Yahoo!ニュース

アジアカップ招集問題、久保建英を特例に「新ルール」を!CLベスト8の価値

小宮良之スポーツライター・小説家
レアル・ソシエダの久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

「アジアカップでクラブ不在になる懸念」

 12月4日、スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティボ』は記事でそう伝えている。レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の主力である久保建英の動向を危惧する内容だ。

「久保が日本代表として(1月中旬から2月上旬にかけて開催する)アジアカップに参加した場合、1月2日のアラベス戦後からラ・リーガ3試合を欠場することになるだろう。その一つはアスレティック・ビルバオとのバスクダービー。決勝まで勝ち進んだ場合、それでは収まらない。シーズンの分岐点となる時期でスペイン国王杯もあるし、チャンピオンズリーグ(CL)にも間に合わないだろう」

 要約すると、そんなところか。

 日本代表がアジアカップ決勝(2月10日)に進出した場合、ラ・レアルにとってはレアル・マドリードやFCバルセロナと対戦するよう重要度の高いバスクダービーを含め、リーグ戦5試合で欠場になる。国王杯を勝ち進んだ場合、さらに最大4試合に出場できない。何よりCL決勝トーナメント1レグは出場も怪しい。トータル10試合だ。

 しかも、カタールでの戦いは「FIFAウィルス」でコンディションの問題を抱えるリスクもある。どう考えても、招集を避けたい。クラブにとっては損失でしかないからだ。

 そこで地元紙は暗に「クラブが日本サッカー協会に不参加を要請し、選手本人が招集を拒否することはできないか」と示唆しているのだが…。

久保の招集を決めるのはラ・レアルではない

 FIFAが決めた代表戦に関しては、代表チームが招集する権利を持っている。たとえクラブが辞退を申し出ても、代表チームはそれを拒否できる。それがレギュレーションだ。

 選手本人にも選択肢はない。もちろん、クラブに専念する自由はある。しかし(ケガなど理由がなかったら)代表に二度と呼ばれないほどのペナルティを受けるだろう。

「想像してみてください。もし誰もがそのようなことをすれば(招集拒否)、アジアカップは行われないも同然で」

 イマノル・アルグアシル監督も、会見で皮肉交じりに一連の招集問題に答えている。クラブとして招集拒否することはないと明言。繰り返すが、ルール上、不可能だからだ。

 しかし、ラ・レアルとしては久保をシーズン途中で抜かれることは相当な痛手と言える。久保不在でCLを勝ち抜けるのか。戦力ダウンは計り知れない。

 久保がCLに間に合うか、は今のところ2分の1の可能性だろう。抽選会で2月13,14日、もしくは20,21日になる、後者の場合は物理的に出場可能。ただ、スペイン帰国は決勝進出だと最短で13日以降になり、1週間足らずで決戦に備えなければらず、CLは甘い戦いではない。

 久保はアジアカップを戦い、ラ・レアルでの1カ月を棒に振るべきなのか。

久保を特例に新ルールを

 久保の処遇を決定できるのは、日本代表を率いる森保一監督だけである。

 逆説すれば、森保監督だけが久保にラ・レアルでのプレーを許すことができるのだ。

 アジアカップとCL。二つを天秤に乗せた場合、サッカー界では断然、後者の方がプライオリティは高い。

 アジアの盟主になっても、世界的には小さなニュースで伝えられる程度。欧州や南米の人にとっては、日本人が東南アジア王者を見るに近い。素晴らしいことだが、それ以上でも以下ではないだろう。

 しかしCLでの戦いは別である。そこで勝利をつかみ、活躍を遂げることは、国際的なインパクトをもたらす。さらにCLベスト8まで進み、世界のトップクラブとぶつかり合う試合の価値は強烈だ。

 そこで、CLで主力として勝ち残る久保は特例にならないか。

<CLベスト16に進出したクラブの主力選手はアジアカップに招集しない>

 例えば、そんな新ルールは不可能か?

 今後も続くルールとして決めるのも、これからの日本代表のマネジメントでは重要になる。なぜなら、これだけ大勢の日本人選手が欧州各国リーグに渡って、そこを戦いの場にしている。そこで新たなルール作りをすることによって、アジアカップ優勝も素晴らしいが、CL日本人選手として日本サッカーに貢献してもらうのも一案のはずだ。

 線引きをするルールは欠かせない。さもなければ、選手の決断に対してナショナリズムの暴走から非難が向かうかもしれないからだ。

 そしてルール化しなかったら、”CL抽選会次第”になってしまう。これは暢気な話で、そこからもろもろを決められるほど日程に猶予はない。だからこそ、あらかじめ、線引きをしておく必要がある。「半分の確率で出られる」では、あまりに場当たり的だ。

 選手本人がアジアカップ参加を求めたとしても、ルールで諫めてCLでの成功を誓わせるべきだろう。そういう時代が来た。

<久保を特例にした新ルールを作る>

 一考の余地はあるはずだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事