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【森友学園・加計学園問題】痴劣な“ストーリー”を描いているのは誰なのか

安積明子政治ジャーナリスト
森友学園問題、加計学園問題など、野党の追及は続く(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

作られたストーリー?

「委員が作ったストーリーなんだろう」

 安倍晋三首相は5月28日の参議院予算委員会集中審議で立憲民主党の福山哲郎議員対してこう述べ、委員会を騒然とさせた。福山氏は愛媛県文書に記載されている安倍首相と加計学園の加計孝太郎理事長が面談したという2015年2月25日から安倍首相が加計学園が獣医学部新設を特区申請していたという事実を「初めて知った」とする2017年1月20日までの事実を挙げ、「これらはみんな残っている文書だ。総理関係者の官邸は、みんな総理にこのことを報告しないで勝手に動いたのか」と質問した。

集中審議2日前に送られたファックス

 果たしてこれは安倍首相の言う通り、野党のひとりの議員が作ったストーリーなのか。それにしても不思議な点は、この集中審議に合わせるかのようにその2日前の5月26日に各マスコミに送られた加計学園のファックスだ。

「当時は、獣医学部設置の動きが一時停滞していた時期であり、何らかの打開策を探しておりました。そのような状況の中で、構造改革特区から国家戦略特区を用いた申請にきりかえれば、活路を見いだせるのではないかとの考えから、当時の担当者が実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、県と市に間違った情報を与えてしまったように思うとの事でした。その結果、当時の担当者の不適切な発言が関係者の皆様に、ご迷惑をおかけしてしまったことについて、深くお詫び申し上げます」

 奇妙な点は送信元として「加計学園秘書室」が登録されているものの、ファックスの差出人の氏名が書かれていないことだ。2017年8月24日にワインセラーなど設計図に関する質問に対して回答した時は、広報担当の相談役の氏名と連絡先が明記されていた。

しかし今回のファックスはいったい誰が作った文章かはわからず、さらには間違った情報を愛媛県や今治市に教えた「担当者」が誰なのか氏名も記載がない。よほど慌てていたのか、あるいは慌てざるをえない理由でもあったのか。

なぜ愛媛県や今治市に「嘘」をつかなければならないのか

 さらに理解不能なのは、加計学園の当時の担当者が愛媛県と今治市に「間違った情報」を与えてしまったにもかかわらず、それを愛媛県にも今治市にも報告・謝罪していないことだ。

 そもそも愛媛県、今治市そして加計学園にとって、獣医学部設立とは何だったのか。愛媛県の加戸守行前知事によれば、それは“悲願”だということになる。

 加戸氏が1999年に愛媛県知事に初当選した時、いちばんに取り組んだのが今治市の都市開発事業だった。経営マネジメント部を誘致しようとしたが、計画は途中で頓挫。その一方でBSE問題や鳥インフルエンザ、そして口蹄疫の発生などで、獣医師不足に泣いたという。

 そこに2007年に話が出たのが、岡山理科大学の獣医学部構想だった。「新都市開発と獣医師不足を一気に解消できる、まさに渡りに船だった」と加戸氏は述懐している。

 しかし加戸氏の古巣である文科省のみならず、農水省も獣医師会も獣医学部新設に猛反対。そこで目を付けたのが特区制度だった。福田内閣時代の2007年末に構造特区に申請して以来、やはり獣医師会の力が強く、なかなか門戸は開かれなかったという。

 そうした辛苦を共に乗り越えてきた愛媛県、今治市と加計学園。それなのに加計学園が愛媛県と今治市に虚偽の話をもちかけるだろうか。

 もっとも加戸氏によれば、愛媛県文書の中のその箇所は加計学園からの「聞き書き」ということで、真実性の保障はできないということになる。しかしそれならば、愛媛県が2015年4月2日に内閣府で藤原豊地方創生推進室次長(当時)、官邸で柳瀬唯夫首相秘書官(当時)と面談したメモにも「先日安倍総理と同学園理事長が会食した際に、下村文科大臣が加計学園は課題への回答もないのでけしからんといっているとの発言があった」と記されており、これをNHKがすでに4月9日に報道している。この情報が加計学園の担当者からもたらされたことは明らかなのに、なぜ加計学園はこの時に訂正しなかったのか。

変化する首相の答弁

 同日午後の衆議院予算委員会では、安倍首相は公明党の浜村進議員に対してこう述べた。

「国有地の払い下げやあるいはまた認可に一切かかわっていないということは申し上げたが、お金のやりとりがあって頼まれて行政に働きかけをやったわけではない」

 もちろんお金のやりとりがあって行政に働きかけていたのなら、昭恵夫人は公務員ではないので収賄罪に該当しないとしても、許されない行為であることは間違いない。

 だがかつての答弁は、「私や妻が(土地取得に)関係があったのなら、総理も議員も辞める」というもので、「金銭の授受」は含まれてはいなかった。今回の答弁は「金銭の授受」を入れることで、その範囲がぐっと狭まった。

 国会での発言は議事録に記録され、その矛盾も明らかにされる。野党の一議員はともかく、首相の答弁となると、事前に相当の打ち合わせがあったはずだ。

 安直に「疑念は深まった」とは言いたくはないが、疑念を晴らすどころかわざわざ新しい疑念を生み出している。そのストーリーを描いている人物こそ、国会を混乱させ国民を愚弄しているのではないだろうか。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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