「学費減額」に慎重な検討が必要な理由と、今後求められる学生への支援
一律の学費減額より学びの充実を
周知の通り、新型コロナウイルスの感染拡大が学生にも大きな影響を与えている。
そうした中、学生による大学の学費減額要求運動が盛り上がっている。
大学キャンパスが閉鎖され、4月は授業がほとんど実施されていない、図書館など大学の施設も利用できず、満額の学費(授業料+施設利用料等)はおかしいのではないか、と。
筆者も大学院に通う学生であり、感情的にはとてもよくわかる。
が、全体として見た時には、やや正当性に欠ける要求である。
まず、授業に関して言えば、基本的には学期単位、もっと言えば4年単位(大学院だと2年や3年)の授業等を等分しているものであり、今学期も当然多くの大学が休日や土曜日に補講を実施する。
オンライン授業の質に関しては、主観的なものであり、人によっても満足度が異なるため評価することが難しいが(オンライン授業の方が移動時間がかからない、気軽に質問できる等メリットも当然ある)、基本的にはその授業を充実させるために、Wi-Fi環境やデバイス支援、教員とのQ&A充実(そのためのTA費用の追加)等、政府や大学に費用を捻出してもらう方が建設的であろう。
その上、図書館の利用なども、本の購入代やジャーナルの契約料は学生の利用有無に関わらず費用が発生するものであり、すぐに減らせるものではない。
第一、最近では多くの大学が電子ジャーナル、電子書籍を充実させており、キャンパスに行かなくても利用できる。
ただし、全ての本や論文が電子で読める訳ではなく、理系の実験、美大や音大の実習などキャンパスに行かなければならないものも多い。
そうした点は、後述するように、徐々に一部開放を大学側にして頂きたい。
(そもそも授業料が高い、国の教育予算が少ない、というのは全くもってその通りだが、今年に限った話ではないため、緊急対策と分けて議論する必要がある)
学習・研究への支障&経済的損失&精神的疲弊
今回、学生に様々な影響を及ぼしているが、大きく分けると、学習・研究への支障、経済的損失、精神的疲弊という3つに分類することができる(3つ目の精神的疲弊へのケアについては対応策が思い浮かばないためこの記事では「学習・研究への支障」と「経済的損失」について言及する)。
そして、これまでの政府の対応を見ると、学生も含めた国民一人あたり一律10万円給付が実現したことによって、アルバイトの減少やWi-Fiの通信料、プリントアウト代等の負担軽減に繋がるため、一定の評価はできるが(逆に言うと、これが実現しなければ相当ヤバかったのだが)、それぞれで足りない点がまだ存在する。
下記のほとんどの内容は既に3月時点で、筆者が代表理事を務める日本若者協議会から与党に提言しており、動いて頂いているが、すみやかな第二次補正予算の策定、実現をお願いしたい(緊急提言で、時間がなかったため与党に優先的に提言したが、もちろん野党側にも検討頂きたいものである)。
まず、一つ目の「学習・研究への支障」に関しては、先述した通り、一部電子ジャーナル、電子書籍が利用できるが、大学間にも差があり、利用できる書籍も限られるため、オンライン環境の拡充が求められる。
また、既に予算措置はとられているが、Wi-Fi環境やデバイス(自分のPC)などが揃っていない学生もいるため、そこへの支援を急ぐべきである。
その際、学生にばかり目が向けられているが、講義を配信する教員側の負担も増えており、特に給料の低い非常勤講師に対してはすみやかな支援をお願いしたい。
そして、なぜか最近は外出自体が悪かのように言われているが、大学図書館や国立図書館、実験室など、こうした教育機関は研究に欠かせないものであり、一定の条件(「三密」を避ける)を満たした形での、教育機関の一部開放をすべきである。
実際、研究者らの有志でつくるグループ「図書館休館対策プロジェクト」の調査によると、大学や自治体が運営する図書館の休館やサービス縮小が続く中、約6割の学生や研究者らが自らの研究に影響があると回答しており、一部の大学は9月末までの図書館を含めた大学構内への立ち入り禁止を既に発表しているが、再考してもらいたい。
その上で、基本的にはこの環境下で可能な限り学習環境を充実させるべきだが、海外への渡航が制限される中で、どうしても留学に行きたい、現地調査などが終わらない、といった学生のために、休学費用の負担軽減も考えるべきではないだろうか。
「学習への支障」に関して、今後求められる学生への支援をまとめると、下記のような内容になる。
・オンラインデータベース・電子ジャーナル、電子書籍の拡充
・図書館や実験施設の一部開放、非来館型の貸出サービス
・Wi-Fi環境、デバイス等への金銭的支援(学生だけではなく、非常勤講師にも)
・留学生への単位認定の要件緩和
・卒業/修了要件の一部緩和(学会発表の回数等)
・国家試験の受験資格取得のために必要な実習等の規制緩和
・休学費用の負担軽減(原則無料)
・科研費及び学振等の研究費への柔軟な対応(次年度への繰り越し等)
・アカデミックポストの確保
・大学費運営交付金、私立大学等経常費補助金の拡充
漏れがちな大学院生
こうした緊急時には、どうしても声の大きい(人数の多い)方に目が向けられがちであるが、少人数授業や実験、留学等、学習面で実質的に最も大きな影響を受けているのは、研究がメインの大学院生の方であり、政府には学部生に限らず、大学院生、ひいてはポスドク等の若手研究者にも目を向けてもらいたい。
既にアメリカでは、留学生の減少等により、研究者の解雇や給料削減をする大学も出ており、将来的な日本の研究力を低下させないために、大学側の収入減に併せてアカデミックポストを減らさないよう、予算措置をして頂きたい。
そして、後述の経済的損失(困窮学生への金銭的支援)も含め、大学によって状況も異なるため、細かく紐付きの予算を講じるよりも、一定額まとめて予算を講じた方が適切な施策を実施できるのではないだろうか(例えば、大学費運営交付金、私立大学等経常費補助金を10%分上乗せする等)。
「みなし失業」をすみやかに
そして次に「経済的な損失」であるが、基本的には労働の問題である。
その意味では「学生」に限らず、フリーターなど非正規/正規雇用全般に関係する(その中でも、飲食店などサービス業に従事している学生は多く、学生アルバイトへの影響は大きい)。
学生の立場でいうと、親や学生本人の収入が減り、学費が支払えない、状況に陥っている。
実際、大学生協が3万5千名を超える学生に実施した「緊急!大学生・院生向けアンケート」の結果によると、アルバイト収入が「大きく減少する」「減少する」と回答した学生は約40%にも達する。
本来的には、会社側の都合でシフトを削減した場合は、休業手当が支払われるため、その制度や相談窓口を周知徹底することに加え、事業主側が事務コストなどを考えて、雇用調整助成金を利用していないケースもあるため、「みなし失業」を適用すべきではないだろうか(今回の感染症を「激甚災害」に指定し「失業給付の特例」を活用)。
「みなし失業」とは、実際には離職していなくても、失業しているとみなして、失業給付を受給できるようにする雇用保険の特例措置である。
これであれば、比較的簡単な手続きで、労働者が直接失業手当を受け取ることができる。その際、雇用保険に加入していない学生も適用可能にする。
また、固定費という意味で家賃負担は大きく、今回新型コロナウイルスへの対応で、失業・廃業のみが対象だった住居確保給付金が、休業などによる大幅減収の人まで対象が広げられているが、学生は「基本的に学生は支給対象では無いが、夜間定時制などの学生は対象となる」と大きく限定されており、これも学生全般に広げるべきである。
こちらもまとめると、下記のような内容になる。
・一律の学費納付猶予(大学側の経営状況に大きな影響を及ぼしそうであれば、無利子で融資)
※本当は4月末の期限を5月末もしくは6月末にして頂きたかったが、もう過ぎているため、もしコロナの影響が長引くようであれば秋学期での検討
・既存制度の周知徹底(学費納付猶予や奨学金制度、緊急小口資金)
・給付型奨学金、貸与型奨学金の適用対象拡大、授業料減免措置(年収幅の拡大だけではなく、大学院生への適用も)
・学生アルバイトへの休業手当適用の周知徹底
・みなし失業の適用
・失業手当の支給期間延長、適用者の範囲の拡大
・雇用調整助成金の上限引き上げ
・住居確保給付金の対象に学生も含める
・若手研究者(ポスドク等)への支援(授業が行われなかった期間の賃金支給、雇止め防止)
9月入学への移行は学生の意見も考慮すべき
最後に、現在「9月入学」への移行について急に議論が盛り上がっているが、拙速な制度変更は非常にリスキーであり、そもそも「9月入学」が学習の遅れなどに対して最適な解なのか、「グローバルスタンダード」というよくわからない曖昧な改革論に惑わされずに(実態の伴わない「改革面」ばかりが打ち出された大学入試改革と通じるものがあるが)、慎重に検討しなければならない。
先日記事でも書いたように、日本若者協議会のもとには学生から反対意見も届いており、実際に影響を被る学生の意見も考慮すべきである。
4月8日には、国連・子どもの権利委員会が、「今回のパンデミックに関する意思決定プロセスにおいて子どもたちの意見が聴かれかつ考慮される機会を提供すること。子どもたちは、現在起きていることを理解し、かつパンデミックへの対応の際に行なわれる決定に参加していると感じることができるべきである」という声明も出しているが、本当に子どものためになるのか、当事者の意見も踏まえながら結論を出すべきである。
5月10日まで、日本若者協議会では「9月入学」の是非についてアンケートを実施しているため、ご意見のある方はお寄せいただきたい。