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【追記】なぜ、人通りの多い、銀座の高級時計店を狙ったのか!強盗を行う犯罪グループの狙いと手口

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:イメージマート)

5月8日の18時過ぎに、銀座の高級時計店に男らが押し入り、100点もの商品を奪い逃走しました。しかしあっけないもので、その約30分後には、少年ら4人が次々に逮捕されます。

それにしても、18時とはいえ、日もあり、人の目につくなかで、なぜ銀座の高級時計店を狙ったのでしょうか。

それは、犯罪者が狙う時計が、数多くこの店にあったからではないかと考えています。

少年らが、闇バイトで集められた可能性

まず考えなければならないのは、今回の犯行が組織的犯罪グループによるものかどうかです。

すでに逮捕された犯人らの供述から「お互いのことは知らない」ということですので、組織的犯罪グループが闇バイトといった募集で集めた可能性は高くなってきています。とすれば、少年らに指示する人物がどこかにいることになります。

それは一連の犯行を見てもわかります。お互いを知らない寄せ集めの10代のグループでありながら、人通りの多い銀座の高級時計店に押し入り、短時間で100点もの腕時計を奪っています。しかも用意周到に、同じ仮面を用意して、逃走用の車はナンバープレートも付けかえていたのですから、これは組織的グループの上層部からの指示を受けて行ったと考えてよいと思います。

ハイブリッドな犯罪の手口に進化

さらに犯人が逮捕されたのに、今も見つかっていない腕時計があるとされています。「実行犯らがつかまっても、奪ったものが、どこにあるかわからない」とすれば、これは、過去に詐欺グループが行ってきた手口と同じで、現金を直接に騙し取る「受け子」はつかまりますが、高齢者から詐取されて持ち去られ、誰かに手渡されたお金はどこに行ってしまっているかわからない状況と同じです。

【追記】その後、今回の強盗では、事件の精査の結果、奪われた本数は100点ではなく、約70点ということがわかったという報道がなされています。これまでに車外で30点がみつかり、 本日(5/10)車内からも40点ほどが見つかったということですので、これでほぼすべてが回収されたことになります。

警察のスピード逮捕により、商品を売りさばくことをもくろむ者たちに、腕時計がいかなかったことは本当によかったと思います。

すでに逮捕されているルフィーを名乗る強盗団にみられるように、近年の犯罪グループは、詐欺などを行っていたところが、現金を騙し取るだけでなく、キャッシュカードを詐取してきたり、さらに強盗という手段も取り入れるという、ハイブリッドな犯罪の手口に進化してきています。

貴金属店を狙う強盗においてのネックとは?

ただし、貴金属店を狙う強盗においてのネックもあります。

それは、詐欺では足のつかない現金をとるのに対して、高級腕時計にはシリアルナンバーがついており、足がつく商品であるということです。ですので、それを足のつかないお金にかえる必要があります。

昨年より貴金属店の強盗が相次いでおり、しかも今回の強盗事件では100点もの高級腕時計を奪い取っているところから考えると、すでに盗品の販売などを通じて、現金化できる闇のルートもあるので、これだけ大胆な犯行を行えたのではないかと考えます。

もっとつっこんだ見方をすると、ここ数年、ロレックスの高級腕時計は高値で転売されており、レアな腕時計はなかなか手に入らない状況もあります。そこで犯罪グループが、高値で転売しやすい、金になりそうな商品を狙った。まさに、犯人らが求める腕時計が、この銀座のお店に多数あったということが考えられるのです。

おそらく10代の少年らには、商品の目利きはできないと思います。そこで、指示役らは、とにかく多くの腕時計を奪ってくるように指示したことが、店舗から100点もの腕時計を奪った結果とみることもできます。

10代は、犯罪の実行犯として使いやすい。狙われている

これまで闇バイト募集の調査をしてきてわかるのは「指示に従いやすく」「お金に困った」人物を犯罪グループは仲間にしようとします。特に10代は社会経験も少なく、長年詐欺をしてきた人物らからみれば「捕まらないよ」「罪は軽いよ」などと嘘をいって騙しやすい存在といえます。

以前に、闇バイトへの調査電話をかけるなかで「弁護士をつけるから、捕まっても罪は軽くなる」「うちのグループでは捕まった人は、ほとんどいない」といってきた、リクルーター(犯罪グループに誘う人間)もいました。もしさらに借金などがあって、金に困った弱みをつかまれていれば、逃げられない状況で犯行をさせられることも十分に考えられます。

思考が停止した状態で、犯行に駆り立てる

組織的犯罪グループは、マニュアルを使うなどして、犯罪を実行させようとします。それは指示役からの命令を受けて行動させることで、本人の頭をあまり使わせずに、捕まるリスクや、罪悪感を覚えさせずに、犯行に駆り立てられるからです。自分の頭で考えるという思考を止めさせて犯行をさせるにあたっては、まさに指示に従いやすい10代が、格好のターゲットとなってしまうわけです。

報道では、今回の強盗の実行役の男の1人が「まだ大丈夫。あと30秒はいける」と指示を出しながら、強盗を実行させていたということです。

「まだ大丈夫、あと30秒はいける」実行役の男…高級腕時計強盗、100点以上奪ったか 東京・銀座 (日本テレビ)

まさに、この焦らせる言動も自分の頭で考えさせないための手法の一つといえます。

注意!闇バイトはネットからだけ誘われるのではない

闇バイトの募集は決して、ネットからだけ誘われるのではありません。この点にも注意をする必要があります。

過去には、先輩、後輩の関係から誘われたり、悪い友人から誘われるなどして、犯罪に手を染めた人もいます。今回の強盗でも、同じ地域の少年らが犯行に加わっていたとされていますので、ネットだけでなく、口コミなどの手段を通じた実行犯の募集だった可能性もあります。

いずれにしても、実行犯は捕まります。捕まることが前提で雇われています。そのために、いつも実行犯らを募集する書き込みは、SNS上に絶えず、載っています。それは逮捕されるゆえに、人材不足になっているからです。

SNS上の闇バイト募集への警戒が広がる中で、今、犯罪グループが、友人、知人などを通じた闇バイトの募集を行う懸念も高まっています。あらゆるチャンネルを使っての犯罪への誘いにも警戒をしていく必要があります。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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