「オジュウチョウサンはかなり悔しがっている」障害の絶対王者が4年8か月ぶりの敗戦「また1から練習を」
複勝の上限も下限も1.0倍が不的中という脅威
"障害の絶対王者"と呼ばれるオジュウチョウサンが障害戦で負けた。2016年3月に障害オープンで負けて以来、4年8か月にわたり障害戦で勝ち続けていただけに、とうとうこの日が来たのか、と感じさせた。
これまで障害戦で13連勝してきたオジュウチョウサンへの"絶対感"は競馬ファンだけでなく、競馬に関わる人たちのあいだにもあった。この京都ジャンプS、今年はオジュウチョウサンが出走を表明していたこともあり、目標を切り替えたライバルは少なくない。昨年は13頭立てだったが、今年は少頭数6頭でのレースとなった。
中央競馬には出走する馬が5頭以上の場合に発売される"複勝"という馬券がある。これは、3着までに入る馬を当てる馬券なのだが、出走する馬が7頭以下の場合は2着までが的中となる。また、複勝は該当する馬の組み合わせによってオッズが変動するため、上限と下限を知らせて発売される。
今回、オジュウチョウサンの単勝最終オッズは1.1倍。複勝最終オッズは上限も下限も1.0倍、複勝シェア85.9%を占めるほど厚い期待が寄せられていた。
■京都ジャンプS(J・GIII) / カンテレ競馬BEAT【公式】
優勝したタガノエスプレッソは6年前のデイリー杯2歳Sを優勝、平地でもオープンまで上りつめた実績がある。ゴール手前でオジュウチョウサンを差して2着にきたブライトクォーツは2019年中山大障害の2着馬と、オジュウチョウサンを負かした2頭も実力馬であった
レース後、機嫌が悪いオジュウチョウサン
オジュウチョウサンの長所は独特な低くスピードのある障害飛越だ。よっこらしょ、とジャンプするというより、障害を掻き分け跨ぐように力強く飛ぶ。
しかし、京都ジャンプSでのオジュウチョウサンの飛越は、これまでに比べると力強さが足りないように見受けられた。躓きそうになりながらも体勢を立て直し、何もなかったかのように障害を飛び続けるのはいつもどおりなのだが…。
最終障害を終えた後の走りもいつもの感じではなかったし、前をいくタガノエスプレッソをとらえられないのは仕方ないとしても、内外で競っていたビッグスモーキーを負かせないどころか追い込むブライトクォーツに差されてしまった。
明らかにこれまでのオジュウチョウサンではない。
まず、心配したのはオジュウチョウサンの体調だ。障害に脚をぶつけると痺れて走れなくなったり、あとから脚元が悪くなることもある。
レース後、オジュウチョウサンの担当厩務員である長沼さんに連絡を入れた。すると、
「レースでの外傷はありますが、元気ですよ」
とのこと。まずはひと安心だ。
しかし…
「負けっ面が悪いですね。有馬記念で負けたときのように機嫌が悪いです。オジュウはかなり悔しがっていますよ」
やはり、だ。頭のいいオジュウチョウサンはレースを負けたことを理解しているようだ。
筆者は有馬記念のレース直後、オジュウチョウサンの様子を見に中山競馬場の出張厩舎へ足を運んだ時のことを思い出した。あの日、レース後のオジュウチョウサンは荒れていた。レースが終わって30分以上経つのに、鋭い目つきで闘志を剥き出しにしていた。
この日のレース後、あの有馬記念を負けたときと同じような顔をしているのだろう、というのは容易に想像がつく。
しかし、それでこそオジュウ。負けん気の強さが衰えを知らないことに安堵した。その類稀なる闘争心がオジュウチョウサンのエネルギーの源であり、強さの火種なのだ。
■過去記事
有馬記念、オジュウチョウサン9着を称えるファンの声援に陣営は涙。勝者ブラストワンピースなどのその後
■2018年有馬記念 オジュウチョウサン9着
次走に向けてリスタート「また一からやってみよう」
長沼厩務員とレースを振り返ったが、やはり障害の飛越が納得いくものではなかったようだ。
「年齢を重ねたなりの変化はありますが、体調はこの中間も良かったです。阪神競馬場に到着してから行うスクーリングは、いつも以上に入念にやりました。でも、今回のレースでの飛越はいつもオジュウではなかった。」
次の目標は2016年、2017年と連覇している中山大障害(J.GI、12月26日中山競馬場)。オジュウチョウサンの状態に問題がなければ、3年ぶりの出走となるだろう。
※その後、左前脚の状態が万全ではないことから、中山大障害の回避が発表された。
「シン(主戦の石神深一騎手)とは、また一からやってみよう、と話しているんです。」
障害練習は、まず丸太をまたぐところから始める。そこから、徐々にハードルの高さを上げていき、レースに向けて飛越を完成させていく。障害競走の常連たちは、レース間隔があいて久しぶりに障害と飛ぶときも基礎の基礎からやり直すことは少ない。でも、次に向けて陣営はあえて一からやりなおそうとしていた。
「根性ありますからね、オジュウは。9歳ですが、まだまだ若いですよ。」
中山大障害は京都ジャンプSより距離も延び、よりタフさが要求される。持前のタフさが生きるという点でも、オジュウチョウサンが勝つ可能性は十二分にある。
年末、またあの力強い飛越が見れることを熱く期待したい。
■美浦トレセンでのオジュウチョウサン
■2016年中山大障害 優勝馬オジュウチョウサン
■2017年中山大障害 優勝馬オジュウチョウサン
■過去記事