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日本代表対B&Iライオンズ見どころ3点。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
現地調整中。ボールを持つのは松島(写真提供=JRFU)

 2019年のワールドカップ日本大会で初の8強入りを果たしたラグビー日本代表戦は、日本時間6月26日、約1年7か月ぶりの代表戦を実施。場所はスコットランド・エディンバラのマレーフィールドで、相手はブリティッシュ&アイリッシュ・(B&I)ライオンズだ。

 本稿では、両軍の背景と特徴、さらに栄えある大一番の見どころを紹介する。

両軍の背景は

 B&Iライオンズはイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドという欧州の強豪4協会が4年に1度だけ編む連合軍だ。

 その都度、南半球の強豪国を訪れる。今回は南アフリカへ渡る前に、地元で日本代表と初めてぶつかる。

 

 B&Iライオンズを形成する北半球勢は、伝統的にキックによる陣地獲得、スクラム、ラインアウトからのモールといったフィジカリティを活かすプレーに活路を見出す。近年は南半球出身の指導者の影響で展開力も重視するが、普遍的なよさは変わらない。

 かたや日本代表では、ニュージーランド出身のジェイミー・ジョセフヘッドコーチ、トニー・ブラウンアタックコーチのもと、サポートや突進のできるフォワードの選手が左右、中央にまんべんなくポジショニング。その間をつなぐバックスラインの選手が状況を見て、パス、キックを大胆に繰り出す。

 どれだけキックを蹴るか、どれだけパスを回すかの配分は対戦相手との相関関係によって微調整。日本大会でアイルランド代表、スコットランド代表を下した際はボールキープ重視の策を採った。

 日本大会以前からの歴史的背景、欧州勢が今年までに代表戦を再開させている状況を鑑みれば、日本代表が挑戦者に位置しそうだ。ジョセフは「自分たちにフォーカス」と連呼。相手の動向に囚われるよりもまず、自軍の積み重ねてきたプレーを発揮することに「フォーカス」すべきとの考えである。

 古今東西、挑戦者が強者を下す際は、相手の強みを最小化して自分たちの強みを最大化しているもの。その意味で「自分たちにフォーカス」するのに必要な項目は以下の3つ。そのまま試合の見どころになりそうだ。

焦点1  1対1&ブレイクダウン

 日本代表のエースである松島幸太朗は、「ジャパンはチャンスがあればすぐに展開ラグビーもキッキングゲームもできる」。その起点となるのが、1対1のぶつかり合いとその後の密集戦(ブレイクダウン)だ。

 5月下旬からの別府合宿中では、「コンタクトには、こだわっている」とリーダー格の中村亮土。ボールを持って大型選手の懐をかいくぐったり、ボールを持った大型選手の足元へ低く突き刺さったり。その延長で、味方ランナーを素早く援護したり、接点の相手の球へしぶとく絡んだり…。

 このように、小よく大を制するを地で行く動きで先手を取れれば、用意されたプランの威力は増す。日本大会での快進撃も、迫る大男を跳ね返したタックルと、その後の起き上がりに支えられていた。

 裏を返せば、この領域で差し込まれると優れた計画も絵に描いた餅となる。

 6月12日に静岡で実施した強化試合では、急造のサンウルブズというチームの海外出身選手に肉弾戦で圧をかけられた。リーチ マイケルはこの試合を前に、「体力的には前回(2019年)といまとでは差があって。そこを維持することはできないです。強化しなくちゃいけない」と気を引き締めていた。

 ジョセフと親交の深い藤井雄一郎ナショナルチームディレクターは「ワールドカップでいいイメージで終われたところから、もう一度、泥臭いこともやらないといけないことがわかった」と改善に前向き。いずれにせよ今度の80分は、2023年のワールドカップフランス大会に向けたベンチマークにもなる。

焦点2 スクラム

 スクラムとは、フォワードが8対8で組み合う攻防の起点。軽い反則の後におこる。

 力自慢の多いB&Iライオンズが圧力をかけたがりそうな領域である一方、チーム間での反復練習が必要なプレーでもある。

 寄せ集めのB&Iライオンズに対し、日本代表はここまで約3週間、日本大会組に至っては数年間の積み上げを有する。長谷川慎コーチの仕込む小さな塊が大男のつながりを引き裂く場面が、いくつ生まれるか。

 日本代表のスクラムでの奮闘は、相手の得点源たるモールを防ぐ要因にもなる。左プロップの稲垣啓太は、こう展望する。

「(相手は)スクラムで仕掛けてくるでしょうね。ペナルティを取って、コーナーに蹴り出し、モールを組んでスコアしたいでしょうね。そこに行くために(スクラムで)立ち向かわなければ」 

 人呼んで「笑わない男」のこの人が意識するのは「ギャップのコントロール」。組み合う際、頭、首、肩を巧みに使って間合いを詰め、相手にとっての組みづらさと自分たちにとっての組みやすさを生みたそうだ。

焦点3 相手キックの処理

 ウイングで先発の松島幸太朗は「9番がかなり高いキックを蹴ってくる」。スクラムハーフのコナー・マレーの高い弾道のキックと、その落下地点へ駆け込む長身選手のプレッシャーを警戒する。

 力強いフォワードを活かしてゆったりと攻めたいB&Iライオンズにとって、キックとその後の空中戦は攻撃の起点ともなりうる。その起点を思い通りに作らせないためには、捕球役の技術と周囲のハードワークが不可欠となりそう。松島は続ける。

「キャッチする人を周りがサポートするのが大事。もしボールをこぼしても周りが捕る状況にして、なるべくピンチを少なくする」

 フルバックで最後尾の山中亮平は補足する。

「相手のキックをキャッチする人にプレッシャーがかからないように、キッカー(蹴る選手)へのプッシャー、ラック(蹴る選手の目の前の起点)へのプレッシャーを…。(キックへの対策は)そういうところから始まっている。あとは、捕るところはしっかりしたスキルで捕る」

 逆に、この領域を首尾よく乗り切れれば日本代表の目指すアンストラクチャーからの組織的な攻めに持ち込みやすくなる。キックの捕球後、向こうが防御ラインを整えるのよりも速く攻撃陣形を作りたい。

「相手はキックゲームでもプレッシャーをかける。それに対して、我々はプランを持っています」

 こう語ったのはジョセフ。そう。この人の「自分たちにフォーカス」という言葉からは、相手の強みへの対抗策も「自分たちの戦法」に昇華させる意図が見え隠れする。

<日本代表>

★は8強入りしたワールドカップ日本大会の登録メンバー(計17名、うち14名が先発)

◎は主将

( )内は身長/体重/キャップ数=代表戦出場数

1,稲垣啓太(186/116/34)★

2,坂手淳史(180/104/21)★

3,具智元(183/118/13)★

4,ヴィンピー・ファンデルヴァルト(188/112/16)★

5,ジェームス・ムーア(195/110/8)★

6,リーチ マイケル(189/113/68)◎★

7,ピーター・ラブスカフニ(189/106/8)★

8,アマナキ・レレイ・マフィ(189/112/27)★

9,茂野海人(170/75/10)★

10,田村優(181/92/63)★

11,シオサイア・フィフィタ(189/105/—)

12,中村亮土(181/92/24)★

13,ラファエレ ティモシー(186/100/23)★

14,松島幸太朗(178/88/39)★

15,山中亮平(188/100/18)★

16,堀越康介(175/100/2)

17,クレイグ・ミラー(186/116/—)

18,ヴァル アサエリ愛(187/115/14)★

19,ジャック・コーネルセン(195/110/—)

20,姫野和樹(187/112/17)★

21,テビタ・タタフ(183/124/3)

22,斎藤直人(165/73/—)

23,松田力也(181/92/24)★

<ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ>

★はワールドカップ日本大会に出場

◎は主将

( )内は身長/体重/協会/自協会でのキャップ=代表戦出場数/B&Iライオンズでの史上数およびキャップ

1,ローリー・サザーランド(183/113/28/スコットランド/16/—)

2,ケン・オーウェンズ(186/112/34/ウェールズ/82/6試合2キャップ)★

3,タイグ・ファーロング(184/119/28/アイルランド/49/6試合3キャップ)★

4,イアン・ヘンダーソン(195/112/29/アイルランド/63/6試合)★

5,アランウィン・ジョーンズ(198/122/35/ウェールズ/148/20試合9キャップ)★

6,タイグ・バーン(198/113/29/アイルランド/22/—)★

7,ジャスティン・ティプリック(188/100/31/ウェールズ/85/11試合1キャップ)★

8,ジャック・コナン(193/114/28/アイルランド/20/—)

9,コナー・マレー(187/94/32/アイルランド/89/12試合5キャップ)★

10,ダン・ビガー(188/90/31/ウェールズ/92/5試合)★

11,ドゥハン・ファンデルメルヴァ(193/105/26/スコットランド/10/—)

12,バンディー・アキ(178/100/31/アイルランド/31/—)★

13,ロビー・ヘンショウ(191/95/28/アイルランド/52/4試合)★

14,ジョシュ・アダムス(183/95/26/ウェールズ/32/—)★

15,リアム・ウィリアムズ(188/85/30/ウェールズ/71/6試合3キャップ)★

16,ジェイミー・ジョージ(181/108/30/イングランド/59/6試合3キャップ)★

17,ウィン・ジョーンズ(183/118/29/ウェールズ/35/—)★

18,カイル・シンクラー(183/120/28/イングランド/44/7試合3キャップ)★

19,コートニー・ローズ(201/113/32/イングランド/87/6試合2キャップ)★

20,タウルペ・ファレタウ(189/110/30/ウェールズ/86/13試合4キャップ)

21,アリ・プライス(178/88/28/スコットランド/42/—)

22,オーウェン・ファレル(181/94/29/イングランド/93/13試合6キャップ)★

23,アンソニー・ワトソン(188/93/27/イングランド/51/6試合3キャップ)★

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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