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<朝ドラ「エール」と史実>最大の改変か? 本当の古関裕而は「下戸の愛煙家」だった

辻田真佐憲評論家・近現代史研究者
福島駅前の古関裕而像と金水晶の「古関メロディー」(2019年12月、著者撮影)

コロナ禍により、今月末でいったん放送休止となる朝ドラ「エール」。今週は古関裕而の史実とはあまり関係ない展開ですので、少しさかのぼってみましょう。

今回のテーマは、酒とタバコです。

ドラマでは、主人公の古山裕一はよくお酒を飲みます。父ともそうですし、福島三羽烏ともそうです。お酒は大事なコミュニケーション・ツールになっているようですね。

ところが、史実の古関裕而は驚くほどの下戸でした。妻の金子がこんな文章を残しています。

[古関は]お酒は一滴も飲めません。奈良づけを食べても酔っぱらい、隣席の人が飲んでいるウィスキー紅茶にも頭がふらっとなるといった、極端さです。ですから、宴会などで、どなたも盃をすすめるわけにはゆかず、「これは、おチャケだよ」と、お茶を注いでくれます。

出典:古関金子「やさしいパパで、親切な夫 奈良づけで酔っぱらう酒嫌い」『主婦と生活』8巻13号。

長男の古関正裕氏も、ある座談会で「アルコールの検知器みたいな人でした」と述べていて、思わず笑ってしまいます。

古関の自伝を読んでも、似たようなエピソードが出てきます。

憧れていた北原白秋の自宅に招かれたときのこと。問題のウィスキー紅茶が出されました。古関は緊張のあまりか、これをゴクリ。するとみるみる顔が真っ赤に。これには酒豪の詩人も眼を丸くしたといいます。

酒とタバコで明暗がわかれる

これほど証言があるにもかかわらず、なぜ今回、ドラマではお酒を飲める設定にしたのでしょうか。

おそらく観光振興と関係している気がします。

古関の地元は福島。福島といえば、いわずと知れた日本酒の名産地です(筆者も、現地取材の夜ずいぶんお世話になりました)。それで下戸はむずかしかったのでしょう。

ちなみに、豊橋篇ではちくわがよく出てきました。これは、同市がちくわの名産地だから。こういう目配せは、じつにNHKらしいと思います。

これにたいして、圧倒的に冷遇されているのがタバコです。古関は、それはもう、ものすごい愛煙家だったのです。自民党の機関誌に、こんなエッセイを寄せているほどです。

1日にストレートのショートピースを約40本、一寸作曲が忙しいと軽くピー缶1つを空ける位のヘヴィ・スモーカー。フィルター付は不味くて喫えず必ずストレートの両切り煙草。

20歳の時、友人にすすめられて喫ったのが病みつきで以来50年間。

出典:「禁煙の記」『月刊自由民主』1978年8月号。なお漢数字をアラビア数字に改めた。

その後、「オリエント」「チェリー」「エアーシップ」「スター」「ナイル」「アルマ」など、過去に吸ったタバコの批評がつづき、最近のものは「ほとんど全部フィルター付きで皆同じ様な味になって特色がない」とばっさり切っています。

そんな古関も、晩年には体調を崩して禁煙にしたそうです。そのときは、両切りピースの缶を置いてくれていたタバコ屋に「もうやめますから」と挨拶にいったのだとか。律儀ですね。

こんなにエピソードがあるのにすっぱりカットされたのは、喫煙シーンを排除する近年の流れに沿ったものなのでしょう。

とはいえ、「下戸の愛煙家」を「禁煙の酒飲み」に変えたのですから、これこそ今回の朝ドラ最大の改変といっていいかもしれません。

評論家・近現代史研究者

1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。著書に『「戦前」の正体』(講談社現代新書)、『古関裕而の昭和史』(文春新書)、『大本営発表』『日本の軍歌』(幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)などがある。

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