Yahoo!ニュース

多国籍化が進む日本の独立リーグ:富山で見た「逆輸入」選手の奮闘

阿佐智ベースボールジャーナリスト
日本生まれカナダ育ちの富山サンダーバーズのロイ鈴木

 日本の独立リーグは、今や国外でもその知名度を増している。その存在を知った代理人からの売り込みもひっきりなしにくるという。昨日、6日に取材した富山県高岡でのルートインBCリーグ、富山GRNサンダーバーズ対石川ミリオンスターズの対戦もそんな日本の独立リーグの国際化を感じる試合だった。

試合が行われたボールパーク高岡
試合が行われたボールパーク高岡

 この日は出番のなかったアメリカ人リリーフ、カム・ウーター(元ドジャースA級)とジャレット・ブラウン(元マリナーズA級)はともに昨年はプレーする場がなく、少年野球のコーチなどで糊口をしのぎトレーニングを行っていたと言う。日本なら「即引退」のようなこの状況だが、アメリカでは珍しいことではない。彼らは、新天地をBCリーグに求めはるばる海を渡ってきた。

 試合中、彼らふたりの視線の先には、先発マウンドに登るホセ・フローレスの姿があった。ベネズエラ人の彼はメジャーでの経験はないものの、昨年はサンフランシスコ・ジャイアンツの3Aで先発投手として活躍している。

好投報われず敗戦投手となった富山・フローレス
好投報われず敗戦投手となった富山・フローレス

 彼らのような一目で「外国人」とわかる選手だけではない、近隣のアジア諸国からもBCリーグを目指して集まるものもいるし、様々な事情からアメリカに渡った日本人が戻ってくるという現象も現在起こっている。

 この日、両軍のスタメンに名を連ねた選手のうち、2人が日系アメリカ人だった。石川のケビン(安藤ケビン)は、日本人の両親をもつ日系2世。高校卒業後、自らのルーツの地、日本でプレーがしたくてNPBの入団テストを受けたが不合格、それでも夢をかなえるために独立リーグでのプレーを選んだ。

石川・安藤ケビンのNPB挑戦は話題にもなった
石川・安藤ケビンのNPB挑戦は話題にもなった

 

 一方、富山の1番打者はロイ鈴木。「遼平」という日本名が示すように、彼は東京生まれの「日本人」だ。しかし、10歳で両親の仕事の都合でカナダに移住した彼は、今では日本語より英語の方が堪能な「日系人」と言うべき存在だ。野球も北米仕込みで、そのせいか、堂々とした体躯と相まってそのバッティングフォームは日本人離れしている。

初回先頭打者ホームランを放ったロイ鈴木
初回先頭打者ホームランを放ったロイ鈴木

 試合は、開始早々ロイのホームランで動いた。1回裏、ストレートを打ち上げた高いフライはそのままレフトフェンスを越えていった。この3号先頭打者ホームランでサンダーバーズが先制した。試合後のロイの談話。

「いい感じで振れたが、打球が上がったので、どうかなと思ったけど、入ってくれた」

 一方のミリオンスターズも、立ち上がりから不安定だったサンダーバーズ先発のフローレスを攻め、2回に下位打線が2点を返し、同点に追いつく。

 その後、両者先発投手が立ち直り、両チーム追加点のないまま終盤を迎えるが、3回以降立ち直り、力のある球を低めに集めていたフローレスが、8回表に四球のランナーに盗塁を許すと、我慢しきれず2アウトからタイムリーを含む連続安打を許す。ここでサンダーバーズ二岡監督(元巨人)はたまらずリリーフを送るが、結局、これが決勝点となり、ミリオンスターズが辛勝した。

 投手交代について、二岡監督は試合後淡々とこう答えた。

今シーズンから富山を率いる元巨人、二岡監督
今シーズンから富山を率いる元巨人、二岡監督

「フローレスはうちの勝ち頭、彼が納得いくまで投げさせたが、あの場面は球数もあり後退させた。それよりも、今日はバントや走塁ミスが痛かった」

 その言葉通り、サンダーバーズは中盤の5、6回と先頭打者を安打で出しながら、その好機を自らつぶしている。

第一打席でホームランを放ったロイに送らせたのだが
第一打席でホームランを放ったロイに送らせたのだが

 

 5回の攻撃では、ノーアウトのランナーを第1打席でホームランを放っているロイに送らせたが、そのランナーが、続く2番打者のショートゴロで3塁を狙い憤死、6回はノーアウトから遅らせるもバントゲッツーを喫し、続く打者も高めの明らかなボール球を振って3球三振。このあたりは二岡監督も、「これが彼らの課題、NPBに入り選手との差。打って、投げて、走ってだけじゃだめ」と独立リーガーとドラフトにかかる選手の差、厳しい視線で指摘していた。

富山打線を2点に抑え完投勝利を収めた石川先発・永水豪
富山打線を2点に抑え完投勝利を収めた石川先発・永水豪

 それでも名門球団でエリート街道を走ってきた監督の目指すものは確実にサンダーバーズナインに浸透してきている。

 初回に今シーズン3本目となるホームランを放ちながらゲーム中盤にバントを命じられたロイは、シーズン前に何度も失敗していたバントを決めることができて良かったと、日本のスモールボールへの適応を見せ、9回の2アウト1、2塁のチャンスで、ホームプレート前でバウンドする変化球を空振りするなどして三振に倒れたことにも、「初回のようなリラックスした場面では力が出せるが、チャンスではどうしても力んでしまう」と自らの課題に向き合う姿勢を見せていた。

 私は年に一度は、BCリーグ、四国アイランドリーグplusの両独立リーグに足を運ぶようにしている。両リーグとも創設以来10年を超えたが、そのレベルは年々洗練され、今回見たBCリーグの試合はいずれも見ごたえのあるものだった。そのレベルアップには、国外からの選手の果たした役割も大きいだろう。今や、日本だけでなく、南北アメリカ大陸や東アジアの選手からも注目されている日本の独立リーグ。野球ファンなら一度は足を運んでみる価値はある。

(写真は筆者撮影) 

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

阿佐智の最近の記事