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お見事!中山グランドジャンプ5連覇のオジュウチョウサンが青年から中年まで障害王者として君臨する凄さ

花岡貴子ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家
2018年中山グランドJ3連覇時のオジュウチョウサン(撮影:柴谷記好)

主戦の石神騎手「本当に素晴らしい馬。感謝しています。」

 18日、障害の春のチャンピオンを決める中山グランドジャンプ(J・GI、中山競馬場、障害4250m)は人気のオジュウチョウサンが制して同レース5連覇を決めた。JRAにグレード制が導入されて以降、同一GIを同じ馬が5連覇するのは史上初。障害戦はJ・GI7勝を含む16勝目、障害重賞は13連勝中の記録更新中だ。

 この日の中山競馬場の芝コースは不良だった。JRAの馬場状態は良、やや重、重、不良の4段階で評価されるが、最も含水率が高く馬への負担も大きいのが不良だ。ただでさえ、平地に比べると事故の多いのが障害競走。雨も降り続き、不良の中でもさらに悪い状態だった。そこを500キロの馬たちが走ったり飛んだりするのだから、当然ながら滑ったりノメッたりする。実際、オジュウチョウサンも何度となく躓いているように見えた。しかし、そんな極悪馬場を克服し、実に危なげない走りで偉業を達成したのだから本当に恐れ入る。

 オジュウチョウサンとともに同一重賞5連覇を達成した石神深一騎手はレース後、感慨深く答えた。

「ホッとしています。凄い、素晴らしい馬だと思います。5連覇という偉業を達成させてくれて本当にありがたく思っています。」

 レースは不良馬場の影響で「コーナーは特に滑りやすかった。ノメッたりはしていましたけれども、力のある馬なのでこなしてくれたのだと思います」と振り返った。

「メドウラークが逃げて(メドウラークに騎乗する)北沢さんがいいペースで流してくれていたので、うまく折り合えました。早めに西谷さん(騎乗のブライトクォーツ)がきたので早めに抜け出すことにはなりましたけれども、最後まで踏ん張ってくれました。」

 そして、これから連勝を伸ばしてくれるか?という問いに「負けないと思います」と力強く答えた。

ゴール前で抜け出しての初J・GI制覇(2016年中山グランドジャンプ)

J・GI3連覇、重賞6連勝中でもあった2連覇(2017年中山グランドジャンプ)

思わず鞍上が振り返る大差勝ち、圧巻の3連覇(2018年中山グランドジャンプ)

平地と二刀流をこなしながらの4連覇(2019年中山グランドジャンプ)

不良馬場でも危なげない走りでの5連覇(2020年中山グランドジャンプ)

極悪馬場に思わず出たガッツポーズ

 レースを終えたオジュウチョウサンは無事、同日午後7時ごろ、所属厩舎のあるJRA美浦トレーニングセンターに戻っている。

 担当する長沼厩務員によれば、相当なタフさが要求される馬場状態だっただけにオジュウチョウサンは「さすがに疲れてはいるものの、無事に過ごしている」とのことだった。

 過去の取材からも、オジュウチョウサンは毎レースで全力を出し切るため、そのレース内容次第で疲労の具合の幅が大きい印象がある。その中で、今日の馬場では普段以上に体力を使っているのは容易にうかがい知れる。

 筆者はレース後、ファンの皆さんのメッセージ等を追うべくTwitterを見ていたが、その中で印象深い姿を見つけた。長沼厩務員がガッツポーズをしてオジュウチョウサンと石神騎手を出迎えている写真だ。

 そこで、この時の心境をご本人である長沼厩務員に聞いてみた。

「たくさんの支持を頂いている中で、あんなタフな馬場を克服して5連覇できるのか。オジュウの力は信じていても心の中には不安もありました。それだけに、無事に走ってくれて勝ってくれたオジュウを迎えに行ったとき、思わずガッツポーズが出ました。」

 万全の仕上げで送り出しても、この状況下ではどうしても不安がよぎる。そんな中でごく自然に出たガッツポーズだったのだ。

青年から中年までの5年間、トップに立ち続けている凄さ

 オジュウチョウサンは今年で9歳になった。5歳の春に初めて中山グランドジャンプを制してから5年間、同じ重賞を勝ち続けているのだ。

 馬の年齢は1年でおよそ人間の4年に相当すると言われている。加齢と共に相当する年数は若干減るが、最初に勝った5歳が人間でいう青年時代ならば、今の9歳は明らかに中年である。これだけ長きにわたり、しかも途中で有馬記念(GI)を含む平地の闘いを挟みながらも障害GIを勝ち続けるのは、本当に類まれなる偉業だ。

 無観客競馬が続くこの中で、オジュウチョウサンの不良馬場に立ち向かい、さまざまな障害を飛び越えながら前へ前へと進んでいく姿は胸を打つものがあった。

 その思いは毎日オジュウチョウサンの世話をする長沼厩務員も同じだった。

「本当にあのタフな馬場を、さぞしんどかったと思うのですがしっかりと走ってくれて。オジュウには頭が下がる思いです。」

 そして、石神深一騎手もまたファンの皆さんの前で競馬が出来ることを願った。

「いつかオジュウチョウサンのレースを生で見て応援してくれれば、と思います。競馬場に来れるようになったぜひ競馬場にきて応援してください。」(石神騎手)

有馬記念出走前に作成された映像「二刀流~稀代の名ジャンパー 有馬記念に挑む~」

ライター、脚本&漫画原作、競馬評論家

競馬の主役は競走馬ですが、彼らは言葉を話せない。だからこそ、競走馬の知られぬ努力、ふと見せる優しさ、そして並外れた心身の強靭さなどの素晴らしさを伝えてたいです。ディープインパクト、ブエナビスタ、アグネスタキオン等数々の名馬に密着。栗東・美浦トレセン、海外等にいます。競艇・オートレースも含めた執筆歴:Number/夕刊フジ/週刊競馬ブック等。ライターの前職は汎用機SEだった縁で「Evernoteを使いこなす」等IT単行本を執筆。創作はドラマ脚本「史上最悪のデート(NTV)」、漫画原作「おっぱいジョッキー(PN:チャーリー☆正)」等も書くマルチライター。グッズのデザインやプロデュースもしてます。

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