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X(Twitter)は有料化する? マスク氏は何を語ったのか

山口健太ITジャーナリスト
マスク氏とネタニヤフ首相が対談(ネタニヤフ首相がXに投稿した動画より)

イーロン・マスク氏が、X(Twitter)のすべてのユーザーを有料化する可能性がある、といったニュースが話題になっています。

一方、「それはデマである」との指摘も多くあるようです。いったいどちらが本当なのか、対談で語られた内容を確認してみました。

マスク氏は何を語ったのか

この話題の元ネタは、イーロン・マスク氏とイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との対談の中で出てきた発言です。

結論から言うと、マスク氏は「すべてのユーザーを有料化する」と直接的に発言したわけではないので、どう解釈するかで受け取る印象は変わってきます。

対談の動画はネタニヤフ氏のXアカウントに投稿されているので、気になる人は各自で見て判断することをおすすめします。

この対談は訪米中のネタニヤフ氏が、テスラの工場を訪問した際に行われたものです。Xでは「反ユダヤ主義」に関する一連の騒動があり、マスク氏はヘイトスピーチ対策などを説明する立場に置かれていたとみられています。

32分35秒付近から、マスク氏は「Xでは5億5000万人の月間アクティブユーザーが毎日1〜2億件の投稿をしている」と、莫大な数の投稿があることを説明。ヘイトスピーチの拡散防止に取り組んでいることに増えています。

これに対してネタニヤフ氏は、たった1つの投稿であっても、「ボット軍団」による複製や拡散によって膨大な数になっていることを指摘します。

34分37秒付近から、マスク氏はボット対策が困難なことを認めた上で、「我々がXの利用に少額の月額課金をする方向に動いている理由は、それがボット軍団と戦うための唯一の方法と考えているからだ」と語っています。

その根拠としては、ボットを作るのに少しでも費用がかかれば痛手になり、クレジットカードが必要となれば(たとえ不正に入手したとしても)その枚数が制限となることを挙げています。

その上で、X Premiumを契約しているユーザーからの投稿は優先的に取り扱っていることを挙げ、さらに安価なプランを作るアイデアにも披露しています。

この発言を受け、英語圏のメディアではBBCのように「すべてのユーザーを有料化する可能性」と報じたところもあれば、反ユダヤ主義の問題を中心に報じているところもあります。

筆者の理解では、たしかに「全体を有料化する」と受け取られかねない発言とは感じるものの、ヘイトスピーチやボット対策としては、マスク氏が以前から語ってきた内容と重複しています。

Xが少額の月額課金に向けて動いているという発言についても、その後の説明とあわせて考えると、これまでのX Premiumの取り組みと、今後のプラン拡充を念頭に置いているように受け取れます。

マスク氏の口調からも、大きな方針転換をしようという意図は感じられません。どちらかというと、対談相手であるネタニヤフ氏の顔を立てながら、個人的な意見を含めて説明を尽くすことで不安の払拭に努めた、という印象を受けます。

広報不在という問題も

マスク氏は一連の報道に対して肯定も否定もしていないため、真意は不明です。しかし、もし「有料化」に踏み切れば、たとえ月に1ドル程度の課金であったとしても、アクティブユーザーの激減は避けられないでしょう。

また、売上が下がっているとはいえ、Xは世界有数の広告プラットフォームです。有料化となればその影響は甚大であり、広告主との関係を修復するために新CEOを迎えた動きとも矛盾しています。

政府や公的機関のアカウントによる防災・災害情報の発信については、APIを無償利用できる制度があるといいます。そうした公共の目的での発信は、多くの人が無料でXを利用できることを前提にしているはずです。

もし、X Premiumより安価なプランが作られるとしても、表示の優先順位などで差別化されることはあっても、基本的な閲覧や投稿は無料で使えるものと筆者は考えています。

気がかりなのは、Xには「広報」が不在の状態が続いており、正確な情報が提供されない点です。こうした不安定な運営を嫌ってXへの課金をためらったり、他のSNSへの移行を考えたりするユーザーが増える可能性はあります。

追記:

その後、イーロン・マスク氏は一連の報道について反応し、コミュニティノートの指摘を支持していることから、「すべてのユーザーを有料化するわけではない」という解釈で合っているようです。

https://twitter.com/elonmusk/status/1704459036547059852

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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