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池袋の横浜家系ラーメンの新店「皇綱家」の看板に見る家系の新たな差別化

井手隊長ラーメンライター/ミュージシャン
「皇綱家」のラーメン
池袋西口にオープンした「皇綱家」
池袋西口にオープンした「皇綱家」

12月4日、池袋西口に横浜家系ラーメンの新店「皇綱家(きづなや)」がオープンした。

池袋駅の西口を出て、マクドナルドの裏にオープンした新店で、初日から長い行列を作り話題となっている。このエリアは新型コロナウイルスの影響で飲食店などの空きテナントが目立っていたが、年末に新店オープンというのは明るいニュースだ。

オープン初日から長い行列
オープン初日から長い行列

横浜家系ラーメンは、1974年創業の「吉村家」(当時は新杉田駅近く)を源流とし、横浜を中心に全国に広がっている濃厚な豚骨醤油ラーメンで、屋号に「家」のつく店名が多かったことからファンの間で「家系(いえけい)」と呼ばれるようになった。

お客の好みによって麺のかたさ、味の濃さ、脂の量を自由に選べるスタイルが特徴で、非常に中毒性が高く、学生やサラリーマンにも大変人気なラーメンだ。

総本山である「吉村家」からの流れを汲む店は、職人が修業ののち独立していくスタイルで、しかもスープの製法や麺上げの技術が必要になるため、なかなか数が増えず、2000年代初頭では都内の家系ラーメン店は30軒ほどしかなかった。

しかし近年、大手外食系企業によって運営されるフランチャイズ系の家系ラーメン店(通称「資本系」)が急増したことで、現在都内には300軒以上の家系ラーメン店がある。

これだけ家系ラーメン店が増殖する中で、独立系と資本系の店の区別がつきづらくなっている。店側からすると差別化がしづらくなっているのだ。

資本系の店と混同されないために、「らーめん飛粋」(蒲田)、「麺家 紫極」(さいたま市)など、家系ラーメン店にルーツがありながらも、店名に「○○家」を冠せずに独立する若いラーメン店主の動きもある。

「皇綱家」の看板から見えてきた家系の未来

看板には「輝道家直系」とある
看板には「輝道家直系」とある

前置きが長くなったが、池袋にオープンした「皇綱家」の看板を見て、筆者は家系ラーメンの新たな動きを感じ取った。

看板には「輝道家直系 皇綱家」と書いてあったのである。

「輝道家」は中野区野方にある家系ラーメンの有名店で、有名店「武道家」で腕を鍛えたオーナー・菊地輝さんが開いた人気店だ。家系ラーメンの中でも豚骨の濃度がかなり高く、こってり感が強いことで知られる。「皇綱家」はその「輝道家」「直系」を名乗っているのだ。

今までの家系「直系」店というと「吉村家直系」のことを指し、「杉田家」(新杉田、千葉)、「末廣家」(白楽)、「厚木家」(厚木)など全国に一握りしかなかった。

その他にも「六角家姉妹店」など一部あるものの、基本的には店名での差別化は難しいとされていた。

そんな中、「輝道家直系」という店名の工夫は新しい。

「吉村家」の名前は使えないものの、人気店である修行先の「輝道家」の名前を使うことで資本系との大きな差別化ができる。「皇綱家」「輝道家直系」と名乗ることで、濃度の高いこってり系の家系ラーメンだとわかるのだ。

麺は極太の平打ち
麺は極太の平打ち

実際にオープン初日に筆者もラーメンをいただいてきたが、かなりの濃度に個性を感じた。サラリーマンや学生の多い池袋西口のニーズにもピッタリ合うだろう。

店が増えてブーム化しているからこそ差別化の難しいラーメン界。「皇綱家」がひとつそのヒントを示してくれている。

※写真はすべて筆者による撮影

ラーメンライター/ミュージシャン

全国47都道府県のラーメンを食べ歩くラーメンライター。東洋経済オンライン、AERA dot.など連載のほか、テレビ番組出演・監修、コンテスト審査員、イベントMCなどで活躍中。 自身のインターネット番組、ブログ、Twitter、Facebookなどでも定期的にラーメン情報を発信。ミュージシャンとして、サザンオールスターズのトリビュートバンド「井手隊長バンド」や、昭和歌謡・オールディーズユニット「フカイデカフェ」でも活動。本の要約サービス フライヤー 執行役員、「読者が選ぶビジネス書グランプリ」事務局長も務める。

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