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なぜバルサは苦しんでいるのか?メッシ、スアレス、ネイマールの記憶と深刻な得点力不足。

森田泰史スポーツライター
主審に駆け寄るアラウホと止めるピケ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

バルセロナが、苦しんでいる。

リーガエスパニョーラ第7節終了時点、3勝3分け1敗で9位(1試合未消化)に位置しているバルセロナ。チャンピオンズリーグではバイエルン・ミュンヘンとベンフィカに2連敗しており、グループステージ敗退の危機に瀕している。

ドリブルするファティ
ドリブルするファティ写真:ロイター/アフロ

「クーマンはバルセロニスモ(バルセロナ主義)を示す存在だ。彼を信頼しなければいけない。これから負傷していた選手も戻ってくる。それに、クーマンはバルサが非常に厳しい状況にあるときに監督を引き受けた」

「クーマンは誠実であり、良い人間だ。彼も私について同じように考えていると思う。状況を改善できるように、全員で取り組みたい」

これはジョアン・ラポルタ会長の言葉だ。連日、ロナルド・クーマン監督の解任の可能性が盛んに報じられているが、現時点では続投させるというのがクラブの考えのようだ。

■メッシの退団

だが依然として問題は残されている。

この夏のリオネル・メッシのバルセロナからの退団は周囲を驚かせた。バルセロナはコロナ禍で財政が圧迫されていた。選手登録の問題で、メッシを放出せざるを得なかったといわれている。

先日、スペインのラジオ局『コペ』が報じたところによれば、バルセロナの2021−22シーズンのサラリーキャップは9700万ユーロ(約128億円)。それはラ・リーガで7番目の数字だった。

2020−21シーズン(3億8200万ユーロ/約496億円/ラ・リーガで2番目)と比較して、劇的な数値の変化だ。メッシだけではなく、移籍市場が閉まる直前にアントワーヌ・グリーズマンをアトレティコ・マドリーに移籍させたのも、こういった事情からである。

■MSNの時代

ただ、メッシとグリーズマンの不在感は明らかだ。昨季、この2選手は58得点27アシストと多くのゴールに絡んでいた。

思えば、近年のバルセロナにはゴールラッシュのイメージがある。それは、やはり、「MSN」の影響が強いだろう。「MSN」とは2014年から2017年にかけてバルセロナで形成されたメッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの3トップである。

メッシ、スアレス、ネイマールはバルセロナの3シーズンで363得点を記録。2014−15シーズンには、チャンピオンズリーグ優勝を含め、コパ・デル・レイ、ラ・リーガと3冠達成に貢献した。2017年夏にネイマール が契約解除金2億2200万ユーロ(約286億円)でパリ・サンジェルマンに移籍するまで、幸福な関係は続いていた。

新たに背番号9を背負うメンフィス・デパイ
新たに背番号9を背負うメンフィス・デパイ写真:なかしまだいすけ/アフロ

バルセロナは今季開幕前にメンフィス・デパイ(フリートランスファー/前所属リヨン)、セルヒオ・アグエロ(フリートランスファー/マンチェスター ・シティ)、ルーク・デ・ヨング(レンタル/セビージャ)を獲得している。

ただ、毎年のようにアタッカーが抜けていき、残された穴は大きかった。

デパイ(3得点)、L・デ・ヨング(1得点)、そしてアグエロに関しては負傷離脱中だ。新加入の選手に限らずとも、マルティン・ブライスワイト(2得点)、アンス・ファティ(1得点)、ジェラール・ピケ(1得点)、ロナウド・アラウホ(1得点)と得点力を示している選手はいない。

選手に指示を送るクーマン監督
選手に指示を送るクーマン監督写真:なかしまだいすけ/アフロ

「メッシの退団は非常に堪える。当然だよ。だがページをめくらなければいけない。もっと働かなければいけない。ほかの選手が彼のポジションに入って、主役になるかもしれない。ただ、もう、メッシはいないんだ」とはメッシ退団時のクーマン監督のコメントだ。

「我々はその他大勢の選手について話しているのではない。リオネル・メッシについて話しているんだ。彼は長年にわたり、世界一の選手だった。誰もが失望しているよ。だが気持ちを切り替える必要がある。この困難な状況を理解しなければいけない」

「当然、得点を決めるのは難しくなるだろう。メッシ以外の選手が、一歩前進して、もっと貢献していく必要がある。個々の選手の話ではなく、チーム全体の話だ。ゴールは一人で決めるものではない。全員の仕事だ。何人かの選手が負傷から復帰すれば、我々にはまだ強いチームがある。ハードワークして、人々の期待に応えたい」

退団したメッシ
退団したメッシ写真:なかしまだいすけ/アフロ

クーマン監督の言葉は、現状、体現されているとは言い難い。前述したゴール数がその証拠であり、何よりバルセロナの攻撃からゴールに向かう道筋と形が見えてこない。

メッシは、ある種の“ソリスト”だった。だが、ただのソリストではない。自分が輝き、尚且つチームメートを輝かせる極上のソリストだった。

天才的なソリストに支えられていたチームは、しかし、現在宙に浮いている。メス・ケ・ウン・クルブ(クラブ以上の存在)を謳うバルセロナの、本質が問われている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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