クルードラゴン宇宙船、ロケットとの分離を確認。深夜にはISS到着
日本時間2020年5月31日午前4時22分45秒、米フロリダ州ケネディ宇宙センターからスペースXが開発した新型宇宙船「Crew Dragon(クルードラゴン)」の初有人飛行となるDEMO-2打ち上げが行われた。クルードラゴンは打ち上げから12分後にロケット第2段から分離され、打ち上げは成功した。
この後、NASAのボブ・ベンケン宇宙飛行士、ダグ・ハーリー宇宙飛行士の2名が搭乗するクルードラゴンは国際宇宙ステーション(ISS)に向かって飛行する。およそ19時間ほど後の日本時間5月31日午後11時27分ごろにISSにドッキングし、6月1日の未明には長期滞在中のクルーと合流する予定だ。
クルードラゴンとは?
クルードラゴンは、ロケット・衛星を開発するスペースXが6年かけて開発してきた新型宇宙船。全長8.1メートル、直径4メートルのカプセル型で最大7人が搭乗できる。DEMO-2は開発段階の最終試験にあたり、NASAの2名の宇宙飛行士が搭乗する有人初飛行となる。
1981年からアメリカの有人宇宙開発の主力となってきたスペースシャトルだが、2003年のコロンビア号事故を受けて計画終了が決定された。2011年のスペースシャトル最終ミッションSTS-135以来、人が搭乗できる宇宙船はロシアが運用するソユーズ宇宙船のみとなっていた。
NASAは地球低軌道への宇宙飛行士の輸送を、スペースシャトルのオービターのようにNASAの宇宙船を民間企業が製造するのではなく、民間企業が開発・運用する宇宙船で宇宙飛行士を運ぶ「輸送サービス」を買う方式へと切り替えた。2014年、ボーイング、スペースXの2社が民間宇宙船開発企業として選定され、NASAから開発資金を受け取った。
新型宇宙船の開発は、計画当初の初飛行予定から3年近く遅れており、ボーイング、スペースXともに難航した。しかしスペースXは先行して無人飛行試験を成功させ、また2020年1月には宇宙船の重要な機能である打ち上げ中の脱出システムの試験も成功させた。今回の有人飛行試験を経て、アメリカは地球低軌道への有人輸送を民間から購入する時代に入る。NASAは、深宇宙探査を行うオライオン宇宙船と打ち上げロケットSLSの開発を進め、月や火星の有人探査といった目標に注力する方向だ。
打ち上げまで
当初、現地時間の5月27日夕方に予定されていた打ち上げは、雷雲が予想されたためバックアップ打ち上げ日の5月30日午後に延期となった。ベンケン、ハーリー両宇宙飛行士は、いったん搭乗したクルードラゴンの船内から下船し、3日間待機することとなった。
当日、NASAでは4時間ほど前から打ち上げ準備のほとんどのプロセスを公開する中継番組を開始。NASAのジム・ブライデンスタイン長官はソーシャルディスタンスを保って2人の宇宙飛行士を激励し送り出した。宇宙服の準備を済ませた2人は、家族と「エアハグ」の挨拶をしてNASAのロゴの入ったテスラ モデルXに乗り、これまでアポロ宇宙船とサターンVロケット、スペースシャトルを打ち上げてきたケネディ宇宙センターの第39A発射台へと向かった。
打ち上げ45分前のGO/NOGO判断では懸念された天候の状況が改善し、宇宙船側の準備が整った。射点付近には青空が見えるようになり、前回、打ち上げ延期判断がくだされた17分前のタイミングも越えた。7分前にファルコン9ロケットのエンジン予冷が開始され、これまで多くの衛星を打ち上げてきたスペースXの主力ロケットは初めて人を乗せてエンジン点火まで進むことになった。
打ち上げ1分前には、打ち上げ司令システムがロケットの推進剤タンク圧力などの自動チェックを開始。45秒前のスペースX側最終判断は「Go for launch」が宣言され、予定時刻ちょうどにファルコン9ロケットはリフトオフを開始した。
打ち上げから58秒後、ロケットにとって最も危険な瞬間であるMaxQ(最大動圧点:ロケットにかかる空気の力が最大になる瞬間)を越え、第1段切り離しも無事に乗り越えた。そして打ち上げから12分後(スペースXによる飛行中のステータス表示では高度200キロメートル付近)、クルードラゴン宇宙船はロケット第2段と離れてついに単独でISSへの飛行を開始した。ロケットが地球から宇宙船を送り出す段階においては、打ち上げは成功となった。
役割を終えたファルコン9ロケット第1段は、これまでの多くの打ち上げと同様に地上へと帰還。大西洋上で待つスペースXの回収船へと無事に着地した。
NASA TVでは、この後ISS到着前に飛行中のベンケン、ハーリー両宇宙飛行士との交信イベントを中継する予定。
NASA TV打ち上げ中継(ISS到着後のNASA会見まで継続)