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日本のTVにおける「コメンテータ」について考える

鈴木崇弘政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー
TV番組のコメンテータの役割とは何か(提供:イメージマート)

 民主主義社会においては、国民は主権者。そこでは、最終的には国や社会の命運は、そこの国民・住人の判断にかかっているといえる。その判断のためには、より正確な情報やデータが提供されることが必要不可欠だ。

 他方で、インターネットや生成AIを通じて多くの情報を簡単かつすぐに入手できるようになった。だが、その中には多くの多種多様な虚偽情報や誤情報が紛れ込んでいる。そして、それらの虚偽あるいは誤りの情報が社会を混乱させ、社会を誤った方向に向かわせことがあることを、私たちは、先のコロナ禍の時期に嫌というほど学んだ。

 人間というものが完璧な存在でない以上、それらの情報がゼロになるという状況は、当分の間生まれるとは考えられない。だが、そのような情報をできるだけ抑える工夫は必要だ。

 そのためには、関連分野の専門家の意見や知見を理解し、それに基づいて、自身の考えや意見を立論していける環境の存在が必要だ。

民主主義社会では、国民の判断が重要。だが、そのためには適切な情報等の提供が必要不可欠
民主主義社会では、国民の判断が重要。だが、そのためには適切な情報等の提供が必要不可欠提供:イメージマート

 しかし、これまでの人間の歴史から確実にいえることは、どんなに優れた専門家等であっても、間違った考えや意見を持つこともあるし、ある時期の考えや意見などをその後の知見などに基づき修正あるいは変更することもある。

 その意味からも、私たちは、できるだけ複数の異なる意見をもつ専門家の意見を聞きながら、自分の意見等を構築したり、判断したりしていくことが求められる(ただ、その場合でも、全く間違った意見を持てるという確証はない。そのことは、肝に銘じておくべきである)。

 このように考えていくと、どうしても疑問を持たざるを得ないことがある。

 それは、日本のTV番組におけるコメンテータという存在だ。彼・彼女らは、何らかの分野の専門家や有識者であることがほとんどだが、番組では、番組で扱われる、それこそ社会・経済・政治問題から、芸能ネタまでありとあらゆるテーマや課題に対して(事前にある程度調べたり情報を得たりしていることもあろうが)、コメントや意見が求められるおである。要は、自分の専門分野にコメントすることもあるが、番組でおこなうコメントのほとんどは、専門分野外のものであり、視聴者からすると、TVに出演する方からの意見や情報はそれなりに専門性に裏付けられていて権威や正当性があるかのように感じられるかもしれないが、素人の意見や考えとほとんど同レベルのものなのである。

 つまり、その場合、素人の視聴者は、素人の意見を聞いているのとほぼ同じ状態にあり、自身の知見や識見が深まることはないのである。

素人の意見や考えを聞いても、知見は深まらず、正しい判断はできない
素人の意見や考えを聞いても、知見は深まらず、正しい判断はできない写真:イメージマート

 もちろん番組により工夫もある。たとえば、テレビ朝日「大下容子のワイド!スクランブル」には、ニュースの分野別に専門家も出演し、専門的な知見や情報も提供しながら、出演するコメンテータは、専門家に質問したり、専門家(一人であることが多いが)の意見等を踏まえた自分の意見や考えをコメントする形態になっている。このために、視聴者は、専門的知見もある程度深められるようにもなっている。

 筆者は、先述したように、視聴者は、専門家(できれば複数の専門家)からの知見や情報を得ることが重要で、素人の思い付きによる意見や考えを聞くことは物事を混乱させ、ミスリードしがちなので不要だと考えている。

 もちろんコメンテータが、自分の専門分野への意見や情報等提供をしたり、視聴者に代わって素人的観点から専門家に質問することは問題ない。そして、後者の対応は、視聴者にとっても意味があるといえるだろう。

 SNSをはじめとする様々なメディアの出現で、TVなどの影響力は低下してきているし、若い世代は、新聞やTVはあまり観ないともいわれている。だがいまだ、TVなどからの情報は、プラスもマイナスも含めて社会的な影響は大きい。

 そこで、日本社会全体、特に国民・住民が、社会の問題や課題の本質的な観点や視点から、自身の意見や考えをもってもらえるようにするために(それこそが、日本がより民主主義的な意味で、短期的にはある程度の問題・課題はあっても、中長期的にはより有効に機能していけるようになる基礎となる)、TV等に対して、次のような提案をしたい。

・社会の問題・課題などの報道や情報提供をする場合は、アナウンサーやキャスターによるストレートなニュース以外は、当該のニュースの対象分野の複数の専門家が情報提供するようなセッティングにする。

・現在の「コメンテータ」という呼称は廃止し、「クエスチョナー(questioner、質問者/質疑者)」と呼び、自身の専門分野以外は自分の意見や考えを述べるのではなく、出演する専門家への質問に徹するようにする。

 このような対応は、既に新聞で実施されているし、TVの番組進行に負担がかかるかもしれないが、海外では既に採用されている対応であり、日本全体での問題や政策課題の理解や議論の改善になり、ひいてはメディアや政治・政府の質の向上にもつながっていくだろう。

TVをはじめとしたメディアの役割が問われているのでは
TVをはじめとしたメディアの役割が問われているのでは提供:イメージマート

 日本のこの30年の右往左往や昏迷・低迷を考えると、日本にはいまだ多くの可能性やポテンシャルはあると考えられるが、刻々とそれらが失われつつあり、時間的な猶予はそれほどない。その意味で、いまこそできることから、まず改善していくことが望まれるところだ。

政策研究アーティスト、PHP総研特任フェロー

東京大学法学部卒。マラヤ大学、米国EWC奨学生として同センター・ハワイ大学大学院等留学。日本財団等を経て東京財団設立参画し同研究事業部長、大阪大学特任教授・阪大FRC副機構長、自民党系「シンクタンク2005・日本」設立参画し同理事・事務局長、米アーバン・インスティテュート兼任研究員、中央大学客員教授、国会事故調情報統括、厚生労働省総合政策参与、城西国際大学大学院研究科長・教授、沖縄科学技術大学院大学(OIST)客員研究員等を経て現職。新医療領域実装研究会理事等兼任。大阪駅北地区国際コンセプトコンペ優秀賞受賞。著書やメディア出演多数。最新著は『沖縄科学技術大学院大学は東大を超えたのか』

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