東南アジアからの旅行者が急増 ポイントは「ハラル」対応
今年、来日する外国人観光客が初めて年間1000万人を突破―。
先週、こんなニュースが一斉にメディアに載った。日本政府観光局が発表したもので、11月末までに949万9000人が日本を訪れ、今月中には1000万人に到達するという。日本にとっては初の“快挙”となる。
確かにいわれてみれば、クリスマスも近い師走、東京・銀座や秋葉原を歩いていると、やたらと目につくのは外国人観光客だ。中でも多いのは中国人よりも肌が浅黒い東南アジア系の人々。東南アジア独特の英語をまくしたて、家電製品や貴金属、衣料品を熱心に買い求めている。中にはスカーフを巻いているムスリム(イスラム教徒)の女性の姿も……。
それもそのはず、訪日外国人客数は前年同月比29%増の84万人だったが、とくに多かったのが前年比69%増のタイ(約39万人)、同53%増のベトナム(約7万9000人)、さらにインドネシア、マレーシア、シンガポールなどの東南アジアからの旅行客なのだ。
東南アジアからの旅行客が急増した背景には、円安という理由のほか、日本政府がビザ発給条件を緩和したことが挙げられる。今年7月にはタイ、マレーシアからの旅行者のビザを免除し、インドネシアからの旅行者には数次ビザの滞在期間を延長した。これらの国々では中間層や富裕層が急激に拡大していたこともあって、彼らにとって日本旅行は「割安でお得感がある魅力的な旅行先」と映ったようだ。
観光客呼び込みには“ハラル”対応が大事
だが、問題は食事である。インドネシアやマレーシアなどではムスリムが多いが、彼らは宗教上の理由で豚肉やアルコールなどを受けつけない。彼らが食べるのはアラビア語で「イスラム法的に許されたもの」を意味する「ハラル」と呼ばれるものだ。ムスリムが食べるものは「ハラル・フード」と呼ばれ、ムスリムが多い国では「ハラル」であることを証明する「ハラル認証」を取得した「ハラル・マーク」がついた食べ物や商品が数多く売られている。
彼らは「ハラル認証」されていなくても、豚肉やアルコールなど禁じられたものが入っていなければ食べることができるが、菓子などの一部には、表面上は見えなくてもラード(豚脂)が含まれるものも数多く、ムスリムが少ない海外の国などで食事をする際には気を使わなければならない。中には「海外旅行のときだけは、そういうことは気にしない」という人もいることはいるが、人によって宗教に対する考え方は千差万別であり、非常に敬虔なムスリムの中には「海外では自国から持参したインスタント食品しか食べない」という人もいる。
そこで、観光客誘致に乗り出す企業や観光地の一部では、東南アジアからの観光客に対応してハラル認証を取得するところも出てきているという。中でも外国人に人気のある京都などでは京都市コンベンションビューローが中心となって、積極的にムスリム対応に取り組んでいる。複数のホテルで、ムスリムのためのハラル・フードを用意し、中にはホテルの室内にムスリム用カーペットやコーラン、キブラコンパス(ムスリムが祈りをささげるメッカにあるカーバ神殿の方角を指す)などを取りそろえるところまであるという。
今年になって、料亭やレストラン、アミューズメント施設などでもムスリム対応は進んできた。日本料理は酒やみりんなどを調理に使うことが多いが、そうした調味料を使わず、天ぷらや野菜の炊き合わせなどを中心に、ムスリムに安心して食べてもらおうという試みを行っている。このほど和食は世界無形文化遺産となったばかりだが、せっかく来日しても、敬虔なムスリムにおいしい日本料理を食べてもらえないのであれば、もったいない。日本の魅力も半減してしまうというものだ。
2020年の東京オリンピック開催が決定し、日本政府は観光客誘致で経済活性化を図りたいところだが、その中心となりそうなのが、どうやら、東南アジアからの旅行者だ。政府は2020年に2000万人、2030年に3000万人という新たな訪日外国人客数の目標を掲げたが、それを実現するためには、観光客が来日しやすい環境づくりをもっと行っていくことが必要だ。無線LANの少なさや英語表示の少なさなど、まだ問題点もたくさんあるが、そのひとつが、一見目立たない「ムスリム対応」であることは間違いないといえるだろう。