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決勝トーナメント1回戦。西野ジャパンに見る過去2回にはない余力

杉山茂樹スポーツライター
写真:岸本勉/PICSPORT(本文中も)

 フェアプレーとは何なのか。「ボルゴグラード・アレーナ」を埋めた観衆から、ブーイングを浴びる西野ジャパンを眺めながら、そう思わずにはいられなかった。最後まで全力を出し切って戦うことがフェアプレーの精神ではないのか。イエローカードを提示された枚数を、フェアプレーの尺度にしていることに、なにより疑問を覚えずにはいられなかった。

 日本の決勝トーナメント進出は、2002年、2010年に続き3度目だ。開催国として臨んだ2002年は、その特権としてAシード(第1シード)国に振り分けられため、グループリーグで戦う相手に世界のトップ8はいなかった。そのベスト16は、開催国特権で得た産物にほかならなかった。

 したがって今回のベスト16は、実質的に2度目だ。大喜びしたくなる結果ながら、大喜びを控えたくなる、なんともきまりの悪いベスト16入りの瞬間だった。

 日本が終盤、DFラインでゆっくりボールを回している間に、そのとき0-1で推移していたセネガル対コロンビア戦で、セネガルにゴールが生まれたらどうするのか。入らないことを前提に、ボール回しを選択した西野朗監督は、つまり”他力”にかける選択に打って出た。その結果、大ブーイングを浴びたわけだが、それは、日本に浴びせられても困る話だ。原因はこのレギュレーションを作成した側にある。

 西野監督は試合後の会見で自ら、忸怩(じくじ)たる思いを吐露したが、後方でパス回しに徹した判断そのものは妥当だった。監督としてあるべき姿を示したといえる。

 ポーランドは、日本が後方でパス回しを始めると、無理にボールを追わなくなった。1-0で勝とうが2-0で勝とうが、彼らには大差ないのだ。

 日本はその直前まで、危ない空気に包まれていた。試合の流れはポーランドに傾いていた。後半29分、カミル・グロシツキのクロスに、中央で構えるロベルト・レバンドフスキが反応。その倒れながらの右足シュートはゴールをわずかに外れたが、あのシュートが決まってくれなくて助かったというのが、正直な気持ちだ。

 それでも、勝負そのものには0-1で敗れた。内容的にも、大会前に危惧されたよりはよかったとはいえ、ある意味で順当な敗戦だった。セネガル戦も、当初は一番戦えそうだと予想されたチームに引き分けたに過ぎない。

 日本がベスト16入りした最大の要因は何かといえば、このグループ最強のコロンビアに、2-1で勝利したことにある。このまさかの勝利は、開始3分、香川真司のシュートを、右手上腕部で止めたカルロス・サンチェスに、PK&レッドカードの裁定が下されたことにある。イエローカードという処置もありえたが、コロンビア戦の笛を吹いたスロバキア人の主審が、日本に最大限、好意的な判定をしてくれたことが、日本のベスト16入りを大きく後押ししたことは間違いない。

 日本代表が、全体的に戦前の予想以上のプレーをしていることは確かだが、1チームがわずか3試合しか戦わないグループリーグは、ちょっとしたことで順位が変動することも事実。で、ちょっとしたことが起きやすいのがサッカーの宿命だ。日本のレベルが大幅にアップした末のベスト16というわけではない。

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 とはいえ、だ。8年前、16年前より、決勝トーナメント1回戦には希望の光が差している。

 2002年日韓大会、2010年南アフリカ大会はグループリーグ突破が悲願だった。2002年は、W杯本大会への出場2回目にして、ベスト16に進出しなければ開催国として格好悪いというプレッシャーとの戦いを強いられた。それが適った瞬間、選手を含め、ファンも満足してしまったフシがあった。決勝トーナメント1回戦を戦う準備ができていなかった。

 2010年もグループリーグ突破が精一杯で、4試合目のことは眼中になかった。準備不足というか、特段の策がないまま決勝トーナメント1回戦を戦った。

 ところが、今回の西野ジャパンはそうではない。少なからず余裕がある。端的に表れていたのが、ポーランド戦のスタメンだ。1戦目、2戦目からスタメン6人を入れ替えて臨んだ西野采配を見てピンときた。トルシエジャパン(2002年)、岡田ジャパン(2010年)との違いを、そこにハッキリ見て取ることができたのだ。

 セネガル戦後、筆者は「できるだけ多くの選手を使い、そして勝つ。西野監督に求められる余裕とは」と主張をしていた。こう言ってはなんだが、こちらの期待しているとおりの選手起用を、西野監督はポーランド戦で実行したのだ。

 大博打ではあるけれど、これは定石。ベスト16を目標とするなら、出るだけではダメだ。そこで可能な限りいい戦いを追求する姿勢が求められる。使える選手の絶対数を、大一番に向けていかに確保しておくかは、目の前の勝利を追求することと同じぐらい必要なのだ。

 トルシエジャパン、岡田ジャパンはそれをせずに決勝トーナメント1回戦を戦い、そして敗れた。同じ轍を踏むわけにはいかないのだ。

 試合後の会見で、こちらとまったく同じ思いを述べていた西野監督の言葉を聞きながら、「これは期待が持てそうだ」と思わずにはいられなかった。

 ポーランド戦を「絶対に負けたくない戦い」と位置づけるならば、乾貴士は先発から外さない。大迫勇也も外さない。彼らをあえて外してポーランド戦に臨んだ西野監督の勇気を称えたくなる。勝利こそ収めることはできなかったが、ベスト16入りを決めた。この読み、決断こそ、監督に不可欠な才覚である。

 本当ならスタメンを、1戦目、2戦目と徐々にいじっていくのが理想だろう。3戦目にいきなり6人を代えることは大博打だった。リスクの高い采配だが、それを実行し、成功させた。フィールドプレーヤーでは、植田直通、大島僚太、遠藤航以外、試合に出場すればどの程度やれるか、見当がつく状態にある。もう1試合戦う準備は、過去2回より断然、整っている。

 7月2日、ロストフ・ド・ナヌで行なわれる決勝トーナメント1回戦。相手のベルギーは、コロンビアに肩を並べる強豪ながら、けっしてやりにくい相手ではない。相性はいいと見る。

 なにより日本は、昨年11月、ブルージュで対戦(結果は0-1)したハリルジャパン時代より、相手が嫌がりそうなサッカーに変わっている。過去2回より、断然、期待していいと思う。

(集英社 webSportiva 6月29日掲載 「杉山氏は西野采配を支持。ベスト8進出の可能性は過去2回より高い」に一部加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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