Yahoo!ニュース

宮田笙子選手のオリンピック代表辞退【ゼロ・トレランス方式への疑問】

親野智可等教育評論家
筆者提供

体操女子オリンピック代表選手の宮田笙子さんが、日本代表としての行動規範に違反して喫煙と飲酒をしたということで代表辞退ということになりました。

それに対して「厳しすぎる」という意見が多数あがっています。私も厳しすぎると思います。

このような厳罰主義的な対応を「ゼロ・トレランス方式」といいます。トレランス(寛容)がゼロという意味で、非寛容方式とも呼ばれています。

違反に対しては例外なくルールが適用されるので、違反の背景にある問題(多くはその人を取り巻く環境や社会自体に問題がある)やその人の事情は一切考慮されません。まさに問答無用です。

その主旨は、軽度な違反でも厳罰に処することで、重大な違反の発生を防ごうということです。

当然メリットとデメリットがあり、時と場合によっては一定の効果もあるようです。例えばジュリアーニ市長が犯罪都市ニューヨークの治安を回復した例などです。

ゼロ・トレランス方式の弊害

ただし、弊害も大きく、例えば中学や高校で導入された場合は次のような弊害が出る可能性があります。

1,問題を抱え丁寧な指導が必要とされる生徒の安易な排除が増える

2,違反の背景や事情に対する改善がなされなくなる

3,その結果、問題の背景はそのまま残るので同様の問題が起こり続ける

4,排除された生徒は立ち直りの機会を与えられず、社会からのドロップアウトに繋がることもある

5,先生と生徒の信頼関係が崩れ、生徒が先生にうっかり相談できなくなる

6,集団の雰囲気がトゲトゲしてきて先生も生徒も疑心暗鬼におちいる

同様の弊害はどこでも起こりえます。このような弊害の大きさを考えると、ゼロ・トレランス方式の採用には慎重さが求められます。

ましてや二十歳に満たない若者に対して、今回の処分は厳しすぎます。

日本社会はいま様々な問題を抱えていますが、それらに対して「非寛容な排除」を最優先する手法が蔓延すると社会全体がギスギスしてきます。

手間暇はかかりますが、問題の背景や事情に寄り添った丁寧な対応が必要です。

(いつもご愛読ありがとうございます。「学びがある」「わかりやすい」「新しい視点」の三択がこの下に出ていたらポチッとお願いいたします。今後の参考にしたいと思います。「フォロー」していただけるとますます張り切ります)

教育評論家

教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOk』などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Instagram、Threads、Twitter、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。オンライン講演も可。お問い合わせは親野智可等の公式サイトから

親野智可等の最近の記事