【浦和レッズ】17歳プロのMF早川隼平 “アマチュア最後の試合”でディスカッションしたこと
8月10日、浦和レッズがMF早川隼平とプロ契約を結んだことを発表した。2005年12月生まれで現在17歳の早川は、ここまで2種登録選手として公式戦10試合に出場。8月6日の横浜F・マリノス戦ではJ1リーグ初先発を果たしており、プロ契約するのは時間の問題と見られていた。
地元埼玉県出身の早川は、中1の時に浦和レッズジュニアユースに加入し、レッズユースへ昇格。16歳だった2021年2月には、コロナ禍という事情こそあったがJ1開幕戦の京都サンガ戦と第2節ガンバ大阪戦でベンチ入りを経験している。年代別日本代表の常連でもあり、いずれチームの将来を担う目されてきた逸材。その中で今季は急速な成長を示してのプロ契約だった。
■「ここでプロ契約を勝ち取る」と意気込んで臨んだ1月の沖縄キャンプ
プロとなるまでの経緯の中で、ポイントのひとつだったのは今年1月の沖縄キャンプだ。帯同することになった早川は、「ここでプロ契約を勝ち取る」という強い気持ちで現地に乗り込んだ。2年前、レッズユースに所属していた先輩が沖縄キャンプでのパフォーマンスを評価されてプロ契約を結んでおり、早川もそのプロセスを知っていた。
結果的にシーズン開幕前の契約は見送られたが、「沖縄キャンプで契約してもらえず、まだまだ足りないんだと思った」(早川)と後日振り返ったように、この時の想いが闘志に火をつけたのは疑いない。さいたまに戻ってからすぐにあった練習試合ではトップチームの選手たちとともに堂々とプレーし、好パフォーマンスを見せたという。
シーズンが始まってからは昨季と同様の2種登録選手として4月5日のルヴァンカップ川崎フロンターレ戦に途中出場し、公式戦デビュー。4月19日の同・湘南ベルマーレ戦では公式戦初先発を飾って初ゴールも記録した。
マチェイ・スコルジャ監督の評価はこの頃からグッと上がっていき、4月29日のACL決勝アルヒラル戦では敵地での第1戦で後半36分からピッチに立つ大抜擢を受けた。
その後は年代別代表活動で海外遠征に行ったり、ユースの試合に出たりしながらトップチームにも加わり、「3チーム」を渡り歩きながらのプレー。それぞれの場所で「一番はチームの勝利」という考えを貫きながら個を磨いてきた。
■早々と天を仰いでしまったあのシーンについて詳しく言及した
こうして迎えたのが8月6日の横浜F・マリノス戦だ。相手は昨季J1優勝チームで現在リーグ2位。対する浦和は4位。
「王者の勝ち点を止めて自分たちが勝ち点を取ることができるという緊張感がありましたが、緊張しすぎないようにと思いながら、ある意味、自分に火を付けるような気持ちでプレーできたと思います」
0-0で終わったこの試合後、早川はプレー全般をそのように振り返りながら、久々だった45分間というプレータイムに思いを向けて、「最後に45分出たのは(5月24日の)ルヴァンカップのホームの川崎フロンターレ戦。そこからはなかなか出場時間をつかめなかったので、強度が高い中での体力面という課題や、ゴール前で自分が決めていれば、というシーンもありました」と語った。
早川が「自分が決めていれば」と言及したのは前半30分の場面だ。
相手のスローインを酒井宏樹がカットし、伊藤敦樹、大久保智明とつないで中央の安居海渡へ。その先はホセ・カンテと伊藤がいずれもワンタッチでハイテンポなパスをついないで敵陣を崩した。しかし、右からの伊藤のクロスに詰めた早川はタイミングが合わないと見て早々に足を止め、天を仰いだ。
「(伊藤)敦樹くんが前にパスを入れたところで、自分はGKと近づきすぎてコースがなくなるかなというのが怖くて止まってしまいました」
スタンドから見ていた者としては、最後まで詰め切ってほしいシーンだった。
早川は普段から「サイドに強力な選手がいるので、遠いところは常に見えるようにしています」と話しているように、この時もサイドの状況をしっかりと把握していたのは間違いない。だから、自分がどのタイミングで詰めればゴールを奪えるか、その道筋をはっきりとイメージできていたのだろう。
■「あそこで諦めるのは早くない?」伊藤敦樹からの指摘
しかし、このケースではひとつのアイデアに固執しすぎたと言えるのかもしれない。
「(伊藤)敦樹くんからは『あそこで諦めるのは早くない?』と言われたし、逆にトモ君(大久保智明)は『確かに分かる。シュートコースをつくりたくなっちゃうよね』と言われました」
そんな風に説明しながら早川は、「自分的にはニアとファーにシュートコースをつくりたかった」という狙いを持っていたことを話した。
フリーでラストパスを受けられそうだからこそ、シュートの成功確率をさらに上げるためにコースを複数つくることに思いを巡らせたのだろう。そこまで考えが及ぶほどの好機だったわけだ。
取材エリアで早川はこのように続けた。
「まだ試合を見直せていないので分かりませんが、GKが出てきてシュートブロックされるのが怖くて止まってしまった、というところがあります。そういう考えが自分の中では一番大きかった。でも、いろいろな見方があると思う。それに、自分が足元に要求していればよかったとか、そういうのもある。どれも次の練習からすぐ改善できるところなので、そういうところからもう1回やっていければと思います」
浦和はこのプレーの直後の前半31分にも、酒井の絶妙なアーリークロスに中央の大久保、ファーの早川が詰めたが、わずかに合わなかったという場面があった。チームとして立て続けに好機を作っていただけに、たとえキレイでなくても、泥臭くても、どうにかシュートまで行けていたら、という場面ではあった。
「そういうところももっと突き詰めていきたいですし、みんなで闘っているので、もっと自分が気を遣えればというところもあります」
早川は言葉にすることで課題を整理しようとしているようでもあった。
■「期待値」ではなく「現有戦力」としての存在感
早川は自分の長所についてこのように語っている。
「ボールをもらった後のコンビネーションだったり、外して前に進んでいくっていうところだったり、スルーパスっていうところ。それが自分の持ち味かなと思っています」
その言葉通り、横浜F・マリノス戦では立ち上がりの前半5分に、マリウス・ホイブラーテンからの縦パスを受けてサイドに流れながらキープし、オーバーラップした荻原拓也にタイミング良くスルーパスを通してビッグチャンスを演出した。荻原のシュートが外れてアシストにはならなかったが、いきなり見せ場をつくったところに、「期待値」だけではない「現有戦力」としての存在感があった。
思い切りの良い左足のシュートには威力があり、小柄ながら当たり負けしないフィジカルの強さもある。試合のレベルが高くなっても判断スピードを含めてしっかりプレーできているように、順応性の高さも白眉な一面だ。加えてm今の浦和には、気になることがあればすぐに選手同士でディスカッションできる建設的なムードがある。17歳が一気に成長していける土壌はある。
“プロ”として迎える最初の試合は8月13日のJ1サンフレッチェ広島戦。日頃からモットーとしている「得点でもアシストでもチームの勝利に貢献したい」という思いをピッチでどのように表現できるか。今のプレーもこの先の成長も、どちらも楽しみだ。