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地方創生を食い物にする自己承認欲求コンサルたち

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
撮影筆者

地方創生と言われるようになってから、様々な取り組みが各地で行われている。成功も数多いが、もちろん失敗に終わるものも数多い。何もしないよりは、とにかく何かに取り組んでいくという前向きな姿勢が大切である。しかし、都会からやってきたダメコンサルタントに引っかき回され、お金も持っていかれ、残ったのは使い勝手の悪い建物と壊れてしまった人間関係というケースも多い。

ちゃんと実績もあり、きちんと仕事をやるコンサルタントも多い。にもかかわらず、「どこから、どうやってこんな・・・」と呆れるほどのダメコンサルタントを多額の資金を投じて雇っている地方自治体や地域振興団体も多い。

ここでは、そうしたダメコンサルを雇わないために、自治体職員や地方議会の議員、関係団体の職員など雇う側が注意する点をまとめてみたい。

・エセ取材なんぞに喜ぶな

地方でなにかプロジェクトをやって、少し知名度が上がると、事務局が閉口する事象が起こる。コンサルタントだの、コーディネーターだの、ファシリテーターだの、モデレーターだの、アドバイザーだの・・・・そういう人たちの売り込みだ。中には「取材」などという口実でやってこようとする。実は、そのほとんどが「営業」にしか過ぎない。

この「取材」と言うのは曲者である。今まであまり注目もされなかった自治体や外郭団体などに、「東京のコンサルさん」から「取材」の電話が入ったりすると、喜んでしまうのは判らないでもない。しかし、実際には、マスコミでもない限り、「取材」などという言葉は使わない。

ちゃんとしたコンサルタントの人たちであれば、ある程度のプロジェクトが進行しているのを見れば、すでにそこには同業者か、それに近い存在がいることも察する。なので、こうしたアプローチはしてこない。ところが、こうした人たちは、「アドバイスする人がいないようだから、私が。」、「私が指導してあげよう。」とやってくる。ダメコンサルのダメコンサルたる第一歩である。

中には、「取材」した内容を、いかにも自分がやったかの如く、あちこちで吹聴して回り、「~の立役者」などと自称して歩くダメコンサルもいるから要注意である。

コンサルタントを雇うなら、自称だけを信じるのではなく、本当にその人の実績なのか、自ら出向いて調べるくらいの努力は必要である。

・自撮り写真マニア

「取材」とやらに来ると、やたらに自撮りで他人と写真を撮りたがるダメコンサルがいる。嫌がられようがなんだろうが、関係なく、肩を抱いて、いかにも親しい間柄のようにして写真を撮る。

撮ったからといって、掲載する媒体などないので、その画像は、自身のブログやフェースブックなどにどんどんアップする。要するに、「自分はいかに多くの人たちに好かれているか」ということをアピールするためである。ただし、そのアクセス数を見てみると、そんなことに協力させられるメリットは全くないことがほとんどだ。

そもそも応援している企業や商店を紹介するのに、いちいち自分が写りこまなければいけない理由はない。要するに、載せたいのは自身の顔であり、いかに頑張っているかを認めて欲しいのだろう。

・まずは上から目線で

最初からやたら上から目線で、「お前たちはやる気がない」、「俺が教えてやる」といった言動でやってくるコンサルタントが結構いる。先に書いたよく訳の分からないカタカナの肩書きがずらりと並ぶ名刺と同様、ダメコンサルの典型である。

そこまで上から目線でやってくるので、さぞかしこちらのことも調べ上げ、他の事例もよく知っているのだろうと聞いてみると、怒りを飛び越し、笑いを堪えるのに必死になる。

手抜きで調べてこないのか、全くのど素人で調べられないのか、いずれにしても理解に苦しむが、いまどき、少しインターネットで調べれば、ある程度の情報が入手できるはずだ。ところが、全くそれがない。高齢の人ばかりかと言うと、若い人たちにもいるから、驚きである。

どういう感覚なのか、自信満々で乗り込んできて、いろいろとケチをつける。ところが、それらのほとんどがすでに手を打っていたり、そうしている理由があることばかりである。こちらが公表している資料なども、全く読まず、「新しい提案」どころか、難癖に近いことを言っているだけなのだ。なかには、法規制でできないようなことを平気で「新しいアイデア」などと言ってくるダメコンサルまでいる。

なかには断ると、「親切心で言ってやっているのに、なぜ話を聞こうとしないのか」とか、「法律など守っていたら、何もできない」などと逆切れする人もいるので、非常に面倒である。

・共同会社を作れという理由

地域振興するためには、地域の産品を首都圏や海外で販売していくことも大きな課題だ。しかし、それを手掛けた経験がある人なら、それがそう簡単ではなく、用意周到な準備が必要なことも理解しているはずである。

ところが、最近、やたら「共同で販売する会社を立ち上げよう」と檄を飛ばすコンサルタントがいる。「首都圏で販売するためには、みんなで共同の会社を作り、事務所を持って、営業活動をするのだ。資金が集まらないのは、やる気がないからだ」と怒る。なぜ、ダメコンサルほど、共同会社を作れとうるさいのか。

地方の生産者が、自身で販売までを手掛けようとした時に、株式会社などの法人格を持つことは、一つの方法としてあることだ。しかし、個人事業主として、生産や販売を行うことも、間違っている訳ではない。ある地方の生産者は、公認会計士の指導を受けているが、「今の売り上げだと、法人格にしてもプラマイゼロで手続きだけ煩雑になる。もう少し頑張って売り上げを伸ばしてから、法人化しましょう」と言われている。これこそ、まっとうなアドバイスだろう。

販路もなく、売り上げを上げる見通しもないのに、出資金を募って会社だけ作っても、何の意味もない。共同出資で設立した企業は、うまくいけば行ったで、利益配分などを巡ってトラブルになる事例も多い。出資者同士の信頼関係が醸成されていて、初めて共同会社として機能していく。

さて、ダメコンサルの言っていることをよく聞くと、要するに「会社を設立したら、自分を東京所長とか、営業担当で雇え」というのだ。なんということはない、自分のために会社を作らせようということなのだ。そもそもちゃんとした事業計画書の一つも書けないようなコンサルタントの口車に乗って、会社だけ作っても、ある中小企業経営者曰くの「会社ごっこ」に過ぎないのは当然である。

・元職しかウリがない

「バブル時代には、まだネットがなく、力のあった旅行代理店の言うことを、みんなが聞いてくれた。しかし、今はもう、そんな時代じゃないのに、未だにその時のことが忘れられないでいる人たちが、元の所属をウリにコンサルタントとか言って闊歩している。情けない限り。」自身もある大手旅行代理店で働いた経験のあるコンサルタントは、そう嘆く。

旅行代理店だけはなく、大手企業の勤務経験をウリにするコンサルタント志望者は多い。もちろん、それぞれの企業での経験や人脈を生かし、素晴らしいコンサルタントとなって活躍している人も少なくない。しかし、そうした人たちは、ことさらに辞めた企業の社名を振りかざしたりはしない。

「大企業の看板を背負っていたから、仕事が来ただけで、実力があったわけじゃない。実力がある人間は、企業を辞めてもどこかからか声がかかる。いつまでも、元どこどこの社員だったと言わなければならないのは、実力がありませんと言って歩いているようなもの。」大手企業を辞め、コンサルタント会社を立ち上げた経営者は、そう言う。

ところが「旅行代理店のコネがあるとか、昔の部下がいるから、自分から言えばお客を連れ来るとか、もうそんなことはないのに言って歩いている。我々からすれば、迷惑でしかない。」と大手旅行代理店の現役社員はため息をつく。

・「ブランド戦略の一環」で、パチコン屋の交換景品に

地方で話を聞いていると、被害に遭った人には悪いが、「どうしてそんなことに」と噴き出してしまうような事例にぶつかる。

ある地方自治体が雇ったコンサルタントは、周辺地域の若手農家に声をかけ、「ブランド化を進めて、高級品化しよう。高くで売ろう。」と、首都圏での販売を推奨して回った。「優秀な首都圏の商店経営者が協力してくれる。一緒にブランド化を進めよう」と声をかけて回ったのだ。

数か月後、関係者が驚くことが起こった。そのコンサルタントが成功事例として、ネットに公開した画像には、「ブランド化、高級化」を進めるはずだった商品が、あろうことか下町のパチンコ店の交換用景品として並べられているのが写っていたのだ。

「そんなバカな。作り話だろう。」と言われそうなレベルのことが、実際には地方では起こっている。この同じコンサルタントは、「東京の百貨店で産品を並べることができました」と言い、実際には安売りで有名なスーパーだっという一昔前のコントのようなことも引き起こしている。それでも性懲りもなく、同じようなことを繰り返すこのコンサルに、ある地方自治体は高額の報酬を払い続けている。

自己承認欲求コンサルに騙されるな

ここで紹介した事例に出てくるダメコンサルたちには、ある共通した特徴がある。それは、自己承認欲求の強さだ。

多くの人が騙されてしまう理由も、実はここにある。自己承認欲求が強いがために、実際以上に自分を大きく見せようとする。地方からすれば、「東京のコンサルタントさん」というのだって、大きく見えてしまう。(実際に、騙されて、あとで困ったという人たちに聞くと、そう答えが返ってくる。)

しかし、ここで注意しなくてはならないのは、この自己承認欲求の強い人たちは、要するに「認められてこなかった」人たち、つまり「実績のない」人たちなのだ。自己愛が強く、実際以上に自分のことが優秀だと思い込んでいる。だからこそ、いきなり上から目線で、地元の人や、今行われている事業を小ばかにするところから入り込み、元の職場からはいまだに認められており、地域振興の「立役者」になれると主張するのだ。ただ、哀しいかな、その実績も、実力もない。

「東京から来て、偉そうにしている人を先生、先生と呼んでいたら、なにか仕事をしているような気になってしまっていた。」とある自治体の職員が自嘲的に言った。自己承認欲求を満たしてあげたところで、相手はなにも与えてはくれない。与えてくれないどころか、やっとのことで得た補助金や助成金を持って行ってしまうだけだ。

雇う側も勉強しなくては

自己承認欲求コンサルたちに入り込まれる側、つまり雇う側にも問題がある。どういう人物なのかは、いまどき、ネットで検索すればある程度は判る。それなりにコンサルタントしての実績があれば、本人が掲載していなくても第三者なり、関係した機関が情報を掲載している。なにも出てこないというのは、そういうことなのだ。

それすらもせず、ただいたずらに「東京から来たコンサルタントさん」というだけで信用してしまうというのは、雇う側、騙された側にも責任がないとは言い難い。

特に地方自治体やその資金を使う外郭団体で、巨額のコンサルタント料や事業費をなんのチェックもなく渡してしまうのは、雇う側の不勉強以外のなにものでもない。

さらに恐ろしいことに、こうした自己承認欲求の強い人たちは、一度雇われたところの肩書きを使って、いかに自分が素晴らしいかを宣伝し始める。なんらリターンがなく、ただ消費するだけの無駄な事業も、彼らにかかると、自分たちの「実績」となるのだ。

三年やってダメならクビにしろ

筆者は、こうした問題のあるコンサルタントと契約してしまって困っているケースで相談を受けたら、いつも同じことを言っている。

「三年間続けてみて、なんら実績が上がらないのであれば、クビすればいい。」

地域振興の仕事は、そう簡単ではない。一年で実績を上げるというのは、なかなか難しい。しかし、三年やってみて、なんら実績が上がらないのであれば、そのコンサルタントを継続して雇う意味はない。

人口減少と高齢化が進み、地方の経済運営は、現実には瀬戸際である。強い自己承認欲求だけしか持っていないダメコンサルに、巨額の資金を投ずる余裕はないはずだ。「雇う側」も、もう少ししっかりしよう。

神戸国際大学経済学部教授

1964年生まれ。上智大学を卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、山形県川西町総合計画アドバイザー、山形県地域コミュニティ支援アドバイザー、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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