球春来たる。プロ野球キャンプ、「練習試合」のススメ
気がつけば、2月も下旬に差し掛かろうとしている。つまり、2月1日に始まったプロ野球のキャンプも仕上げの段階にきているということだ。少し前までは、2月第3週の週末からキャンプ地でのオープン戦が組まれ、キャンプ打ち上げ後の3月に入れば、各チームが各地を転戦しながら実戦を積み、本拠地でのオープン戦で顔見世して、開幕に突入していた。
各チームのファンが来たるシーズンに胸をときめかせながら地方の小ぢんまりとした球場で観るオープン戦は、野球ファンにとって春の年中行事のようなものだったが、近年は地方球場で組まれるオープン戦が激減してしまっている。
ちなみに今年の場合、沖縄のキャンプ地以外の地方球場で行われるオープン戦は10試合組まれているが、そのうち8試合は寒冷地の屋外球場を本拠としている楽天が「春のホーム」と位置づける静岡での試合。またオリックスは、二軍本拠のある大阪・舞洲のシティ信金スタジアムで1試合を組んでいる。そう考えると、純粋な意味での地方球場でのオープン戦開催は、ソフトバンクが巨人を迎えて行う熊本での1試合のみということになる。近年においては、キャンプ地以外で行うオープン戦は、本拠地球場で実施するという流れになっているようだ。
そういう意味では、野球ファンの春の風物詩はなくなりつつあるように映る。
その中で、地方球場でののどかなオープン戦の雰囲気を受け継いでいるのが、近年、増加している「練習試合」だ。実戦重視の傾向を強めるキャンプにおいて、各球団は、紅白戦に代わり他球団との練習試合を多く組むようになった。今や春季キャンプの聖地となった沖縄には日本の球団だけではなく、韓国の球団も腰を据えている。試合相手には困らない。今年の場合、WBCがあるため、いくつかの出場国が沖縄や宮崎でキャンプを張り、日本のチームと実戦を行っている。この時期の沖縄では、今年は国際試合も観ることができるのだ。
NPB当局の管轄の下、興行として実施されるオープン戦と違い、練習試合は各球団がキャンプメニューの一貫として行うもので、要するに入場料は基本的にかからない。それでも昨今は、場内アナウンスやスコアボードでの選手名の表示など有料試合同様の運営がなされている。おまけに小さな球場で行われるため、公式戦ではなかなか座ることのできない「特等席」で選手たちを間近に見ることができる。そういう意味では、「お得感」のある試合であると言えるだろう。
楽天イーグルスの春のホーム、金武
今回訪ねたのは、楽天のキャンプ地、沖縄本島の金武(きん)町。楽天はこの町にある金武町ベースボールスタジアムをキャンプで使用している。
楽天球団は、2005年のパ・リーグ参入以来、ながらく沖縄県の離島、久米島をキャンプ地としていたが、各球団が本島でキャンプを張り、練習試合を多く組むようになると、実戦の相手がいない離島でのキャンプに限界を感じたのか、金武での新球場完成を待っていたかのように、2012年より久米島でのキャンプを2月中旬で引き上げ、ここで練習試合を行うようになった。2018年からは、正式に一軍の2次キャンプ地となり、コロナ禍もあり久米島でのキャンプが中断されると(今シーズンは二軍キャンプ地として復活)、金武は楽天一軍のキャンプ地としての地位を確立することになった。
実際に足を運んでみた。すぐ北隣の宜野座村での阪神ほどではないものの、週末の試合日ということもあって、金武町ベースボールスタジアムは、多くの人で賑わっていた。この日の対戦相手は、同じパ・リーグのロッテ。試合が始まる頃には、約2000人収容の球場は大入りとなった。
試合の方は、ロッテ投手陣から17得点を奪った楽天打線の活発さだけが目立った。昨年巨人から戦力外通告され、育成選手として楽天に拾われたウレーニャがバックスクリーン右に飛び込む先制の2ランを放つなど、4打数4安打を放つなど、本契約に向けて猛アピールしていた。
一方の投手陣の方も、先発の荘司(立教大)、2番手の小孫(鷺宮製作所)のドラフト1、2位コンビが、ともに2回を無失点に抑え、上々のデビューを飾った。
彼らのような期待の若手のいきいきしたプレーを見ることができるのも、キャンプ中の練習試合の醍醐味であろう。
結局、楽天・石井、ロッテ・吉井という元メジャーリーガーの監督対決「初戦」は、活発な打線を擁する楽天の圧勝で終わった。
入場無料ではあるものの、この練習試合は、インターネット中継で流され、それゆえ、広告やスポンサーも出るようになった。日本のプロ野球にも、ようやくキャンプを収益のコンテンツにしようという動きが出てきたようだ。
プロ野球はそろそろ本格的なオープン戦期間に突入する。その前に、昔ながらの牧歌的な風景の中、若い選手たちが開幕一軍目指し、溌剌としたプレーを見せてくれる練習試合観戦にぜひとも足を運んで欲しい。
(写真は筆者撮影)