デモ参加は就活に悪影響なのか?~飛び交う噂を徹底検証その1
まず、前提として石渡の政治信条から
安全保障関連法案に反対するデモに参加すると、就活で不利になる、人生が詰むなどの噂が飛び交っています。
それだけ、安全保障関連法案への関心が高いとも言えます。この噂の是非について検証してみました。
なお、政治関連の話題を取り上げると、どういう立場・信条か、気になる方がときどきいらっしゃいます。
先回りして、お伝えしておくと、安保法案の整備は必要と考えています。
ただ、今国会で無理に通すべきだったかどうかは疑問(これ以上は本題とは無関係なので省略)。
ついでに申し上げれば、共産党関連(確か学生団体が主催)の就活イベントには1度、パネラーとして出席しました。
で、そのとき、赤旗も民青新聞も来ていて、他のパネラーの1人が宮本岳志代議士。
ここでおとなしく「宮本先生、最高っすね」と持ち上げればいいものを、
「就活関連では、どうせ政治家の皆さん、共産党も含めてやる気はないでしょ」
などなど、喧嘩売りまくり。
確か、会場にいた共産党シンパとおぼしき学生からの質問にもネガティブな返答をした記憶が。
結果、おそらくは当初予定よりも記事が小さくなったのでしょう。
その後、気のせいか、左サイドのイベントへのお誘いは、ピタッとなくなりました。
別の機会に譲りますが、就活デモにネガティブな立場を取ったことも影響したかな。
大体において、『就活のバカヤロー』を出したから、何でもかんでも企業批判・学生擁護と思い込む方がおかしいとか、それをはっきり伝えるから、なおます、左に嫌われる(苦笑)。
かくのごとく、左サイドに嫌われているという前提でお読みください。
ま、左にも右にも友人・知人はそれぞれいますが、では、みんな仲良く(中・翼/程度の低い政治ギャグ)と行かないのは、この石渡の人徳のなさのゆえんです。
安保デモが盛り上がる中、行橋市議がブログで言及
さて、本題。
安保デモが盛り上がる中、インターネット上では、「デモ参加が就活で不利になる?」との噂が出回るようになります。
安全保障関連法案への反対を表明する大学生グループ「SEALDs(シールズ 自由と民主主義のための学生緊急行動)」が共産党・民青と関係あるとかないとか、その辺も話題となる中、福岡県行橋市・小坪慎也市議がブログでデモと就活の関連について言及します。
7月26日に投稿した
と題するブログ記事では、SEALDSとデモ参加学生をばっさり。
デモ参加学生を
「腐った蜜柑」
と表現、多くが就職活動で
「不本意な結果」
に終わると指摘しています。
※2015年8月2日・追記/小坪しんや市議ブログ2015年7月31日投稿記事「@jcast_news は間違っている。私はそんなことは書いていない。」によると、
「学生によるデモ」や「学生による政治活動」についての言及であることの確認を求められたのだ。私はこれを否定している。
腐った蜜柑とは何か、である。これは「通常の学生」を指さない。文中に「デモに参加した学生」が存在しない以上、成り立つはずがない。
ここまで書けばおわかりのように、「過激派・公安監視対象の団体に所属する者」(学生以外)及び「すでに混同される状況にある者」を指す。
とのことです。
さらに、デモ参加をあおる大学教員も、ばっさり切り捨て、
「大人たちよ、責任を果たせ。これから社会に羽ばたく、新たな若鳥たちがいる。社会のルールを、彼らに伝えて頂きたい」
とのこと。
ま、この辺は小坪市議の地元・福岡で、講義中にデモの練習をする(教員側の主張だと、他のデモなども取り上げたとのこと)ことから騒ぎとなったことも影響しているのでしょう。
小坪市議の投稿はさらに賛否両論となり、朝日新聞やJCASTニュースでも記事化。このYahoo!個人でも、みわよしこさんが記事にされています。
デモに参加すると就職に不利? 「人生詰む」飛び交う(朝日新聞7月30日)
デモに参加すると「就活が不利になる」 SNSや掲示板で拡散する話は本当なのか(JCASTニュース・7月29日)
みわよしこ デモに参加したら、人生は「詰む」のか?(7月30日)
面接でそもそも質問する余裕はあるか?
この中では、JCASTニュースで私はコメントを出しています。
まず、素朴な疑問として、デモに参加したかどうか、企業側がわざわざ聞くか、という点です。
聞いた時点で、差別企業扱いとなり、コンプライアンスがどうなっているのか、と問題になります。
そのことをよくわかっている採用担当者はまず質問しません。
デモ参加を質問するとしたら、コンプライアンスを理解していない人事部門以外の社員か役員。
ただし、大企業はもちろん、中小企業でもコンプライアンスがこれだけうるさく言われるこの現代において、そこまで多くいるか、はなはだ疑問です。
仮に聞きたいと考えていたとしましょう。
しかし、短い面接時間で、志望動機に自己PR、学生時代にがんばったことなど聞かなければならないことはいくらでもあります。
デモ参加の是非を問う余裕が企業側にあるかどうか、と言えばまずありません。
企業側にも取材したところ、
「聞くわけないでしょ」
との企業ばかりでした。
顔が出ればアウト?
では、マスコミ、特にテレビのインタビューなどで顔が出た場合はどうか。
これも、
「当たり前のことを聞くんじゃねえよ、こっちは忙しいのだからさあ」
と渋る採用担当者をなだめすかしつ、聞いてみました。
結果は、「ほとんど影響なし」。
主催ないし中心メンバーかどうか、そこを気にする企業もありましたが、
「デモに参加して、インタビューに出たから、だから何なんだ、という話」
と、うるさそうに話す企業が圧倒的多数。
思想信条調査はアウト、裁判は
そもそも、厚生労働省は、思想や支持政党、購読紙などについて、
「適性と能力に関係がない事項」
と定めています。
エントリーシートでの設問、または面接での質問は、就職差別につながりかねない、と警告しています。
裁判では、三菱樹脂事件が有名です。
企業側の就職拒否理由が思想信条であったことに対して、最高裁は企業側勝訴の判決。
しかし、強い批判から三菱樹脂はこの学生を採用しています。
前出の朝日新聞記事から。
職業安定法が99年に改正され、企業が求職者の個人情報を集めるのは業務に必要な範囲に限られた。厚生労働省は思想信条などに関わる情報の収集を原則禁止する指針を出している。
雇用問題に詳しい成蹊大の原昌登教授(労働法)は「労働法学界では、職務内容や能力と関連がないにもかかわらず、思想信条を理由に採用拒否するような行為は公序良俗に反し不法行為になるという考えが多数派だ」と説明する。また、思想を理由に内定を取り消された場合は、労働基準法違反で無効になる。
「赤い学生お断り」の昭和はどうだった?
では、主催ないし中心メンバーだと、就活で不利になるのでしょうか。これもそうとも言い切れません。
そのことは歴史が示しています。
デモだけでなく、学生運動が盛んだったのが戦後です。1950年代、1960年代、1970年代と盛り上がりました。
その過程で、学生運動・思想信条と就活がどんな関係だったか、それを示す文献が『日本就職史』(尾崎盛光、文藝春秋、1967年)です。
東京帝国大文学部社会学科→池貝自動車(現・小松製作所)→東京大文学部事務長→文教大教授というキャリアを歩んだ著者は就活の歴史を丹念に調べて、後世に残しています。
この『日本就職史』から、関連個所を探してみました。
なお、以降、引用していきますが、結構実名が出て、この石渡以上に皮肉を利かせています。
労働攻勢が一段落すると、学生運動の厳しさだけが世間の注目を浴びるようになった。
「どこも思想調査は入念で、とくに証券会社はきびしい。学部長、学部事務室、学生課等に問合せたり、興信所、私立探偵を使っての調査に大童(おおわらわ)である」(「東京大学学生新聞」24年12月12日号)
このほうは噂ではなく、会社側もはっきりといっている。
「支援する政党は今年は民自党が圧倒的に多く、昨年は民主党、一昨年は社会党でした。思想堅実な人を望みますからその点できるだけ精密に調査しました」(鋼管)
「明朗で思想堅実身体強健な人を選びました。証券会社は赤い人は絶対お断りです。その点はとくに注意して調べました」(大和証券)
※『日本就職史』274ページ
鋼管、大和証券など実名が出ていて、次のページには大日本印刷のちょっとした騒ぎも掲載。
今なら考えられないことで、まだ差別扱いにはなっていませんでした。それに、企業側が思想信条にこだわっていたことを示します。
1952年(昭和27年)、日経連(現・経団連)が「赤い学生お断り」を宣言。就活で政治思想・信条がさらに大きなテーマとなります。
文部省(現・文部科学省)調査によると、1952年卒に対して、「採用に当って特に重視する条件」は、思想が1位(235点、1000点満点中、以下同)、健康2位(223点)、学業成績3位(152点)、人物4位(96点)とのこと。
「各学長と懇談した際にも述べたが、従来の大学の推薦には信頼がおけない。例を上げると、堂々と共産党の党生活をしている者も、大学でかまわず推薦してくる。善し悪しの判断は必要ないが、事実だけは教えて貰いたい。それによってオープンに試験をやれる。大学側が親切に権威をもつ推薦をやってこなければ、赤の排除ということは経営者側の意識だから、その対策をしなければならないわけだ」
※コメントは日経連の鹿内専務理事(『日本就職史』283ページ)
「善し悪しの判断」も何も落とす気満々で「必要ない」もあったものではありません。
では、企業側が共産党支持ないし、学生運動経験者を落としたか、と言えばそんなことはありません。
しかし捨てる神ばかりではない。「私は学生白書も日経連の事も良く知らないが、たとえそうした事が出たにしろ、とくに来年の就職が影響するようなことはない。最近多くなった傾向にはあるが、大体赤い学生なんて昔からいたものだし……」(千代田=三菱=銀行神野人事部次長談)と、わしの友人にも結構おったよ。今さらどうということもあるまい、という腹の大きいところをみせる人もあった。また「当社は成績、思想よりもまず第一に身体強健の人を望む。騒がれている思想問題についてはそんなに気にしていない。面接すれば赤い学生も分るし、それよりもかえって労組あたりで活躍して重役に認められて出世したいというのが、ホワイトカラーたるインテリの希望なのじゃないですか」(東洋高圧人事部長談)と、苦労人らしく、ずいぶん意地の悪いお見通しをなさる向きもあった。
このへんを見越してか、東大や一橋の連中が、そろいもそろって自由党支持を表明しているのでむらむらっときて、僕は社会党支持で愛読書は河上肇の「自叙伝」だと大見えをきり、理路整然と自由党を批判してみごと栄冠を獲得した二人の慶応ボーイもあった。
※『日本就職史』282~283ページ
「労組あたりで」というところが何か引っかかりますが、気にしない企業は気にしなかったということです。
これは昭和だけでなく、大正時代も同じ。
日本棉花の副社長が
「ただ近頃困るのは、せっかく立派と思う人に、ややもすると左傾的思想のひらめきをみとめさす人があることである」
とする一方で、古河電気は「サンデー毎日」大正13年4月6日号でこんなコメントを出しています。
「理論からいえば右と左の区別は明らかであっても、いざ実際問題となると、この人はどちらに属するかと区別することはできない。この会社などは坑夫も多く、労働運動の実際に触れる機会がしばしばあるので、ある程度までは新しい思想をもったものをむしろ必要とする。労働争議の起こった場合、これについてなんらの知識のない者には適当な処置をとることができず、いたずらに時日を遷延して、ますます事件を紛糾させることがある。部内の人でもこの頃はこうした方向の研究は自由にしているくらいである」
このコメントを紹介した、『日本就職史』著者は、こうまとめています。
左翼学生だって月給をやってしまえばこっちのもの、現場では多少社会主義の理論ぐらい知ってたほうがいい、何とかとはさみは使いようで切れる、といった程度のものであったらしい。
「月給をやってしまえばこっちのもの」
にむかっと来る学生もいるでしょうが、まあ、本質を突いています。
売り手市場ともなれば、なおさらで気にする企業はさらに少なくなります。
1960年、安倍首相の祖父、岸信介首相が日米安保条約の新条約批准のために、国会で強行採決。
これにより、安保闘争が激化します。
ウイキペディアによると、「主催者発表で計33万人、警視庁発表で約13万人」という大規模なデモが発生。
当時、東大生だった樺美智子が機動隊との衝突で圧死しています。
当時、学生のデモ参加を指揮していた、ゼンガクレン(全学連)の名は、世界中で報道されるほど鳴り響きました。
では、全学連メンバーやデモ参加学生は、就職で不利な扱いを受けたか、と言えばそんなことはありません。
理由は簡単で当時、売り手市場だったからです。
1961年卒の就職率(学校基本調査)では77.5%。
特に男子学生は78.9%と高く、「青田買い」と言われるようになった時期でもあります。
ふつうなら就職に際して、学生の思想問題が神経質に論ぜられるところだが、「最近は支持政党で試験を落とす会社も少なくなったし、学生の答え方もうまくなった」(三十五年七月六日付朝日新聞)。七、八年前、赤い学生お断りの声明を発して、大いにファイトのあるところを示した日経連も、「まじめな学生が国会デモに参加しているというじゃありませんか。全学連の指導者は困るが、デモに行ったというだけで大会社をしくじることはないでしょうね」(同)
※『日本就職史』308ページ
あれだけ、「赤の排除」と一席ぶっていた鹿内専務理事(産経でしょうね、たぶん)が、当時どんな反応だったか、気になるところ。
結論:参加でも顔出しインタビューでも主催でも影響なし、か
学生運動が盛んだった1960年代でも、売り手市場であれば、それほど影響がなかったことを示しています。
結論から言えば、デモ参加、あるいは参加の上での顔出しインタビューでも、主催・中心メンバーでも、就活にそれほど影響があるか、と言えば関係ありません。
ただし……、というところで、次回に続く。(石渡嶺司)