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児童の首から下を想像してCGで制作した、リアルな裸の画像は「児童ポルノ」なのか? (2・完)

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士

■現行の児童ポルノ規制の仕組み

これもCG(出典:PSD Collector)
これもCG(出典:PSD Collector)

前回指摘しましたように、児童ポルノに対する基本的な見方としては、(1)背徳的・犯罪的イメージを流布する表現物として禁止の対象とするという立場と、(2)児童に対する性的虐待の記録物として禁止の対象とするという立場の2つがあります。そして、現行の児童ポルノ処罰法は、「現実の児童に対する性的搾取(さくしゅ)・虐待の禁止」(第1条)を法律の目的とし、さらに児童ポルノの被写体を「18歳未満の者」(第2条)としていることから、「児童ポルノ」には架空の表現物は含まれず、実在する児童に対する性的搾取・性的虐待の記録物(描写)であることを前提としています。現行法のこのような基本的立場については、多くの人たちが認めるところです。児童ポルノの規制は、それを広げていけばマンガやアニメといった表現物の規制にまで及ぶ可能性がありますから、社会的に糾弾されるべき悪しき思想の禁圧ではなく、性的な被害を受けた児童に対する保護を中心において、個々の児童に対する現実的な性的搾取・性的虐待およびその記録行為の禁止、そしてそのような記録物の拡散防止を目指す現行法の立場は妥当だと思います。

問題は、「現実の児童に対する性的搾取・虐待の禁止」という半径で描かれる円に具体的な犯罪類型がうまく収まっているのかを、常に検証しなければならないことだと思います。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(全文)

■個人的法益に対する罪としての児童ポルノ犯罪

犯罪には、(1)殺人罪や窃盗罪などのような個人的な法益(利益)を侵害する罪と、(2)わいせつ図画公然陳列罪や賭博罪などのような社会的な法益を侵害する罪、(3)内乱罪や公務執行妨害罪などのような国家的な法益を侵害する罪の3種類があります。児童ポルノ犯罪は、現実に性的搾取や性的虐待を受けた個々の児童の保護を目的としていますので、個人的法益に対する罪に分類されます。なお、児童ポルノ犯罪を処罰することによって、児童を性の対象とするという悪しき考えにも警鐘を鳴らすことになるので、児童ポルノ犯罪には社会的な法益に対する犯罪という性格もあるのだとする見解もありますが、それは、たとえば名誉毀損的表現を処罰することによって、一般に人の名誉を傷つけるような表現も抑止されることになるのと同じことですから、あえて児童ポルノ犯罪には社会的法益に対する罪という側面もあるということを強調する必要はないと思います。

したがって、善良な性風俗の維持という社会的法益を保護する刑法上のわいせつ物規制と児童ポルノ規制は、それぞれの規制の目的を異にしているといえます。成人のポルノに子どもの顔だけを貼り付けた「擬似(ぎじ)児童ポルノ」(合成写真)も成人の女性にセーラー服を着せた「擬態(ぎたい)児童ポルノ」も、それがわいせつと判断されれば刑法上の犯罪となりますが、現実の児童に対する性的搾取や虐待がない限り、少なくとも法的には「児童ポルノ」ではありません。

また、成人のポルノとちがって、児童ポルノでは表現の自由との問題も生じません。というのは、児童ポルノの場合には、その制作過程で必ず児童に対する性的虐待行為、すなわち性犯罪が行われており(一定年齢以下の児童を現実に性的行為の対象とすることは、その同意があっても犯罪となります)、そもそもそのような性的虐待行為を記録し、表現する自由などありえないからです。この点が成人のポルノとの大きな違いだといえます。

■CG画像と児童ポルノ

児童ポルノ処罰法は「児童ポルノ」を、写真やDVDなど、「視覚により認識することができる」もの(第2条3項)に限定しています(文章や音声などは除かれます)。児童に対する性的虐待を記録したものとしては、視覚によって認識できるものを取り締まれば十分であるという趣旨です。CGを使ったものであっても、性的虐待が記録されている元の画像(「児童ポルノ」)について画質を良くするなどの修正ほどこしたような場合は、それは「児童ポルノ」の複製行為であって、できた画像を「児童ポルノ」だとすることに問題はないでしょう。提供目的があれば、児童ポルノ製造罪が成立します(第7条2項または5項)。

しかし、CGによって純粋イメージとして作製された「児童ポルノ」は、たとえリアルな現実感をもっていたとしても、性的被害を受けた児童が存在しないため、わいせつ図画(刑法175条)と判断されることはあっても、被害児童の保護を目指す児童ポルノ処罰法の適用は解釈上難しいと思います。ただ、そのような画像は、児童ポルノと児童に対する現実の性犯罪との因果関係が科学的に証明されない限り、表現の自由との対抗関係で次元の異なる新たな問題となるでしょう。とくにこの問題が厄介なのは、CGによる児童ポルノの質が向上すると、本来の児童ポルノをそれが質の点において凌駕(りょうが)し、本来の児童ポルノ規制の意味がなくなる可能性があるという点ですが、これは現行法の解釈の限界を超えることなので、立法論として議論すべき問題だと思います。

■結論

「児童の首から下を想像してCGで制作した、リアルな裸の画像」というのは限界事例ですが、児童に対する性的虐待の禁止およびその記録物の拡散防止という法の目的からすれば、これを「児童ポルノ」として処罰することは現行法の解釈論を超えるものだと思います。被害児童に身体的に接触するかどうかは、性的虐待の本質的な問題ではありませんが、実際の児童の写真をCGを使って加工し、その首から下の裸の部分を想像して描くということは、その児童に対する性的虐待行為ではありません。性的虐待行為は、当該被害児童に対して行われる精神的身体的な性的行為を意味するからです。さらに、オリジナルの画像が「児童ポルノ」であった場合に、そこに写し込まれていないような部分を新たに想像で書き加えたような場合、たとえば、下着姿の児童の写真(第2条3項3号の、いわゆる3号児童ポルノに該当する可能性があります)から画像加工ソフトを使ってその下着部分を除去し、新たに性器等を想像して書き加えたような場合は、できた画像はオリジナルとは別のものですので、「児童ポルノ」の複製行為(第7条2項または5項の提供目的での製造)にも該当しないと思います。(了)

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甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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