PS5 このタイミングでなぜ値上げ その先の懸念も
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が、家庭用ゲーム機「PS5」の価格を9月2日から変更すると発表しました。2種類のPS5がいずれも1万以上の大幅な値上げです。今回の値上げの意味を考えてみます。
PS5(通常モデル)の新価格7万9980円 (現行価格6万6980円)
PS5(デジタル版)の新価格7万2980円 (現行価格5万9980円)
・日本国内におけるPS5および関連周辺機器の希望小売価格改定に関するお知らせ(PlayStation.Blog)
◇「日本への配慮」なくなる
PS5は昨年10月に新モデルを発表して、そこでも値上げをしています。最初(2020年)から考えると何と2万5000円もアップ。SNSでは当然ながら大不評の声ばかりです。
ですが、円安から考えると一応は納得のいく話です。米国の通常モデルは約500ドル(正確には499.99ドル、税抜き)でした。日本の最初の価格は4万9980円(税抜き)で、レートは1ドル104円。日米の価格が釣り合っています。
昨年の新モデル発表で、日本の価格は税込みで6万6980円(税抜き6万1000円弱)。米国の価格は据え置き(約500ドル)で、当時のレートは1ドル150円でしたから、日本で買うと約1万4000円お得でした。
今回の値上げした価格は、7万9980円(税込み)なので、税抜きにすると7万3000円弱。レートは1ドル145円ですから、500ドルは7万2500円。釣り合っています。
要するに1年前にあった「日本への配慮」が今回なくなったとも、ある意味レート通りになり、公平になった……とも言えます。ただ、なぜこれまで配慮していたのに、このタイミングで値上げをして、レート通りにしたのでしょうか。
◇市場規模 戦略も影響か
考えられることは三つあります。一つは円安の影響、世界的なインフレ、部材の高騰などの影響で、日本市場への配慮がそもそも難しくなったこと。当然ですが1ドルのレートが100円台のままであれば、ここまでの値上げは不要だったでしょう。
二つは、日本市場への配慮がなくても「問題なし」と経営的に判断した可能性です。PS5の主戦場は欧米で、日本市場のシェアは1割程度です。任天堂も欧米が強いのですが、それでも日本のシェアはまだ3割程度あります。PS5のビジネスにおいて、日本の重要度が低くなるのは仕方のない面があるのです。PS2の時代はゲーム機本体が国内だけで2000万台売れていましたが、PS5は現時点で約600万台といったところ。世界出荷数と地域の比率を考えると、その差は歴然としています。
三つ目は、ソニーグループの戦略です。ソニーのゲーム事業(SIE)は売上高4兆円を誇り、グループ全売上高の3割を占める“稼ぎ頭”です。そして今や、PS5本体だけでなく、PCでもソフトを同時展開し、さらに言えば任天堂のゲーム機(ニンテンドースイッチ)での展開も許容。マルチ戦略に切り替え、売り上げの最大化を図っています。つまりPS5本体が売れなくても、総合的に売り上げが大きくなれば、それでよい……と考えているといえます。
・10年足らずで激変! ソニーのゲームビジネス変遷 #専門家のまとめ(河村鳴紘)
取材をしている限りでいえば、SIEの戦略・方向性は近年、米国主導の勢いがさらに強まり、売り上げ・数字をかなり重視していると感じます。そして手間のかかる日本市場は、何かと効率が悪い。実際、売り上げ増の見込める日本の企画が流れた例も聞かされたことがあります。
ゲームファン視点で見ると、不満だらけの今回の値上げ。しかし世界的なインフレ、マルチ戦略の方向性、日本市場の規模を総合的に踏まえ、これまで決算を見てきた視点から考えると、ソニーのゲーム業績に大きな影響を及ぼす……とは思えません。繰り返しますが、日本の市場規模が小さいからです。
◇今後出るゲーム機の価格は大丈夫か
むしろゲームファンとして懸念するべきは、その先の話でしょう。世界的なインフレ、円安を考えたとき、うわさに出ているPS5の強化版(通称・PS5 Pro)、そしてニンテンドースイッチの後継機種でも、価格が安くなる要素がありません。ゲーム機が高性能であればあるほど、価格は上がりますし、日本に配慮した価格にすると、転売などのよからぬ動きを招きそうだからです。
今後のソニーグループの決算で、好調を持続するようであれば、今回の決定は“正解”となるわけです。そして家庭用ゲーム機は世界的な商材で、コストやレートの話を無視して値段をつけるわけにはいきません。ただし、何十時間、場合によっては何百時間も遊べてしまうテレビゲームは、費用対効果を考えると「庶民の味方」という一面がありました。しかし日本でゲーム機本体の価格がここまで上がると、そう言えなくなりつつあるのでは……と思えてしまうのです。