有馬記念、オジュウチョウサン9着を称えるファンの声援に陣営は涙。勝者ブラストワンピースなどのその後
「負けたのに『オジュウ、ご苦労さま』と声をかけて貰えるなんて…」
障害から平地2戦まで11連勝を続けていたオジュウチョウサンが負けた。しかし、実に立派なレースぶりだった。スタート直後は先頭に立ち、1周目のスタンド前でキセキにハナは譲ったものの、終始内ラチ沿いに3番手でレースを進め、3、4コーナー付近から武豊騎手の追い出しに応えてラストスパートに入った。直線では、いつもどおりさらに重心を下げ、果敢に先頭を奪い取ろうとする。その後、後続に抜かれはしたが、持ち前のスタミナで最後まで粘りこんでの9着。平地では1000万下の南武特別を勝ったばかりの条件馬が、初めて古馬一線級と戦ったのだ。大健闘と言っていい。
オジュウチョウサンを担当する長沼厩務員は、激戦を終えた愛馬を出迎えた。笑顔ではあったが、時にポロリと涙もこぼれたという。
「着順は9着だったけれど、これだけ頑張ってくれて…凄く感激しました。」
武豊騎手はレース後、引きあげてきたときに長沼厩務員に笑顔で話した。
「いやー、すごい。たいしたもんですよ。」
その後、間もなく厩舎へ引き上げるのだが、そのオジュウチョウサンの姿を多くのファンが見えなくなるまで追いかけていた。
「負けた後、鞍を外して厩舎へ帰ろうとしていたら、お客さんが『おつかれさま』と声をかけてくれるんですよ。」
荒々しい息遣いに、泥だらけの体。もちろん掛け慣れた優勝レイはない。
「それでも、『オジュウ、ご苦労さま』なんて言われて…。またウルっときちゃいましたよ。」
スポーツとして競馬を見てくれるファンは増えたが、競馬場がギャンブルの場であることは今も変わりない。関係者は声援も受け取るが、馬が負けたときはヤジも浴びる。そして、厩舎関係者はそのキャリアが古ければ古いほど、それを当然のこととして受け止めている。オジュウチョウサンを担当する長沼さんは父も同職に就いていたこともあり、子供時代からそういった風潮は当たり前のこととしてとらえてきた。それゆえ、感激もひとしおだったのだ。
レース後、武豊騎手はオジュウチョウサンの健闘を称えた。
「馬場が緩くなったので道中はノメっていましたけど、精神的にタフなのか、そこでもまた頑張ってくれました。(最後まで)よく頑張ってくれましたよ。さすがに今まで走ったメンバーを考えると有馬記念ですし、2番手を追走して堂々と走ったと思います。凄い馬だな、と改めて思いました。」
レースでは完全に力を出し切った。厩舎に戻ってきて体を洗われている時、レースから30分以上経っていたがまだ息は荒々しかった。レースを終えると眼が優しくなる馬もいるが、オジュウチョウサンの眼はまだ闘志が感じられる鋭いものだった。
放牧も含めて、今後の予定について和田正一郎調教師に伺ったところ「未定」とのこと。今後の動向に注目したい。
ブラストワンピースを優勝に導いた池添謙一騎手は外国人連続GI勝利をストップ
優勝したのは3歳馬のブラストワンピース。クラシックでは負けて強しの競馬を繰り返していたが、菊花賞4着のあと満を持して参戦して結果を出した。10月14日の秋華賞以来、外国人ジョッキーが10週連続でGIレースを勝ち続けていたが、それを止めたのは大一番に強い池添謙一騎手だった。
「この馬はGIをとれると言い続けてきたのに、ダービー、菊花賞と結果を出せなかった。だから、グランプリはなんとしてもという気持ちが強かったです。少し体質が弱い馬で間隔を詰めて使うことができない中で大事に大事に走ってきました。菊花賞から有馬記念の短期間のあいだに背腰の筋肉もついていますし、すごく良くなっているなと感じていました。来年はもっともっと良くなるんじゃないでしょうか。」
ファン投票第1位だったレイデオロは2着。鞍上のクリストフ・ルメール騎手は「完璧なレースだった。でも馬場が柔らかくて3、4コーナーの反応がちょっと遅かった」とクビ差の惜敗を振り返った。
そして、5着に敗れたが果敢に逃げたキセキ。14番枠からポジションと取りに行き、1周目のスタンド前から残り100mまで先頭をキープし続けた後、5着まで粘りこんだ。今季4戦ともコンビを組んだ川田将雅騎手は「具合が良かった分、より前に進む気持ちが強かった」と今回も前で競馬を進めた理由を話した。そして、「この秋4戦目まで頑張り続けたキセキに敬意を払いたい」と愛馬を称えた。
2018年の有馬記念はオジュウチョウサンの参戦など例年にない面白味があった。2着のレイデオロや5着のキセキは"負けて強し"の印象を残したし、3着のシュヴァルグランは実績のわりに人気がなく馬券ファンを楽しませた。2016年の覇者であるサトノダイヤモンドは6着であったが無事ラストランを完走した。多くのファンの方々の記憶に残る有馬記念となったに違いない。