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新型コロナに対するツイッター上の反応が第二波直前と類似

鳥海不二夫東京大学大学院工学系研究科教授
迫りくる第三波?(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

第二波以降の新型コロナウィルスに対するツイートの変化

9月も半ばを過ぎ,一時は全国で一日当たり1500人を超えていた新型コロナウィルス感染者数も小康状態となり,一日当たりの新規感染者数も200~500人前後となりました.

第二波も落ち着いてきたころかとは思いますが,最近感染者数の減少が鈍ってきているのが気になるところです.

非常事態宣言前は東京都で100人といえば大騒ぎしたくなる数だったのですが,最近では100人くらいの感染者では驚かなくなっているような気もします.GoToトラベルキャンペーンや,4連休など経済支援に向けた動きが加速されており,感染に対する恐怖心がだいぶ薄らいでいるのではないでしょうか.

そこで,新型コロナウィルス感染拡大第二波の影響をいくつかのデータから改めて分析してみたいと思います.

なお,前回は第二波の始まりであった7月20日にツイートの分析を行い,緊急事態宣言と類似した感情が抽出されたことが示されました.

今になってみると,この分析のおよそ2週間後の8月7日に感染者数がピークを迎えたわけですから,この時確かに人々の感情は緊急事態宣言と類似して,感染拡大防止に向かって動いていたのではないかと思われます.

その後ツイートやその他の社会的な動きは第二波に応じてどのように変わっていったのでしょうか.計算社会科学的にデータから見ていってみましょう.

第二波前後の社会の変化

ツイート数の変化

まずは,ツイート数から見てみましょう.

新型コロナに関するツイート数と陽性者数(筆者作成)
新型コロナに関するツイート数と陽性者数(筆者作成)

新型コロナに関するツイート数は,3月末から4月上旬をピークに徐々に減少傾向にあり,6月には最低(1日100万ツイート以下)まで減少していましたが,7月に入りまた増加したあと,新型コロナ感染者数と同期して減少傾向にあるようです.

基本的には陽性者数の増加と比例して新型コロナに関するツイートも増加しているのですが,第二波に関していえば第一波ほど陽性者数に対するツイート数が多くなく,人々の中で新型コロナに関する話題に新鮮味がなくなってきたのではないかと思われます.

自粛率の変化

次に,第二波が人々の自粛行動に影響を与えたかを確認するために,東京都内の自粛率について確認してみました.

東京都内の自粛率データは,国立情報学研究所の水野研究室で作っていますので,それをお借りしてきました.

COVID-19特設サイト:外出の自粛率の見える化(http://research.nii.ac.jp/~mizuno/covid19.html)より著者作成
COVID-19特設サイト:外出の自粛率の見える化(http://research.nii.ac.jp/~mizuno/covid19.html)より著者作成

これを見ると,6月以降は自粛率に大きな変化は見られず,徐々に自粛率が減少している,つまり自粛しなくなってきていることが分かります.

確かに,第二波で感染者が増えても特に電車が空くとかそういったことはなかったように思います.緊急事態宣言時よりもはるかに感染者は多かったはずなんですけどね・・・

ニュース記事の変化

次に,ニュース記事での新型コロナの扱いについてCeek.jp Newsからデータを見てみます.

ニュース記事内の新型コロナ関連記事の占有率(Ceek.jp News(http://news.ceek.jp/)より著者作成)
ニュース記事内の新型コロナ関連記事の占有率(Ceek.jp News(http://news.ceek.jp/)より著者作成)

4月5月は記事の半分程度が新型コロナ関係だったのですが,6月以降は減少傾向にあり,第二波が訪れてもそれほどニュース記事は増えず,現在では新型コロナ関係の記事は30%を切っています.

どうやらニュース記事的にも,第二波の陽性者増加はそれほど大きなインパクトを持ったものとは扱われなかったようです.

これもまた,新型コロナが我々にとって日常化していることを示唆しているのかもしれません.

感情の分析

最後に,第二波から感染拡大が収まりつつある今までの間で人々はどのような感情を持っていたのでしょうか?

1月16日以降収集を続けている新型コロナに関係するツイートを分析してみます.

なお,人々の感情を分析するという意味では,リツイートやニュース記事などURLを含んだツイートはノイズとなってしまうため,オリジナルツイートかつURLを含まないツイートのみを対象として分析をしてみます.

ここでは,各ツイートに含まれる感情語をML-Askを用いて抽出し,どのように変化したのかを分析します.

・4月10日(第一波のピーク)

・6月20日(小康状態が終わる直前)

・7月2日(第二波が意識され始めた日)

・8月7日(第二波のピーク)

・9月22日(直近)

の5日におけるコロナ関係ツイートの感情について取り出してみました.

その結果がこちらの図です.

感情語の含まれる割合(著者作成)
感情語の含まれる割合(著者作成)

横軸は各感情,縦軸は感情が含まれる割合を示しています.

ここから,時期によって感情語の含まれる割合が変化していることが分かります.例えば,小康状態だった6月20日(オレンジのバー)は「怖」の感情が減って,「好」や「喜」といったポジティブな言葉が占める割合が増加していることが分かります.

一方,第二波が意識され始めた7月2日は「怖」が多く,「好」「安」「喜」といったポジティブな言葉が減っていることが分かります.

では,今現在の感情と類似しているのはいつでしょうか?この一週間の感情の変化と過去の期間の類似性を分析してみました.

その結果がこちらです.

9月23日の感情と過去の類似性(著者作成)
9月23日の感情と過去の類似性(著者作成)

感情分布の相関を計算したもので,1に近いほどツイートに含まれる感情が類似していることを意味します.

この結果を見ると,現在の感情と類似した感情が表出しているのは,第二波の直前6月20日前後であることが分かりました.

第二波の直前といえば,感染者数も全国で100人を下回る日が続き,このまま収束するのではないかという楽観的な観測があった時期ではないでしょうか.

そのころと感情が似ているというのは気になるところですね.

終わりに

第二波のピークも過ぎて新型コロナウィルスの陽性者数が減少したことを受けて,いくつかのデータから新型コロナが社会的にどのように扱われているのかを分析してみました.

その結果,ツイート数,自粛率,ニュース記事などから,第二波は第一波ほどの影響を与えておらず,新型コロナが日常的なものになりつつある可能性が示唆されました.

一方で,陽性者数の増減は人々の感情には影響を与えているようで,第二波のピーク時と落ち着いてきている現在ではツイッター上に表出される感情には大きな違いがありました.

また,現在ツイッター上の感情は新型コロナウィルス関係のツイートでもポジティブな感情が増えており,第二波直前のころと類似していることが分かりました.事実,先日の4連休などはかなりの人が外出していたようですしね.

イギリスでは再びロックダウンする可能性も示唆されているように,世界的にも第二波第三波の可能性が警戒されているようです.

第二波直前と状況が似ているからと言って同じことが起きるとは限りませんが,効果的なワクチンが広まるまでの間は油断せずに第三波が来ないよう気を引き締めていきたいものです.

東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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