Yahoo!ニュース

ベテランは切り捨てるべきなのか?競争と伝承。東アジアカップの敗因を検証する。

小宮良之スポーツライター・小説家
東アジアカップで指揮をとるハリルホジッチ監督。(写真:アフロスポーツ)

中国の武漢で開催された東アジアカップ。日本は最終戦の中国戦に1-1と引き分け、(2分け1敗と)1勝もできずに大会を終えることになった。大会中、選手たちは経験を積むことで成長していたが、多くの局面で未熟さを晒した。Jリーグではあまり見られない放り込みに狼狽し、自分たちの長所を出せないという脆さを見せ、勝ち切るしたたかさも乏しかった。

「世代交代」

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は30才以下のキャップ数の少ない選手を選び、日本サッカーの新陳代謝を促そうとしていたのだろう。2011年アジアカップ優勝のメンバーが未だに主力を担っている現状で、東アジアカップを「新たな人材発掘の場」と目論んでいたに違いない。そうした事情により、結果を残しているベテランよりも、クラブでようやくポジションをつかんだ程度の若手選手も選ばざるを得なかった。

しかし"与えられたポジション"で、選手は覚醒するのだろうか?

その答えは、東アジアカップの惨状を前に語るまでもないだろう。

そもそもの話、「30才を過ぎたらベテラン」と一括りにするのは正しくない。なぜなら、日本人選手は晩成型の選手が少なくなく、35才になる遠藤保仁は老成することによって自身のプレーを磨いてきた。31才の長谷部誠も、2007年にドイツ、ブンデスリーガに渡って以来、昨季がキャリアハイの成績だった。生真面目な日本人は、"日々研鑽を積む"というタイプが多く、自由な発想や閃きよりも、経験によって力を身につける場合が多い。

今シーズンのJリーグ得点ランキングで上位に名を連ねているのも、大久保嘉人(33才)、佐藤寿人(33才)、豊田陽平(30才)らいずれも三十路のストライカーたちである。彼らは20代の時よりも老練さを増している。冷静に駆け引きしてポジションを取り、シュートの場面では落ち着き払い、容易くゴールを奪うという術を身につけた。

「若い頃はガムシャラにやり過ぎていて、無駄に力んでいた。経験の中で、どこで勝負すべきか、分かるようになってきたんです」

豊田はそう語っているが、日本人FWは年輪を増すごとに得点能力が上がる傾向がある。Jリーグ通算最多得点の記録を持つ中山雅史が初めて得点王になったのも、実は三十代になってからだ。

経験を蓄積して実力に還元することに、日本人選手の特性はある。

実際、今回の東アジアカップに選ばれなかったO―30の選手だけで、魅力的な"代表メンバー"を構成できる。中澤佑二(横浜F・マリノス)、阿部勇樹(浦和レッズ)、今野泰幸(ガンバ大阪)、大谷秀和(柏レイソル)、中村憲剛(川崎フロンターレ)、大久保、佐藤、豊田。一例に過ぎないが、彼らは今季のチーム殊勲者であり、Jリーグ選抜としては東アジアカップ代表メンバー(の大半)よりもふさわしい。

もちろん、ベテランだけで代表を構成するのはナンセンスであり、異論があって当然だろう。

しかし日本サッカーを強化していく上で、代表はなにより結果が求められる。それはどんな大会であっても変わらない。なぜなら代表は強さこそが唯一、正当性を証明する方法で、負けてしまったら問答無用に求心力を失うからだ。

「アジアですら勝てない」という失望感は、ひたひたと広がる。失った興味や人気を取り戻すのは容易ではないだろう。それはプロスポーツにおいて、看過することのできない事態と言える。ベテランに依存するべきではないが、彼らが伝えられる経験は、大会や試合の中で若手に与えられるものも小さくない。例えば、「悪い流れの中でどう立ち振る舞うべきか」を教えられるのは、歴戦の猛者たちではないだろうか?

伝承。

先人が後進に伝える経験にこそ、日本サッカーは真の強さを見いだせる。若手とベテランが融合することにより、ジェネレーションは太い絆でつながれていくだろう。日本サッカーは欧州や南米の列強国と比べると、まだまだ層が厚いと言えず、なおさら旧世代の経験を断ち切るべきではない。

「30才以上だからノビシロがないよ。若手に切り替え」

その程度の切り捨て判断なら、プロフェッショナルでなくともできる。年齢とは関係なく、その実力を見極めるべきだろう。現時点でリーグ最高のパフォーマンスをしているならば、その選手は何歳であろうとも代表に招集し、その経験や力を若手に伝播させるべきである。

「日本サッカーの危機」

ハリルホジッチはそう嘆いたそうだが、「Jリーグの選手は無力」という結論に帰するべきではない。Jリーグの若手選手が未成熟なのは当然。彼らは成長の触媒を求めているのだ。

正当な競争と伝承。

その二つこそ、日本サッカーが世界で戦い抜く鍵となる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

小宮良之の最近の記事