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「COME ON!“前人未踏”第2章、始まる」がスローガンの群馬クレイサンダーズが衝撃のB1デビュー

青木崇Basketball Writer
2連勝の原動力となったジョーンズ (C)GUNMA CRANE THUNDERS

 圧倒的な強さで昨季のB2を制した群馬クレインサンダーズが、B1初代王者の強豪宇都宮ブレックスを相手に、2試合連続の延長戦をモノにした。ブレックスアリーナ宇都宮(ブレアリ)でアウェイチームが勝つのは相当難しいとBリーグ全体で認知されている中で、過去に2連勝を成し遂げたのは2017年4月と10月の千葉ジェッツ、2021年4月の川崎ブレイブサンダースのみ。Bリーグ創設以前を含めても、ここ8シーズンで4度目という稀な出来事だった。

 マイケル・パーカーや五十嵐圭らB1経験者9人を揃えた今季の群馬は、過去の昇格1年目のチームより戦えるという見方があった。しかし、宇都宮戦の2連勝は衝撃的であり、「COME ON! “前人未踏”第2章、始まる」のスローガンに相応しいB1デビューと言っていい。

 その原動力となったのは、昨季のB2でレギュラーシーズンとファイナルの両方でMVPに輝いたトレイ・ジョーンズ。スピードとパワーを兼備したドライブと決定力の高いジャンプショットを武器に、初戦が28点、2戦目も27点を稼いだ。

 今季からクレインサンダーズで指揮を執っているトーマス・ウィスマンコーチは試合終了直後のインタビューで、「2試合とも延長で、追いかける状況から勝利。それも非常にタフなアリーナで、2日間ともなんとか勝つ術を見いだした。チームを誇りに思う」と振り返る。これは正に、ブレアリのホームコート・アドバンテージを熟知している元宇都宮の指揮官ならではの言葉だった。

勝利をなかなか積み重ねられなかったbjリーグ時代

 群馬クレインサンダーズは、2012-13シーズンからbjリーグに加盟したチームだが、創設当初から苦難の道のりが続いた。チームの運営でカギを握るジェネラル・マネジャーは、選手補強を本格的に進める前にまさかの退任。初代ヘッドコーチは圧倒的な強さでbjリーグを制覇すると公言したものの、開幕早々から苦戦を強いられ、秋田ノーザンハピネッツのアウェイゲームは38点差と43点差の大敗を喫するなど、8連敗となった時点で解任されてしまう。

 開幕12連敗後にようやく初勝利を手にした群馬は、大阪エヴェッサで指揮した経験を持つライアン・ブラックウェルコーチの下で外国籍選手の入れ替えを行って立て直しを図ったものの、15勝37敗で1年目のシーズンを終了。2年目もシーズン序盤から苦しんだ結果、日曜日の午後に試合がありながら、土曜日夜に行われた試合に完敗した後にブラックウェルコーチの解任を決断。アシスタントコーチだった藤田弘輝(現仙台89ersヘッドコーチ)が混乱するチームの中で指揮官代行を務めたものの、シーズン終了後に福島ファイヤーボンズのヘッドコーチ就任で群馬を去っていく。

 3年目はNBAダラス・マーベリックスのアシスタントコーチだったチャーリー・パーカー(現チャイニーズ・タイペイ代表ヘッドコーチ)を招聘し、元NBA選手でポストプレーのうまいメルビン・イーライの獲得に成功。開幕から9連敗という最悪のスタートだったことを考えれば、19勝33敗と過去2シーズンよりも勝ち星を増やしたのは上出来だった。しかし、「ホームゲームなのに家から1時間半も移動しなければならないのか」と話すなど、運営に対して不満を持っていたパーカーはわずか1シーズンで退団。また、麻薬取締法違反で外国籍選手逮捕という事件が起きたことも、チームにとっては大きなマイナスだった。

 パーカーの下でアシスタントコーチを務めた根間洋一(現滋賀レイクスターズU15コーチ兼育成ディレクター)が指揮官となった2015-16シーズンは、22勝と過去最高の成績を残した。しかし、プレーオフ進出を逃したことで継続しない決定を下す。4年間で5人のコーチがチームを指揮するといった一貫性のなさは、組織として抱えていた明白な問題の一つだった。

B1昇格に大きな壁となった財務と集客の問題…

 2016年からNBLとbjリーグの統合で誕生したBリーグ。B2に割り当てられて臨んだ2016-17シーズン、群馬は平岡富士貴コーチ(現新潟アルビレックスBB)の下でチームは勝利を積み重ね、40勝20敗で東地区を制した。その後はB2の強豪へと成長し、2018-19シーズンにはファイナルまで勝ち進んだ。しかし、2期連続で赤字という財政問題が原因で、昇格に必要なB1ライセンスは取得できなかった。

 チーム創設当初から集客に苦戦していた群馬は、Bリーグがスタートした2016-17シーズン以降の平均観客数は1213人、1355人、1143人、1263人と、B1ライセンス取得の条件だった1500人以上に到達していない。集客増を目指した様々な施策を試してきたものの、観客数1000人以下の試合が多かった。

 2019年6月にオープンハウスが筆頭株主になった群馬は、昨季から完全子会社となった。新型コロナウィルスの影響を受けた昨季、収容人員が最大で満席時の50%に限定されているということを考えれば、平均974人とB2で3番目という数字は大きな成果であり、オンコートでもビジネスでも成功するチームにしたいというオープンハウスの強い意志を示すものだった。

 B1昇格に向けて選手補強に思い切った投資をオープンハウスが行った結果、レギュラーシーズンを52勝5敗の成績でフィニッシュ。B2プレーオフのセミファイナルで越谷アルファーズ相手に2連勝したことで、悲願のB1昇格を成し遂げる。圧倒的な強さで勝ち続けることで、観客数も少しずつ増えていき、B2制覇を決めた茨城ロボッツとのファイナル第3戦は、1902人が太田市運動公園市民体育館に駆けつけていた。

 2023年に新しいアリーナが誕生することもあり、群馬はチームの本拠地を前橋市から太田市へと変更。前橋市や高崎市に比べるとマーケットが小さいことは否定できないものの、太田市とダッグを組むことで、街の活性化といった新しいモデルケースを作ろうとしている。

千葉とのホーム開幕戦は群馬の強さが本物かを知る指標になる (C)GUNMA CRANE THUNDERS
千葉とのホーム開幕戦は群馬の強さが本物かを知る指標になる (C)GUNMA CRANE THUNDERS

昨季の王者千葉に挑むホーム開幕戦

 B1昇格後最初のホームゲームは、10月9日と10日に昨季の王者である千葉ジェッツを迎えて行われる。パーカー、ジョーンズ、アキ・チェンバース、上江田勇樹が元千葉の選手ということもあり、両日ともチケットは発売開始から短期間で売り切れ。群馬が宇都宮に連勝したこともあって、第2節で最も注目したいカードと言っても過言ではない。

 千葉はアウェイで迎えた島根スサノオマジックとの開幕戦を1勝1敗で終えたが、富樫勇樹を軸に実績と経験豊富な選手を揃える。2連覇を目指す今季のチームには、新外国籍選手のガードとしてクリストファー・スミスが加入。島根との2試合では8本中4本の3Pを成功させるなど、ベンチからの登場で平均16.5点をマーク。ジョーンズとのマッチアップは、試合の行方を左右する要素になるはずだ。

 群馬の強みは、宇都宮戦の4Qと延長で使っていたジョーンズ、パーカー、五十嵐、チェンバース、オンドレイ・バルウィン(もしくはジャスティン・キーナン)のラインナップ。オフェンスはジョーンズを軸に展開するが、バルヴィンとキーナンはインサイドの起点となれるし、五十嵐とチェンバースはシュート力がある。ディフェンスに目を向けると、このラインナップは全員が機動力を持っている。特に独特の感覚でスティールやブロックショットを決めるパーカーは、相手からすると非常に厄介な存在だ。

「我々にはクラッチプレー(大事な局面でのビッグプレー)を決められる選手たちがいる。トレイ・ジョーンズはクラッチ・プレーヤーであり、マイケル・パーカーと五十嵐圭には豊富な経験がある。彼らはステップアップしてビッグプレーを決めてくれる。私はチームを信頼しているし、緊迫した状況に直面しても、この2試合では結果を出してくれた」とウィスマンコーチが語るように、彼らは勝つ術を知っている。

 ホームコート・アドバンテージがあるとはいえ、千葉戦は群馬にとって新たなビッグ・チャレンジになる。五十嵐が「自分たちはB1に上がっての初挑戦になりますし、この2連勝でチームとして勢いがついたと思います。自分たちのしっかりしたプレーを出せば、千葉相手にもいい試合ができると思います」と話したように、宇都宮相手の2連勝で大きな自信を手にしたのは明らか。もし、千葉にも勝つという結果を出した場合、群馬がB1で何か特別なことを成し遂げる前兆と認識してもいいのかもしれない。

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

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