ない旨を、被災された方々が認知しているとは言えません。

応急修理制度で適用されるお金が被災者自身の手に渡るという誤解もあります。

正しくは、応急修理制度を使える認定を受けた世帯が修理業者に依頼し、修理業者が行政に煩雑な書類を作り申請をし、修理業者にお金が支払われる制度です。

慌てて、自費でご自宅を修理された方もいらっしゃると思います。この制度は申請をもって適用となります。先にやってしまった修理については適用されません。

応急修理制度の適用には、半壊の場合、原則世帯収入の要件があります。ここで注意したいのが、所得ではなく収入というところ。

収入とは年収です。例えば年収500万の方がいたとします。でも色々引かれてしまって所得は・・・使えるお金ではなく、もらったお金で適用可否が決まります。

前年の世帯収入が、原則、収入額(年収)≦500 万円の世帯

但し、ア世帯主が 45 歳以上の場合は、700 万円以下

イ世帯主が 60 歳以上の場合は、800 万円以下

ウ世帯主が要援護世帯の場合は、800 万円以下

2世帯以上で暮らしている方は要注意です。世帯収入ですから多くは適用されません。共働きでやっと生活しているなんて方も適用除外のケースになります。

但し、こちらの世帯収入要件については、平成27年熊本地震の際に撤廃された事例があります。これが全国でも適用されるものかは不透明です。(というのも内閣府の防災担当webにも、撤廃とは明記されていないため)

応急修理制度や仮設住宅等支援の落とし穴を要約すると

・応急修理制度と仮設住宅等支援は併用できない

 (安易に仮設住宅等に入居してしまうと、支援制度により住宅修理をしようとした時、59万5千円を無駄にしてしまう)

・住宅修理に使える応急修理制度あるにも関わらず、自費で動いてしまった場合、適用されない

・応急修理制度には世帯収入要件が原則あり、撤廃が原則化されないと使えないケースがある

・応急修理制度でお金がもらえると勘違いし、生活再建費用にしようと誤ってあてにしてしまう

・そもそもこれらが社会認知されていない

が挙げられます

注意:被災された方々は最適な支援の選択をされてください。応急仮設住宅等に入居することをいさめるものではありません。

2.被災者生活再建支援法の被災者生活再建支援金の落とし穴

半壊未満世帯には被災者生活再建支援金がそもそも適用されません。水害の恐ろしさは床上浸水したら目も当てられない惨状になることです。しかしながら、法の基には基準値がありまして、床上浸水30cm未満であり、家屋損壊(外的要因とも言います)がなければ一部損壊という、自費での再建が待っています。

では半壊以上は十分な支援があるかと言えば、そうとは言えません。あくまで補助的なものです。具体的には下図の通りです。

筆者作成。
筆者作成。

解説します

全壊認定を受け、建て直す又は別な場所に家を購入するとします。

そこでの支援金は、基礎支援金(100万円)+加算支援金(200万円)=300万円になります。

建て直すにしても、買うにしても到底足りる金額ではありません。

大規模損壊認定を受け、浸水被害のみで適用された場合、床上浸水100cm以上が該当します。2階建ての1階をイメージしてください。

何とか住もうとリフォームをかけます。

そこでの支援金は、基礎支援金(50万円)+加算支援金(100万円)=150万円になります。

1階にある主要な家財が失われます。こちらも到底足りる金額ではありません。

半壊認定を受け、浸水被害のみで適用された場合、床上浸水30cm以上100cm未満が該当します。

甚大水害被害地域ではこの半壊認定が、地域の再建・個人の生活再建に大きな影響を及ぼします。

というのも、大規模損壊と判定された家屋と被害実態はさほど変わらないからです。

そこでの支援金は、基礎支援金(解体等を行うならば100万円)+加算支援金(賃貸住宅に掛かる費用)=150万円になります。

大規模半壊の150万円と一見同等に見えますが、意味合が全く違います。

そして半壊未満と認定をされるケースが要注意です。床上浸水30cm未満の場合、一部損壊とされ支援金がそもそもありません。

家の中に汚水と泥が混じったものが入り、床や畳はダメになります。断熱材の入った壁は汚水を吸い、浸水深さ以上に立ち上り、やがてカビを思わぬ高さで発生させ、場合によっては壁を剥がして修繕しなくてはなりません。

MDF(中密度繊維板)(ホームセンター等で数千円程度で買えるものによく使われてます)で作られた家具は水を吸い、ボロボロで使えません。(臭くて使えないもあります)

たかが、30cm未満と侮れません。被害実態としては大変なことになります。

思わぬ落とし穴に落ちないために

支援金制度や住宅支援制度はあくまで最低限の国からの支援だという前提を持つことです。そして非常に難解です。

それをあてに人生設計をせず、慌てず満足とは言えずとも使える支援を有効に使うため、正しい情報を得ることが大切なことと言えます。

そして、水害大国である日本の支援制度は変わっていかなくてはなりません。より分かりやすく使いやすく。そしてより効果的に。

政治家の皆さん、行政関係者の皆さんは支援制度そのものの改革へ。

市井で暮らす私達は、水害は必ず起こるものと捉え、支援や被害の実態を把握し、時に助け合い、時に備える。

思わぬ落とし穴に誰もが落ちない状態を、今から作られていくことを願っています。

一般社団法人AFW 代表理事

1980年生まれ。元東京電力社員、福島第一、第二原子力発電所に勤務。「次世代に託すことが出来るふるさとを創造する」をモットーに、一般社団法人AFWを設立。福島第一原発と隣合う暮らしの中で、福島第一原発の廃炉現場と地域(社会)とを繋ぐ取組を行っている。福島県内外の中学・高校・大学向けに廃炉現場理解講義や廃炉から社会課題を考える講義を展開。福島県双葉郡浪江町町民の視点を含め、原発事故被災地域のガイド・講話なども務める。双葉郡楢葉町で友人が運営する古民家を協働運営しながら、交流人口・関係人口拡大にも取り組む。福島県を楽しむイベント等も企画。春・夏は田んぼづくりに勤しんでいる。

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