世界のどの国で、医療従事者や公務員、サービス業のワクチン接種が義務になっているか。海外14カ国の例
昨日7月12日夜、マクロン大統領は、医療従事者にワクチンの接種を義務化することを発表した。
9月15日以降、未接種者には罰則を科すという。
義務化のニュースは、最近ずっと話題になっていたので、さほど驚くものではなかった。医療従事者が、実現へ向けての署名活動も行われていたのは、以前の記事で報告した。
その中では、医療従事者が患者に感染させるリスクがないようにと強調されていたが、逆に患者によって感染させられるリスクを避けるために、という一文があったのが印象的だった。
それでは、他にはどの国で、医療従事者や公務員、サービス業などに携わる人々のワクチン接種が義務になっているのだろうか。そして、どのように運用しているのだろうか。
フランスの週刊誌『レクスプレス』と日刊紙『リベラシオン』に掲載されたAFPの記事をもとにお伝えする。
イタリアがいち早く義務化
イタリアでは3月に既に、ドラギ首相が宣言していた。
「政府は介入するつもりだ。ワクチンを受けていない医療従事者が病人と接触すること、そのように仕向けられることは、絶対に許されません」と。
対策はすぐに立てられて、4月上旬より、医療従事者の予防接種が義務付けられた。5月25日付の政令では、拒否した場合、仕事か給与を停止することができる。
実際に制裁がくだり始めたのは6月末のこと。3ヶ月ほど余裕をもたせたわけだ。ヨーロッパ1の報道によると、イタリア南西部のカラブリア州では、ワクチンを受けていない16人の医療従事者が、ワクチン接種を決めない限り、12月31日まで給料が停止されているとのことだ。
この義務化について300人が裁判で争っており、7月14日に審理が行われる予定である。
今のところ、医療従事者の約2%が、ワクチンを受けていないという。
アメリカでは、州や民間企業単位で
バイデン政権は、連邦(国家)レベでのワクチン接種の義務化に、明確に反対している。
そのためこの問題は、各州や民間企業の決定に委ねられている。自由を尊ぶ国、アメリカらしい状況である。
サンフランシスコ市は、6月23日、警察官や消防士を含む約3万5000人の市職員全員に、ワクチン接種を要請した。これに従わないで、医学的・宗教的理由で免除されない者は、罰則の対象となり、解雇されることもあるという。 「宗教的理由」というのが加わるところが、またアメリカらしい。
ただしこの案件は、ワクチンが米国食品医薬品局(FDA)によって完全に承認されて初めて有効になるのだいう。当面はパンデミックによる「緊急事態での使用」のみが認められている。
また、テキサス州のある大規模な病院では、150人以上の従業員が、病院から要求されたワクチンの接種を拒否したため、解雇や辞職となった。従業員の一部は、病院に対して訴訟を起こしていたが、訴訟は却下されたという。
ギリシャでも秋から義務化
ギリシャでも9月1日から、医療従事者へのワクチン接種が義務付けられる。ミツォタキス首相によって発表されたのは、最近のことである。
また、8月16日からは、老人ホームで働く人にもワクチン接種が義務付けられる。従わない人は、8月16日から一時的に職務停止になるとのことだ。
英国では国会承認待ち
英国では、10月から老人ホームで働く人にワクチン接種が義務付けられる予定だ。
これには、医療従事者以外、美容師、エステティシャン、ボランティアなどの医療従事者以外のスタッフも含まれている。継続して働くには、10月までに完全にワクチンを受ける必要がある。
この措置は、まだ国会での承認が必要である。
ロシアでは7自治体で義務化
ロシアでは、国のレベルでは行われていないが、モスクワとサンクトペテルブルクでは、措置がすでに施行されている。
6月16日、モスクワ市長は、サービス業の従業員は、ワクチン接種が義務であることを決定した。そのうちの約6割、約200万人が8月15日までにワクチンを受けなければならない。
それ以来、サンクトペテルブルク地域圏を含む、他の7つの地方自治体も同様の措置をとっている。
ロシアの労働大臣が6月に発表したところによると、コロナワクチンの接種が義務付けられている地域で予防接種を拒否した従業員は、無給の休暇を与えられる可能性があるという。
労働大臣は6月19日、ロシアのメディアに対し、「地域の保健当局が特定のカテゴリーの従業員にワクチン接種を義務付けた場合、ワクチン接種を受けていない者は停職処分となる可能性がある」と述べた。停職は「強制接種令(政令)」が有効である限り続く、と述べた。
プーチン大統領は6月30日、「パンデミックの拡大は、ワクチン接種によってのみ防ぐことができます」と述べ、国民にワクチンを受けるように勧めたが、国全体の義務化には反対した。
一般的にアメリカでは自由を、欧州では平等をより重視するのだが、アメリカとロシアの大統領が両方「国としての義務化には反対」と言っているのが、大変興味深い。面積が広大な国だと、そうなるのが自然なのだろうか。
カザフスタンでは、ほとんどの従業員が義務化
中央アジアに位置するカザフスタンは、同国でデルタ型の感染者が発見されたことを受けて、7月1日に、他の人と接触する仕事である大半の従業員に、ワクチン接種を義務付けることを命じた。
政令によると、銀行からエンターテイメントまで、幅広い分野のサービス業の従業員が対象となる。接種を拒否した人は、客や他の人との交流が禁止される。
1回目のワクチンは7月15日までに、2回目のワクチンは8月15日までに終わらせなければならない。過去3ヶ月以内に新型コロナウイルスにかかったことがある人や、健康上の理由でワクチンを受けることができないことを証明できる人は、この限りではない。
また、ワクチンを受けていない従業員は、毎週検査を受けなければならないと規定されている。
この政令は、インド由来のデルタ型が、人口1900万人の同国内で検出されたのに、ワクチン接種を受けていたのは200万人のみだったことを受けて、指示されたものであるということだ。
フィジーでも急ピッチで進む
オセアニアの群島国家フィジーでは、公務員と民間企業の従業員の両方に、ワクチン接種を義務付けた。
公務員は、8月15日までに1回目の注射を受けなければ仕事を休まなければならず、11月1日までに2回目の注射を受けなければ解雇されるリスクがある。
民間企業では、8月1日までに1回目の投与を受けなければならないという。
「非公式」の義務といえる3カ国
国によっては、正式な義務ではないが、ワクチンを受けていない人に制限がかけられて、実質上は準義務のようになっている所もある。
サウジアラビアの場合、この王国は5月18日に、政府機関や民間施設への入場、教育機関や娯楽施設への入場、公共交通機関への乗車の際には、8月以降はワクチン接種を義務化すると発表した。
そして、公共民間ともに、ワクチンを接種を受けた従業員のみが職場に戻ることができるという。
パキスタンでは、7月1日以降、南西部に位置する国内最大面積のバローチスターン州で、ワクチンを受けていない人の公共サービス、公園、ショッピングセンター、公共交通機関への入場が禁止された。
また、シンド州では、公務員が予防接種を拒否した場合、7月から給料が支払われず、パンジャブ州は拒否した人の電話を切ると脅したという。
同じように、アラブ首長国連邦でも制限が適用されることになる。首都アブダビでは、8月末以降、学校、博物館、ショッピングセンター、レストラン、スポーツホールなど、ほとんどの公共の場の利用が、ワクチン接種者のみとなった。スーパーマーケットや薬局は、これまで通り、制限なく誰でも自由に利用できるとのことだ。
国民すべてに義務の国が3カ国ある
それでは、成人国民全員に接種を義務付けている国はあるのだろうか。
まだまだ少ない。今のところ3カ国のみだという。
成人に義務付けたのは、バチカン市国、タジキスタン、トルクメニスタンだけである。
中央アジアのトルクメニスタンは、世界でも稀な、新型コロナウイルスの感染者が報告されていない国である(独裁国家と呼ばれる)。7月7日、「医学的に禁忌でない18歳以上のすべての人」にワクチン接種を義務付けることを発表した。
同国の東に位置するタジキスタンでは、18歳以上の国民全員にワクチン接種を義務付ける政令を発表した。
世界で最も小さい国、バチカン市国では、2月8日付のローマ教皇庁の通達により、すべての住民と、国内で働く職員に、ワクチンの接種が義務付けられた。従わない場合は、理論的には、解雇という制裁もあり得るという。
まだ実現していないが、フランスでも、「全国民への接種義務」が議論されている。
とりあえず昨日発表された措置で、8月以降は、カフェやレストランなどの飲食店、商業施設や医療機関、長距離の列車やバス、飛行機の乗客に対し、ワクチン接種証明書か、陰性証明書の提示を求めることになった。
おかげで、ワクチンが予約できる主だったサイト「Doctolib」は超混雑となっている(追記:翌日の報道によると、一晩で約100万人のアクセスがあったという)。
フランス人のことだから反発もする人は必ず現れるだろうが、8月のバカンスシーズンにデモをする人はあまりいないので、さすがに大統領はタイミングを見ていると妙に感心した。
これからも、義務化する国々はどんどん増えていくことになるだろう。
私たちは、コロナ禍のなかで働く医療従事者のおかげで、今の生活水準が保たれている。
彼らの「我々が感染させる可能性を少しでも減らす」というすばらしい義務感を聞いているだけではなく、「私たちが医療従事者に感染させるリスクを減らさなくては」という気持ちを、もっと強くもちたいと思う。彼らの仕事に感謝するためにも。