エースの2ゴールで仙台がシーズン初勝利。新戦力の躍動で高まる競争力も魅力
【初勝利で得た自信】
昨年のなでしこリーグで、かろうじて8位で残留を決めたマイナビベガルタ仙台レディース(仙台)。今季は「捲土重来」をスローガンに掲げて体制を一新し、一味違うサッカーを見せている。
開幕戦では、昨年3位のノジマステラ神奈川相模原に0-1、同2位のINAC神戸レオネッサ(INAC)にスコアレスドローでスタートダッシュとはならなかったが、チャンスの数はいずれの試合も互角に作っていた。足りないのは、ゴールだけだった。
そして迎えた、3月30日(土)のなでしこリーグ第3節。日体大FIELDS横浜(日体大)の敵地に乗り込んだ一戦で、仙台は3-1で今シーズン初勝利を飾っている。
1点目は前半10分。左サイドからDF万屋美穂が上げたクロスを、FW浜田遥がファーサイドで高い打点から頭で豪快に叩き込んだ。さらに、その6分後にはDF奥川千沙のロングボールに抜け出した浜田がドリブルで冷静に相手をかわし、2点目を流し込んだ。54分にはMF安本紗和子がゴールを決めて3-0。67分にはミスから1点を失ったが、危なげなく勝利した。
日体大には昨年、2度の対戦で1分1敗と勝てておらず、残留争いの大一番で0-2の完敗を喫した嫌なイメージを払拭する上でも大きな勝利だった。2ゴールの活躍で勝利を引き寄せた浜田は、開幕から2試合チャンスをモノにできていなかったことに責任を感じていたのか、ホッとしたような表情を見せた。
勝利やゴールには、全てを好転させる力がある。
だが、勝利を勝ち取る確率を上げるためには「信念」と「継続」が必要だ。
今シーズンから指揮をとる辛島啓珠監督は2017年までアルビレックス新潟レディース(新潟)を率い、昨年は東海社会人サッカーリーグ1部の鈴鹿アンリミテッドFCをJFL昇格に導くなど、多様なカテゴリーの指導実績を持つ。現役時代はガンバ大阪などでセンターバックとしてプレーした辛島監督だが、こだわりは、特に攻撃面で発揮されているように感じる。
この試合では170cm以上の選手が11人中4人を占めたが、とりわけ、173cmの浜田と170cmのFW白木星(しらき・あかり)の2トップが明確なターゲットになっていた。
「クロスとカウンターから決める形はチームとして狙い通りでした。ただ、相手のプレッシャーが強い中ではまだロストが多いです。もっと仕掛けた方がいいところと、あまり頑張らなくてもいいところの判断や、アタッキングサードの質はもっと突き詰めたいですね」(辛島監督)
辛島監督は初勝利に笑顔を見せつつも、攻撃面の課題を挙げた。
勝利の立役者となった浜田は、こんな言葉で勝利を噛みしめている。
「自信を持つためにも、やっぱり勝つことが大事だと感じました」(浜田)
裏を返せば、どれだけ内容が良くても、結果が出なければ先にはつながらない、ということだろう。それは、勝ち方を忘れてしまったような苦しいシーズンを通して掴んだ一つの真理かもしれない。だからこそ、浜田はチームを勝利に導くゴールに飢えていたのだ。
背番号10をつけて5シーズン目になり、“エース”の呼称も板についてきた。昨年はチーム最多の5ゴールを挙げたが、例年の目標である「2桁ゴール」には届かず、今年こそは、と強い思いを口にする。
一方、「自分は駆け引きが下手なので、相手よりも走るとか、そういう部分で勝つしかないんです」と言う浜田は、この試合の2ゴールを振り返った時に、まず味方への感謝を口にした。周囲がその走力や高さを引き出せるかどうかも、重要なポイントになる。
また、勝利に貢献度の高い選手をもう一人挙げるなら、GK池尻凪沙(いけじり・なぎさ)だ。
今シーズン、平成帝京大学から加入した大卒ルーキーで、代表候補のFW池尻茉由(水原WFC/韓国)は双子の妹だ。164cmとGKとしては小柄だが、スピードや柔軟性の高さが光る。プレーを参考にしているのは、マヌエル・ノイアー(バイエルン・ミュンヘン/ドイツ)だという。試合前日の夜と当日の朝、そして試合前にもノイアーの映像を観てイメージを体に染み込ませる。
この試合では、緩いバックパスが相手FWへのラストパスに繋がった9分の大ピンチと、ペナルティエリア手前で相手に抜け出された42分のピンチを的確な飛び出しで防ぎ、左サイドを崩された59分の決定的なシュートも絶妙なポジショニングでブロックした。
仙台は現在、代表候補のDF市瀬菜々とMF隅田凜の2名が怪我のために戦列を外れているが、辛島監督は若手や新戦力を積極的に抜擢しながら、チームの底上げを進めている。
「基本的に、パフォーマンスが良ければ年齢関係なく起用したいと思っています」
と話す通り、この試合では長くチームを支えてきたDF坂井優紀やMF小野瞳ら、ベテラン選手の生き生きとしたプレーも印象的だった。
市瀬と隅田はすでに練習に部分合流しており、復帰は間近。今後、ポジション争いはより一層激しさを増すだろう。
リーグはこの後、約20日間の中断期間に入り、リーグカップがスタートする。仙台は来週、4月7日(日)にホームのひとめぼれスタジアム宮城で、同じく公式戦初勝利で勢いに乗る伊賀FCくノ一とリーグカップ初戦を迎える。
【楠瀬新監督を迎えた日体大】
開幕3連敗を喫し、依然として最下位の日体大は苦しい状況だ。選手の入れ替わりが激しいのは、4年という区切りがある大学チームの宿命でもある。
昨シーズンは9位で、2部との入れ替え戦を制して一部残留を決めたが、レギュラーとして活躍した選手の約半数が移籍や引退などでチームを退団。新たなスタートを切ったが、昨年チームを率いた小嶺栄二監督が体調不良により、開幕から2試合は川上信輔ヘッドコーチが代行監督を務めていた。
そんな中、この仙台戦の前日に、楠瀬直木氏が新監督に就任することが発表された。東京ヴェルディーユースやFC町田ゼルビアでアカデミーダイレクターなどを歴任し、U-17女子代表を率いて2016年のU-17女子W杯では準優勝に導くなど、十分な実績のある監督である。
この試合は就任して4日目ながら、フォーメーションをそれまでの3-4-3から4-4-2に変えるなど、大胆な変化を加えた。その中で、ミスや詰めの甘さを突かれて失点を許したが、状況を考えれば無理もないだろう。むしろ、ここからは他のチームよりも一足遅れのスタートをいかに取り戻すかが重要になる。
楠瀬監督は、新たなチーム作りをする上でまず取り掛かったことについて、こう明かした。
「守備をコンパクトにしたり、攻撃で広げたり、相手よりも優位か不利かということを感じる、という基本的なことです。ディフェンスも無駄な追い方が多いなぁと思います。でも、若いんだから沢山無駄をやって、相手に『日体大は嫌だな』と思わせたいですね。その中でも、しっかりボールを動かしていきたいです」(楠瀬監督)
興味深いのは、楠瀬監督の就任によって、1部の10チームの監督のうち、ヴェルディ・ベレーザ出身の指導者が7チームになったことだ。日テレ・ベレーザ(永田雅人監督)、INAC(鈴木俊監督)、ノジマ(野田朱美監督)、浦和レッズレディース(森栄次監督)、ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(藤井奈々監督)、AC長野パルセイロ・レディース(本田美登里監督)、そして日体大だ。目指すサッカースタイルや指導法は異なっていても、育成に対する熱意や、サッカーの楽しさ、見せ方を追求するという根本的なところでは共通するものがありそうだ。
キャプテンのMF嶋田千秋は、苦しい状況の中でも変化を冷静かつポジティブに捉えている。
「今はチームビルディングの時期ですね。すごく勉強になっています。サッカーの面だけでなく、リーダーとしてどうあるべきかという人間的な面でも楠瀬さんの話を聞いて、変えられる部分があるなと思いました」(嶋田)
日体大の選手たちの個性を生かし、楠瀬監督がどんなサッカーを作り上げるのか楽しみだ。次節は4月6日(土)に、アウェーのデンカビッグスワンスタジアムで、新潟とリーグカップ初戦を戦う。