電通トップらを独禁法違反で立件できるか? 東京五輪談合、今後の捜査の焦点は
東京五輪を巡る談合事件で、東京地検特捜部は大会組織委員会の元次長や電通元幹部ら4人を逮捕した。独占禁止法違反の容疑だ。組織委の元理事らによる汚職事件の解明から始まった五輪捜査が新たな局面を迎えている。
「自首」の見返りあり
特捜部は、昨年11月に元理事らに対する捜査を終えると、「返す刀」で電通や博報堂などを幅広く捜索した。2018年に組織委が発注し、電通など9社と一つの共同事業体が総額5億円あまりで落札したテスト大会に関する26件の計画立案業務について、入札前に受注調整をしていたとされる容疑だ。
ここで重要となるのが、刑法の談合罪ではなく、独禁法違反を適用しているという点である。談合罪は個々の発注業務などを対象としており、1つの発注業務の入札で談合が行われればそれだけで犯罪だが、独禁法違反は「一定の取引分野における不当な取引制限」が要件となる。
年間を通じた一大プロジェクトのように広範囲の取引について、業者間で包括的に落札業者などを割り振るという「合意」の存在がポイントだ。独禁法違反のほうが悪質だから、最高刑も談合罪の懲役3年・罰金250万円に比べ、懲役5年・罰金500万円と重い。
一方で、独禁法違反には2006年に導入された「リーニエンシー」という制度がある。談合を自主申告し、公正取引委員会の調査に協力すれば、課徴金の減免を受けられるばかりか、調査前の最初の申告者は刑事告発の対象から外される。
今回のケースでも、体操の競技場などに関する計画立案業務3件を総額約1億円で落札したADKが他社に先駆けて公取委に「自首」したとされており、特捜部としてもあらかじめ談合に関する資料や具体的な供述を得た上で電通などに切り込むことができた。
今後の捜査の焦点は?
特捜部は、これまでの捜査で受注調整を裏付ける「リスト」やメールなどを押収したほか、数多くの関係者から談合に関する自白を得ている模様だ。
その見立ては、日本陸上競技連盟から出向し、組織委で東京五輪の運営全般を統括していた元次長が中継役として電通と談合を主導した上で、2018年2~7月にかけて業者間で「合意」が形成されたというものである。
しかも、この「合意」には、その後、電通など落札業者が随意契約によって総額約400億円で受注することになったテスト大会の実施業務や本大会の運営業務も一体のものとして含まれているという。
今後の捜査の焦点は、元次長らが談合に至った経緯や動機の解明のほか、組織委内外におけるほかの関与者の有無だ。元次長の供述が重要となるが、大会を成功させるため、準備に遅れが出ないように業者を当てはめたといった説明をしているとの報道もある。
ただ、元次長ら組織委の役員は「みなし公務員」だから、接待や金品の授受があれば贈収賄に発展する。元次長よりも上の立場の幹部や国会議員らから受注業者選定に関する推薦や横やりはなかったのか、また、彼らに対する業者からの見返りはなかったのかがポイントとなるだろう。
法人や代表者の立件は?
刑法の談合罪による処罰は担当者ら個人に限られるが、独禁法違反だと両罰規定があるから、法人にも最高5億円の罰金を科すことができる。加えて、法人には課徴金という行政罰まである。事案によってはその額が罰金額の何倍にも上ることもある。
特捜部は、公取委の調査前に自ら談合を申告したとされるADKだけは対象外とするものの、電通など法人をも軒並み独禁法違反で立件し、その刑事責任を追及することだろう。今や「談合は必要悪」という言い訳が通る時代ではないし、世界的レベルのスポーツイベントに関する事件であり、国民の関心も高いからだ。
さらに、独禁法には違反行為を防止しなかった法人の代表者に対する罰則規定まである。談合に関する計画や談合の事実を知っていたのに、その防止や是正に必要な措置を講じていなかった場合、最高500万円の罰金を科すことが可能だ。
トップまで立件できるか否かは、逮捕された電通元幹部ら担当者が受注調整に関する報告を社内の誰まで上げており、彼らからどのような指示を受けていたのか、元幹部らの供述やそれを裏付ける客観証拠の存在が重要となる。
組織委関係者や電通などから押収した多数の証拠物は特捜部にとって「宝の山」だろう。ほかにも、五輪招致活動や開催期間中の接遇に際して日本側から五輪関係者らに不正な金品の交付はなかったのか、また、大阪万博など別の大型プロジェクトの受注業務でも同様の不正はなかったのか、広く深い事件の掘り起こしが期待される。(了)