”卓球ではサーブレシーブが大事”ってどういう意味? 球技にまたがる誤用を斬る!
「卓球ではサーブレシーブが大事」と聞けば、卓球を知る人なら誰でも同意するだろう。どういう意味もこういう意味もない、そのままの意味だとしか思えないだろう。ところが世の中には、これを微妙に違う意味でとらえてしまう人たちがいるのだ。それは、球技によって「サーブレシーブ」の意味が違うからだ。
卓球でサーブレシーブと言えば、サーブ(=サービス)と、それを打ち返す動作であるレシーブの二つのことを言う。「貸す」と「借りる」をまとめて「貸し借り」と言うのと同じだ。だからサーブレシーブが大事と言えば、それはサーブとレシーブの両方が大事という意味で、実際に卓球選手はその意味でこのフレーズをよく口にする。
ところが、バレーボールとバドミントンでは、サーブレシーブとは、相手のサービスを受けることだけを言う。これらの球技では、ラリー中に相手の攻撃球を受けること全般をレシーブと言う(バレーボールの「回転レシーブ」を思い浮かべればわかるだろう)ため、それらと区別して「サーブをレシーブする」という意味でサーブレシーブと言うのだ。
これに対して卓球とテニスでは、レシーブは相手のサービスを打ち返すことだけを言い、ラリー中の打球についてはレシーブと言わない。従って「レシーブ」の意味も、「卓球&テニス」と「バレーボール&バドミントン」とでは違うのだ。
これらは、単なる習慣の違いなので、どちらが正しいという話ではない。また、日本でどう定着しているかの問題なので「もともと英語では・・」などと考える必要はない。ともかく日本では球技ごとに別の意味で定着してしまっているのが現状なのだ。今さら統一するのは無理なので、球技ごとに使い分けるしかないだろう。
しかし実態は、違いがあること自体が認識されていないので、別の意味で会話をした場合でも、微妙なスレ違いを起こしながら最後まで意味の違いに気づかないまま終わることがほとんどである。
そして、一般人ばかりかメディアさえもが知らずに混用しているから大変である。
先日も、あるテレビのスポーツニュースで、卓球選手が台から離れて相手のスマッシュを打ち返す「ロビング」をしている場面で「見事なレシーブです」とナレーションが入った。ほとんどの卓球愛好者は何のことかわからなかったはずだ。「サービスを上手に返したおかげで相手をロビングに追い込むことができたということかなあ。それにしてもレシーブの場面が映っていなかったなあ」などとモヤモヤする。あるいは編集ミスで別の映像を入れてしまったのだと思う。
また、あるWEBニュースでは伊藤美誠選手の逆チキータを「バックハンドで逆横回転をかけるサーブレシーブ」と説明していた。卓球愛好者にとってはまったく意味不明だ。逆に、卓球の試合解説で「伊藤美誠選手はサーブレシーブが上手いんです。特にサーブが素晴らしい」などと言えば、バドミントンとバレーボールの愛好者は「サーブなのかサーブレシーブなのかどっちやねん!」と言いたくなるだろう。
球技によってこうした用法の違いがあることは、本来はテレビ局側が理解して説明するべきだし、アナウンサーが間違えたら解説者が訂正するべきである。しかし、解説者も緊張していれば気がつかないし、気がついたとしても話の腰を折るようなことはなかなかできない。こうしたことが積み重なって、これらの言葉が定着して何十年も経つというのに、未だに違いがあることさえ公に認識されていないのが現状なのである。
卓球の「ゲーム」を「セット」に誤用するといった、実害がない間違い(120年前に卓球がイギリスで始まって以来、「セット」という概念は一度もなかったのだが、なぜか日本では審判と一部のメディア以外はほぼ全員が誤用している)は目くじらを立てるほどのことでもないと思うが、会話にスレ違いが起こる誤用は実害がある。
本稿が少しでもその解消の役に立てばと願う。