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きょうから始まるアルコール消毒液の転売規制 除菌シートやハンドソープは?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:アフロ)

 きょう、5月26日からアルコール消毒液などの不正転売が規制されます。インターネット上などで見られる消費者の疑問点を踏まえ、規制の範囲などを解説しました。

Q.処罰は濃度が何パーセントから?

A.製品が「医薬品」「医薬部外品」として販売されているものか否かで区別されます。医薬品・医薬部外品の場合、アルコールがわずかでも含まれていれば規制の対象です。それ以外の製品だと、60度以上のものが規制の対象になります。

Q.規制されるのは液体だけ?

A.液体だけでなく、これを染み込ませた脱脂綿や紙、不織布なども規制の対象です。

Q.具体的には、どのような製品が規制される?

A.医薬品・医薬部外品であれば、消毒用エタノール、手指消毒液、消毒用タオル、エタノール含浸綿、殺菌消毒薬、ハンドソープなどが規制の対象です。

 それ以外の製品だと、エタノール製剤などの食品添加物、除菌ジェル、除菌シート、除菌タオルなどの除菌製品などが規制の対象です。

 最近、酒造メーカーが「アルコール消毒液の代替品になる」「飲用不可」とうたったスピリッツなどのお酒や、添加物などで飲めない処置が施されているお酒を販売しています。これらも、アルコール濃度が60度以上であれば、規制の対象になります。

 マスクのときのように、今後しばらくすると、こうした規制対象の製品が薬店など一般の市場で手に入りやすくなるものと思われます。

Q.規制の対象にならない製品は?

A.医薬品・医薬部外品であれば、口中清涼剤、体臭防止剤、育毛剤、薬用シェーブローションなど、アルコールが含まれていない製品は対象外です。

 医薬品・医薬部外品以外だと、空間用消臭剤や掃除用シートなどアルコール濃度が60度未満のものや、古酒、香水、工業用洗浄剤など消毒や殺菌を目的としていない製品は対象外です。

Q.いつからいつまでの転売が規制される?

A.規制は政令が施行された5月26日からです。それ以前の転売がさかのぼって処罰されることはありません。また、製品の発送が5月26日以降であっても、売買契約が5月25日までに成立していれば、処罰の対象外です。

 一方、規制の終期は定められていません。需給バランスが安定し、価格も落ち着き、コロナショック以前のように市中で自由に手に入るようになった段階で、政府が規制の根拠となっている政令を廃止するものと思われます。

Q.1リットル入りの消毒用エタノールを5000円で仕入れ、5本のスプレーボトルに200ミリリットルずつ小分けし、1本1500円で販売するのはセーフ?

A.アウトです。小分け行為も規制の対象です。また、スプレーボトルなどとの「抱き合わせ販売」は、中の消毒液を仕入れ価格よりも高く販売しようとしたものにすぎず、転売価格は200ミリリットルあたり1500円と評価されます。

Q.遠方の家族からアルコール消毒液をもらったんだけど、これを転売しても処罰される?

A.いいえ。転売が禁止されているのは、「不特定の相手方」に対して売り渡す者から「購入」した製品に限られています。家族や身内、友人といった、特定の限られた人物の間で融通し合う場合は規制の対象外です。

Q.薬店で購入したアルコール消毒液を内輪の友人に転売したら、処罰される?

A.いいえ。「不特定または多数の者」に対する転売だけが処罰の対象です。ごく内輪の友人の間で余ったアルコール消毒液を譲り合うなど、「特定かつ少数」であれば、処罰の対象外です。

Q.たった1回、初めて転売しただけだし、ほんの少ししか利益を乗せていないんだけど、これも処罰されるの?

A.処罰の対象です。「業として」という縛りがないので、転売行為を反復継続する意思は不要であり、たった1回の転売でもアウトです。しかも、購入価格を1円でも超えていたら規制の対象になります。転売が暴利である必要もありません。

Q.不正転売をしたら、どれくらいの刑罰?

A.1年以下の懲役か100万円以下の罰金です。両者を併せて科すことも可能です。法人の場合、代表者や従業員らが業務に関して違反に及べば、法人にも罰金刑が科されます。

Q.マスクのときも、不正転売は検挙されずに野放しだったんじゃないの?

A.5月20日、大阪府警は、3月に大阪市内で通行人に対して50枚入りのマスクを1箱3500円で転売していた夫婦を検挙し、書類送検しています。

 中国の通販サイトでクレジットカードを使って仕入れたものだったので、決済時までに為替レートの変動で仕入れ価格が下がってしまい、結果的に1箱あたり数十円ほどの損失が出ていることから、起訴こそ免れるでしょう。

 それでも、きちんと取り調べを受け、仕入先や売上状況なども捜査されています。

 5月22日には、三重県警も、ネット上で仕入れたマスクを4月に仕入れ値の2倍で不正転売していた衣料品店の経営者らを書類送検しています。

 警察官が衣料品店でのマスク販売を不審に思い、捜査を進めた結果、不正転売が判明したというものであり、こちらは起訴されることでしょう。

 今後も、警察がマスクやアルコール消毒液などの不正転売を察知したら、きちんと捜査を行い、検挙することになります。

 転売などやめておくべきだし、転売屋から購入するのもやめておきましょう。

(参考)

 拙稿「ようやくアルコール消毒液が転売の規制対象に 何をどう販売したら処罰される?

 経済産業省「国民生活安定緊急措置法施行令の改正について

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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