<朝ドラ「エール」と史実>最大の改変か? 本当の古関裕而は「下戸の愛煙家」だった
コロナ禍により、今月末でいったん放送休止となる朝ドラ「エール」。今週は古関裕而の史実とはあまり関係ない展開ですので、少しさかのぼってみましょう。
今回のテーマは、酒とタバコです。
ドラマでは、主人公の古山裕一はよくお酒を飲みます。父ともそうですし、福島三羽烏ともそうです。お酒は大事なコミュニケーション・ツールになっているようですね。
ところが、史実の古関裕而は驚くほどの下戸でした。妻の金子がこんな文章を残しています。
長男の古関正裕氏も、ある座談会で「アルコールの検知器みたいな人でした」と述べていて、思わず笑ってしまいます。
古関の自伝を読んでも、似たようなエピソードが出てきます。
憧れていた北原白秋の自宅に招かれたときのこと。問題のウィスキー紅茶が出されました。古関は緊張のあまりか、これをゴクリ。するとみるみる顔が真っ赤に。これには酒豪の詩人も眼を丸くしたといいます。
酒とタバコで明暗がわかれる
これほど証言があるにもかかわらず、なぜ今回、ドラマではお酒を飲める設定にしたのでしょうか。
おそらく観光振興と関係している気がします。
古関の地元は福島。福島といえば、いわずと知れた日本酒の名産地です(筆者も、現地取材の夜ずいぶんお世話になりました)。それで下戸はむずかしかったのでしょう。
ちなみに、豊橋篇ではちくわがよく出てきました。これは、同市がちくわの名産地だから。こういう目配せは、じつにNHKらしいと思います。
これにたいして、圧倒的に冷遇されているのがタバコです。古関は、それはもう、ものすごい愛煙家だったのです。自民党の機関誌に、こんなエッセイを寄せているほどです。
その後、「オリエント」「チェリー」「エアーシップ」「スター」「ナイル」「アルマ」など、過去に吸ったタバコの批評がつづき、最近のものは「ほとんど全部フィルター付きで皆同じ様な味になって特色がない」とばっさり切っています。
そんな古関も、晩年には体調を崩して禁煙にしたそうです。そのときは、両切りピースの缶を置いてくれていたタバコ屋に「もうやめますから」と挨拶にいったのだとか。律儀ですね。
こんなにエピソードがあるのにすっぱりカットされたのは、喫煙シーンを排除する近年の流れに沿ったものなのでしょう。
とはいえ、「下戸の愛煙家」を「禁煙の酒飲み」に変えたのですから、これこそ今回の朝ドラ最大の改変といっていいかもしれません。