“森友”発端の裁判「勝訴」だが「不当判決」ってなぜ?
「主文、被告(国)は原告に対し、3万3000円(中略)を支払え」裁判長がこう述べた瞬間、木村真 豊中市議は思わず原告席でガッツポーズを見せた。普通の民事裁判なら判決は主文の読み上げですぐに終わる。ところが裁判長は「本件事案の性質に鑑み、理由の一部を述べます」と告げて要旨の読み上げを始めた。その内容を聞くうちに、木村さんの表情が曇っていった。
判決が終わり、法廷から出てきた木村さんに私は話しかけた。
「木村さん、この判決をどう受けとめます?」
「一応、一部は勝ったけどね。こんな中途半端な判決、納得できないよ」
そして裁判所前に集まった支援者たちに対し、用意していた「勝訴」と「不当判決」、両方の垂れ幕を掲げた。
森友事件追及の発端となった裁判の判決は…
森友学園への国有地の大幅値引き売却をめぐり、国が当初、売却額を開示しなかったのは違法だとして、国有地がある大阪・豊中市の木村真市議が損害賠償を求めた裁判。これが森友事件追及のきっかけとなり、注目された。
判決は30日午後3時から。大阪地裁の松永栄治裁判長は国の責任を一部で認め、木村さんに3万3000円の賠償を支払うよう命じる一部勝訴の判決を言い渡した。
判決理由で裁判長は次のように指摘した。
●国有地の売買代金は、財政法の趣旨に照らし、基本的要請として公表されるべき情報といえる。
●平成25年度から28年度までに随意契約で売却された104件のうち、金額が非公表とされた事例は本件以外にはなかった。
●近畿財務局長が売買代金を不開示としたことは違法である。
ここまでは木村さんも納得して聞いていた。ところがここから様子が変わる。木村さんが「なかった」と主張してきた、値引きの根拠とされた地中のごみについて、判決は「正確な分量はわからないものの相当量のごみが存在したこと自体は認められる」と指摘。関連する条項を不開示としたことは違法とは認められないとしたのである。
こうして木村さんは、判決後に地裁前に集まった支持者を前に相反する2つの垂れ幕を掲げることになった。
森友事件の核心に迫る裁判で「それはないでしょう」
判決後、裁判所内の記者クラブで会見を行った木村さんは、納得できない思いを訴えた。
「判決は『相当量のごみがあった』と言ってるけど、違うでしょ。あの国有地には第1のごみと第2のごみがあるんです。こんなの森友問題の基本中の基本だから。あの国有地には元々ごみがあったけど、それは浅いところにあるごみで、前からわかっていて問題にならない(=第1のごみ)。ところが地中深くから新たなごみが出てきたということになって、それが値引きの根拠にされた(=第2のごみ)。でも、そんな深いところのごみはないんですよ。それはあらゆる証拠が示している。なのにこの裁判長はこの2つをいっしょくたにして『相当量のごみがあった』なんて言っている。全く納得できない。こんな判決あり得ません」
「国有地売却を担当した近畿財務局の職員が証人に出なかったのが痛かった。彼が証言してくれたら、国がごみに関係なく値引きしてことがわかったはずなんです」
「浅いところのごみはあった。でも深いところのごみはない。8億円値引きの根拠になったごみはないんです。そもそもが不当な取り引きだった。それを隠すために情報を不開示にした。森友事件の核心に迫る裁判だったんです。なのに、ごみはある程度あったから、それを隠すのはしょうがないという判決。それはないでしょう。肝心の部分を判断しない判決です」
横にいた代理人の大川一夫弁護士が語った。
「すっきりしない、釈然としない判決です。忖度(そんたく)判決。森友事件を象徴していますね」
「この国の政治の底知れぬ闇」「この国の民主主義の病状は重い」
この裁判の提訴は2017年2月8日。その時も木村市議は裁判所内の同じこの記者クラブで会見した。私もNHK記者としてその場にいた。そこから各社の報道が続き、森友事件は大きな政治問題になった。木村市議は火付け役だった。すべてはそこから始まった。
「森友問題は次々に衝撃的な事実が明らかになった。財務省の公文書改ざん。その中で近畿財務局職員の方が命を絶った。なのに誰も責任をとらない。異常な状況です。この国の政治の底知れぬ闇。この国の民主主義は明らかに病んでいる。その病状は重い。それを回復させるためにはどうするの、という話です」
会見後、木村さんに再度尋ねた。
「控訴するんですか?」
「支援してくれるみんなと相談しなくちゃいけないけどね。僕としては控訴して闘いたい。その気持ちやね」