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驚きの進化を遂げていた中学教科書。メディアや情報について学ぶ工夫が詰まっている

藤代裕之ジャーナリスト
中学3年生用の国語教科書(光村図書)

2016年度から全国で使われている中学3年国語の教科書にソーシャルメディアに関するコラム『「想いのリレー」に加わろう』が採用されたので、光村図書から中学1年から3年の国語教科書を送ってもらい目を通したのですが、メディアや情報について学ぶ工夫が詰まっていて驚きました。

太宰治の「走れメロス」といった名作や古典などが掲載されているイメージを持っていましたが、メディア環境の変化に応じて劇的な進化を遂げていたのです。学年別に、メディアや情報に関してどのようなことを学ぶのかをピックアップしてみました。

中学1年生

  • 宮崎駿さんの本の推薦文『本との出会い』。推薦しているのは『注文の多い料理店』(宮沢賢治作)と『星の王子さま』(サン=テグジュペリ作)
  • 「好きなもの」を紹介しよう:モをつくり、練習する。「タイトル」「きっかけ」「気持の変化」「具体的な体験」「終わりの挨拶」とスピーチの構成例あり。
  • 情報の集め方を知ろう:情報を集める際に、人に聞く、ネットを利用する、図書館や書店を使うの3つを提示。引用ルール、情報の信頼性を確認する、録音・撮影は目的を伝えて許可を得るなどの注意点。新聞では「見出し」「リード」と紙面構成に特徴があることを紹介。
  • 調べたことを報告しよう:動物生態学者辻大和さんの『シカの「落ち葉拾い」ーフィールドノートの記録から』を読み、アンケートの作り方、材料の整理、レポートの作り方を学ぶ。
  • グループディスカッションやポスターセッションのやり方。

中学2年生

  • ジャーナリスト池上彰さん『メディアと上手に付き合うために』を読み、テレビ、新聞、ネットから得た情報を比べてみる。
  • 『小さな町のラジオ発ー臨時災害放送局「りんごラジオ」』。局長である高橋厚さんによる書きおろし。「りんごラジオには信念がある。それはいい町には声がある。」。
  • 要点を整理して聞き取る:メモを取る練習。 推敲して適切な文章に直す:仮名遣いや漢字の使い方、読む相手への配慮があるか。
  • ある日の自分の物語を書く:あらすじの組み立て方や描写の工夫。
  • 著作権について知る

中学3年生

  • 『想いのリレー」に加わろう』藤代による書きおろし。東日本大震災のテレビ番組のネットでの同時配信実現の物語。ソーシャルメディア利用のプラス面と注意点を学ぶもの。
  • 話し合って提案をまとめよう:課題を見つけて、解決に向けて話し合う。
  • 観点を立てて分析する。広告を例に、キャッチコピーや絵、文字や絵の配置の特徴を分析し、作りての意図や発想を探る。
  • 説得力のある文章を書こう。観点を立てて分析、論理の展開を考え、批評文にする。
  • 新聞社の社説を比較して読もう。

教科書は大人も楽しめる

このようにメディアリテラシーを養う教材を使い、学びのポイントが繰り返されています。しっかり取り組めば、論理的な文章を書き、著作権のことも理解し、プレゼンや討論が出来るようになるはず。炎上する学生も減るはずですが…

光村図書の編集者の方に聞いた所、「やってみよう」という提案は、漢字や文章理解に比べると後回しにされがちなこと、さらに教員のネットやソーシャルメディアへの評価やリテラシーにばらつきがあるため(中学国語の学習指導要領にインターネットという言葉が入ったのは平成20(2008)年の改訂のようです)現場でどれくらい有効活用されるかは分からないとのこと。

これでは、せっかくの工夫された教科書がもったいない。中学生のお子さんがいらっしゃる方は、一緒に教科書を読んで、話をしてみてはどうでしょうか。

教科書には、太宰治、夏目漱石、井伏鱒二、森鴎外、清少納言、松尾芭蕉、魯迅、ヘルマン・ヘッセ、北原白秋、谷川俊太郎、井上ひさし、などの名文がずらり。理解を深める解説、おすすめの本、表現のトレーニングなどもあり、大人がみても十分に面白いものになっています。教科書を取り扱いをしている書店で購入することも可能です。

ジャーナリスト

徳島新聞社で記者として、司法・警察、地方自治などを取材。NTTレゾナントで新サービス立ち上げや研究開発支援担当を経て、法政大学社会学部メディア社会学科。同大学院社会学研究科長。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。ソーシャルメディアによって変化する、メディアやジャーナリズムを取材、研究しています。著書に『フェイクニュースの生態系』『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』など。

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