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羽生竜王の復調は本物か?――竜王戦七番勝負中間展望

古作登大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員
タイトル獲得通算100期の偉業に近づいた羽生善治竜王(写真:つのだよしお/アフロ)

 10月10、11日に開幕した第31期竜王戦(読売新聞社主催)七番勝負は第1局、第2局とも羽生善治竜王(48)が挑戦者の広瀬章人八段(31)を破り2連勝。防衛とタイトル獲得通算100期の偉業達成に向け好スタートを切った。

 開幕前、筆者は今年度自己最多の11連勝を記録するなど好調の広瀬八段有利と予想していたが、直前まで6勝4敗と今一つの調子だった羽生竜王が七番勝負を優位に進めている。

 今後の展開を予想するため、第1局と第2局の棋譜を将棋AI(人工知能)で分析してみた。

第1局は混戦を羽生竜王が抜け出す

第1局▲羽生竜王(先手)-△広瀬八段戦の形勢グラフ
第1局▲羽生竜王(先手)-△広瀬八段戦の形勢グラフ

 分析に使ったソフトはApery(平岡拓也氏ら開発)。棒グラフの上が先手有利(評価値プラス)の数値、下が後手有利(評価値マイナス)を示す。

 戦型は予想通り角換わりに進んだが、近年持ち時間の長いタイトル戦での典型的パターンとなっている先手番の優位を羽生竜王が生かす展開にはならなかった。

 本格的な戦いが始まった中盤50手~70手のあたりでは、後手広瀬八段がわずかにリードする場面さえ見られた。ただし、終盤に入ってからの緩急自在に妙手を織り交ぜた勝ち方のうまさは、さすがにタイトル獲得99期の「年輪」を感じさせるものだった。

第2局は広瀬八段の逆転負け

第2局▲広瀬八段(先手)-△羽生竜王戦の形勢グラフ
第2局▲広瀬八段(先手)-△羽生竜王戦の形勢グラフ

 10月23、24日に行われた第2局は1日目で先手番の広瀬八段が、羽生竜王の無理気味の攻めを堂々と受けて立ち優位を築いた。

 ソフトの評価値はプラス400点前後で、有利から優勢(プラス500点程度)に近い差がついた。

 2日目に入ってから羽生竜王の攻めは次第に心細くなる。ところが評価値が600点ほど差のついた局面で、受けを続けていた広瀬八段に疲れがでたのだろうか、ミスを突かれて形勢逆転した。

 グラフをご覧いただければわかるとおり、わずか数手の応酬で先手優勢から後手優勢に激変、そのまま後手が攻め切った。

第3局が七番勝負のカギ

 ここまで見てきたデータから、過去2局は羽生竜王が完全復調したというより広瀬八段が力を出し切れていない、もしくは調子がピークを過ぎ下降した結果と考えられる。

 11月1、2日に行われる第3局の先手番で羽生竜王が序盤から微差のリードを拡大する「横綱相撲」を見せるようなら防衛濃厚。

 広瀬八段が後手番の不利を跳ね返す内容で1勝をあげれば次の第4局は先手番、七番勝負の行方は混沌となるだろう。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員

1963年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修卒業。1982年大学生の時に日本将棋連盟新進棋士奨励会に1級で入会、同期に羽生善治、森内俊之ら。三段まで進み、退会後毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に入社、1996年~2002年「週刊将棋」編集長。のち囲碁書籍編集長、ネット事業課長を経て退職。NHK・BS2「囲碁・将棋ウィークリー」司会(1996年~1998年)。2008年から大阪商業大学アミューズメント産業研究所で囲碁・将棋を中心とした頭脳スポーツ、遊戯史研究に従事。大阪商業大学公共学部助教(2018年~)。趣味は将棋、囲碁、テニス、ゴルフ、スキューバダイビング。

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