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【PC遠隔操作事件】揺れ動く心を率直に語る被告人質問(第11回公判傍聴メモ・その2)

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

【弁護人(佐藤)】

――被害者の証言を聞いてどう思ったか。

はじめてナマで被害者の声を聞いた。多くの人に多大な迷惑をかけていたと、自分の中で再確認できた。そのことは、(前から頭では)分かってはいた。分かっていたからこそ、その責任が全部自分にかかってきたら大変だとウソをつき続けていた。人として、明らかに正しくないことと理解した。

――弁護士人も騙されてもっともらしく弁護することになった。同種事件で逮捕された前科があり、4人の誤認逮捕を知っていたのに、警察を挑発し、逮捕後も頑強に否認し、長期にわたって刑事司法をないがしろにした。疑いもなく、あなたに原因があるが、その心の闇に光を当てるために、不利な事実もありのままに話して欲しい。膿をはき出してもらいたい。

分かりました。

当初はもくろみ通りの展開

――5月16日の第8回公判中の11時37分に送信したのはなぜか。

メールを受け取った方からの情報が拡散する時間を考えた。昼から午後に拡散し、夕方には騒ぎになっていて、(裁判後の)記者会見で質問され、用意していた答えをする。それが望ましい展開だった。

「真犯人メール」の後の記者会見で、「無実」を訴える片山被告
「真犯人メール」の後の記者会見で、「無実」を訴える片山被告

――公判中にしたのはなぜか。

自分のアリバイができる。(裁判中は)パソコンにもスマホにも手を触れていない。それを裁判官、検察官、傍聴人も見ている。

――遅すぎてもまずい。

遅すぎると、(取材が)家に来てしまうので。

――もくろみ通り会見ではメールのことが話題になり、無実の者のように訴えることができた。

はい。

――予約送信が見破られないと思ったのはなぜか。

アンドロイド標準付属のメールアプリを使っていて、これは予約送信機能がないので。受信者がヘッダを見れば、どういうメールソフトが使われたか分かる。

――どのようにして予約送信が可能になったか。

「タスカー」というアプリを使った。そのために「ルート化」という改造を行った。

――ルート化とは?

OSで安全のために制限されている権限を確保する、ということ。

――どのようにしたのか

タスカーを使って、埋める直前にスマホを機内モードにし、メール送信2分前に自動的に機内モードを解除する。メールを送ったら、また機内モードになる。基地局からすると、機内モードになっていれば、電源が切れているのと一緒。

――メールを送る2分前に電源が入って……

電源ではなく…。

――機内モードが解除される

はい。

――その方法は、自分で考えたのか

はい。

――なぜ、そうしたのか。

送信の前はともかく、後に基地局と継続していると、警察が捜査を開始した時、そのエリア内にスマホが放置されていることが分かってしまう。

保釈後まもなく始めた準備

――準備したのは、スマホ、パソコン、SIMカード。

はい。

――どういうスマホか

フリーテルのSIMロックフリーのスマホ。

――SIMカードは?

プリペイドで、身分証明書なしに購入・開通できるものを探した

――どうしてそういう商品が売られているのか。

たとえば、一時的に日本を訪れた外国人が、滞在する時だけ臨時に使うため。

――フリーテルのスマホは、3月末にイオン南砂店で買った。4月末にも同じ店で買った。現金で買ったのはなぜか。

クレジットカードを使うと、購入履歴で分かってしまうから。

――SIMカードは?

香港の3HKというブランドのものを

――日本のソネットのSIMカードも持っていた

はい

――使い分けは?

本番には3HKを使おうと思っていた。それだけだと通信量が限られるので、テスト用にソネットを持っていた。

――2枚のSIMカードを持って河川敷に行った。

はい。

――3HKは3月末に秋葉原の三月兎で現金で購入、4月下旬にも同じ店で購入。ソネットは4月下旬に売り出されたものを月末にあきばお~で購入した

はい

――PCは?

3月末に秋葉原でベアボーンのPCを。本体とメモリは現金で買い、SSDはソフマップカードのポイントで買った。

――ポイントで買うと入手が分かってしまうのでは?

できれば現金で買いたかったが、ポイントが余っているしもったいない、と思った。クレジットではないので、すぐに発覚はしないだろう、もし発覚して何のために買ったのかと聞かれたら、「プレステ4で使うため」という言い訳を考えていた。

――警察に行動確認をされてバレることは

かなり気にしていました。尾行されないよう、自転車で家を出て、裏道をランダムで曲がりながら、少しずつ目的地に近づく。後ろについてくるバイクなどがいないことを確認していた。

――メールの文面は

5月に入ってから自宅で小型PC・NUCを使って書いた

――5月14日の出来事は?

5月15日当日に加筆した。

――onigoroshijuzo2にログインしたがメール送信ができないと。

それは河川敷についてから分かったので、加筆した

――タイトルが長いが

犯人らしく、とんでもないインパクトがあること書いた方が犯人らしさを演出できるのかな、と思った

――長いタイトルで送信できるかのテストも行った

15日に埋める直前に。

――本文の最初で「タイトルはウソです」とあるが

自分のやったこととバレるとは思わなかったが、それ自体が脅迫罪になることを防ぐため

――メールを作成した時の心境は?

逮捕される前にメールやラストメッセージを書いた時は、愉快犯的な気持ちで警察や世間をバカにする気持ちで書いたが、今回の「真犯人メール」の時は、助かりたいという気持ちで必死になった。違う頭で書いたことが、文体が違うと言われた原因かと思う。

――アドレスはどうしたのか

開示証拠を見て書き写した。

――誤記があるようだが

送信の時は気づいてない。取り調べの時に教えてもらった。自分の不注意と思う。

――6月1日未明にもまた真犯人を名乗るメールが送られているが、あなたが他の人に送らせたのではないか。

違います。一切関係してません。

――それも朝日新聞社の人のアドレスが同じように間違っている

私が送ったメールを受信した人か、それをもらった人がコピペしたために反映されたと思う。

――このニセ「真犯人メール」は6月2日の朝に送られた。

まず不思議に思った。こんなことをするのは誰だろう、と。あと、これにのれば、自分は助かるかも知れないと、ほんのちょっとだけ、思った。

――便乗しようという気持ちが一瞬湧いた

そうです。

現場で新たなアカウント作成

――5月15日は、3時過ぎに自宅を出て、都バスに乗り、葛西橋で降りて河川敷に出て北上し、高速の橋脚に着いた。尾行を確認し、ソネットで動作確認し、3HKを使って確認したがうまく送信できない。onigoroshijuzo2にログインしたが、メールが送れない。それで新しいアカウントを作った。バッテリーが減っていたのでモバイルバッテリーを接続し、ダイソーのビニール袋に入れて埋めた。

はい。

――トーアを使わなかったのはなぜか。

トーアを使って25カ所に送るにはヤフーメールの場合、画像認証が必要で、無人送信はできないようになっていた。

――河川敷には2時間以上いた。onigoroshijuzo2にアクセスして自分の場所が分かってしまうと思わなかったのか。

考えていた。ログインしたとたんにYahoo!から警察に連絡が行き、追跡が始まるのではないか、と。ただ、3HKはプロバイダーが香港にあるので、発信地を割り出すのに2、3日はかかるだろう、と思っていた。

――照会されればどこまで分かる、と

実際の回線は、3HKもソネットもドコモの回線を使っている。ドコモに紹介して、本体の固有番号や基地局から半径数百メートルにある、とまでは分かるかもしれない。

――2時間で見つかることはない、と。

3HKを断念して、ソネットのSIM使うので不安はあったが、照会して分かるには1、2時間程度では終わらないだろう、と。

――しかも、onigoroshijuzo2にログインしたのは、その2時間のかなり後ろの方だった。

はい。

――パスワードは覚えていたのか

ずっと覚えていた。10年以上前に、2ちゃんねるで流行った流行語です。

――わざわざログインについて加筆したのは?

送信者が真犯人である可能性高くなる、と。

――昨年1月5日以降ログインされていない。パスワードは真犯人しか知らない。間違いなく真犯人のメールとなる、と

はい。

――onigoroshijuzo2はいつ作ったのか。

1月5日に延長戦メールを送る直前に作成した。

――その前に使っていたアカウントは?

onigoroshijuzo

――それはいつ作ったか

犯行声明メールを落合弁護士に送った日の昼間、職場にいる時間帯に。

――その後、そのアカウントはどうなったか

自殺予告メールに使ったが、他の誰かにアクセスされたため、11月20日頃パスワードを変更した。それから他者からの侵入はなくなった。謹賀新年メールを送った後に削除した。

――それで終わりにするつもりだったのか。

ラストメッセージで最後にするつもりだった。

―今回のメールに使ったスマホは、回収するつもりだった。

はい。

――どうやって埋めた場所を覚えておくつもりだったか

橋脚に4桁の番号がついたプレートが貼ってあった。その番号を覚えておけばいいと、工夫して手帳に書いておいた。

――どんな工夫か

それぞれの数字を、10から引いた数を書くようにした。

――PCは?

スマホを埋めて、バスで帰ってきた後、自転車置き場の縁の下に隠しておいた。ビニル袋に入れて。

――PCを家に置いておかなかったのはなぜか。

警察が家宅捜索をする可能性があるので。

――PCの中には何が?

本文のデータ、トーアだとか、アンドロイドプログラムの開発環境、ルート化するための改造のプログラムなど

――送信先のメールアドレスも

入っていた

――それをそのPCから復元することは?

不可能。ドライブ全体がビットロッカーで暗号化してあった。パスワードは20字の意味を持たない文字列で、メモ用紙に書いていたが、それは葛西橋の上から捨ててしまった。私自身でも開くことは不可能。

――もしまたメールを送る時にはどうするつもりだったのか。

OSを再インストールすれば使えるので

「母を楽にしてあげたい」

――そういうメールを送るのは、勾留されている間はできない。

どうやっても不可能。

――弁護人が検察側証拠に全部同意した後も、検察は保釈に反対していた。その理由は?

虚偽の真犯人を不正に作出するおそれがある、と

――家族との接見を認めてもらおうとした時も、検察側は悪影響を及ぼすと反対した。どう思ったか?

全部の証拠をもってしても、(有罪が)立証しきれていない、と。真犯人メール1通で崩されてしまう程度のものなのだな、と。

――真犯人メールを送れば、無罪がとれるかもしれない、と。

はい

――保釈されて、すぐに司法記者クラブで記者会見をした。その時点でも、真犯人メールを送ることを考えていた

はい

――当初はいつやるつもりだったか

判決公判の直前に仕掛けるつもりだった。有罪判決の場合は数日後に送られるように。

――無罪の場合は?

遠隔操作でプログラムを停止するようにしておいて、自分の携帯から停止信号を送って、スマホにメールの送信を中止させる。

――有罪の時はただちに収監されると知っていた

はい。そうすれば、自分が犯人でない可能性が高いとなって、保釈が認められ、高裁で無罪判決が出るのではないか、と。

――有罪判決が覆るだろう、と。

はい。

――保釈後は、弁護人があなたのスマホとPCを管理下に置くようにした。

表面的には、PC1台、スマホ1台でPCにはパケット警察を入れて、通信記録を録っておくようにした。

――弁護団をも欺く行為だ。

罪悪感は大いにあった。ただ、1年以上にわたってだまし続けてきた後ですので、今更ここだけ素直になってもしょうがない、と。このまま騙し続けていくしかない、と。

――保釈後、一緒に住んでいたお母さんはどういう対応だったか

信じたいと思ってくれていたが、100%信じてはいない。

――4月20日から3回下見に行っている。何度も行って、警察に気づかれないと?

その都度尾行を気にしながら行ったので、大丈夫と思った。

――あなたと外に行くのを気にしていたお母さんと一緒に外出もするようになった。

4月30日から5月1日まで佐藤先生の事務所の旅行に同行させていただいて東北へ。5月3日と5日にも母を連れて外出した。5月10日私の誕生日には銀座で2人で食事をした。

――お母さんは、なんと?

「本当に無実なんだよね。またあなたがいなくなるようなことはないよね」と毎日のように、ため息をつきながら言っていた。「つらい、つらい」と声に出して言っていた。信じたい気持ちと、本当は犯人なのにウソをついているかも、という気持ちとの狭間で揺れ続けていた。

―100%信じてないことが分かって、前倒しすることにした

母がいつものように辛そうにしているので、早く楽にしてあげたい、と思った。(メールで書いた)あの情報では裁判を終わらせることはできないにしても、片山以外の真犯人がいると(いう雰囲気に)世間がなれば、母も楽になるのでは、と

――この裁判はどうなる、と?

表面的には、私のPCの解析を行って、ウイルス感染や遠隔操作されている痕跡をみつけることになっていた。そんな痕跡は、いくら探してもないと分かっていた。その一方で、猫の首輪のDNAや雲取山のUSBなど、無罪方向のリアル証拠もあるので、裁判は五分五分だな、と思っていた。

――検察がメールの送信を恐れていることもあり、真犯人メールを送れば優勢になると?

はい。

警察の裏をかいたつもりが…

――メールを送ったあと、どうなると?

ネット界隈やマスコミは騒ぎになり、警察は捜査に着手する、と。プロバイダーからどこの基地局から送られたかは突き止められ、そこから数百メートルの範囲というまでは突き止められるだろう、と。

――警察はどう判断すると?

東側の江戸川区の住宅地か首都高を走る車から送られたと、警察は考えるだろう、と。

――それ以上絞り込まれることは? 

その時点で、通信をやめているので、スマホが放置されているとは考えないだろう、と。思ったとしても、河川敷は広い。金属探知機を持ってきても、橋脚の近くに埋めたので、役に立たないだろう、と。

――各テレビ局が河川敷の映像を流していたが、実際に埋めたのは橋脚のところ

はい

――警察は5月15日に目撃し、メールが送られた後にスマホを回収した

正直、思ってもいなかった。不謹慎ですが、失敗した。周囲に人がいないことは確認したはず。後から聞いた話ですが、対岸から単眼鏡で見張られていた、と。

――行動確認はいつからやっていたと?

検事から、5月12日月曜日の週から始めた、と聞いた。それ以前はしていない、と。保釈から2ヵ月後に何かするのではないか、ということで、まさにぴったりの時期に私が行動してしまった。(保釈から2ヵ月後に動くというのには)科学的な根拠があるのか分からないが。

――5月16日は江川さんから読ませてもらった。

はい

――顔が紅潮していたと。

我ながらすごくうまく演技ができた。あのメールをはじめて見た無実の人と見せるのに成功してしまった。それが自然にできてしまったところが、自分でも異常者と思う。

――会見で「真犯人はサイコパス」と述べ、その後「自分がサイコパス」と弁護人に打ち明けたのはなぜか

一連の事件のような大それたことをした。突き詰めれば、自分が腕試しをしたかったからですが、それで多くの人を陥れてしまった。逮捕後も、ウソをついて先生たちを騙していた。

――仮面をかぶった自分とそうでない自分がいる。

表面的にはまともなように見えて、中には鬱屈したものを抱えている。本物の真人間になりたい。

――5月16,17日に公訴取り消しをもとめようということで弁護人と議論した。その時もあなたは平然と「真犯人からのメールだと思う」と第三者的に言っていた。

先生方には、通常通り演技できている、と思った。内心では、河川敷のスマホが今にも発見されるのでは、今すぐ回収しなければという衝動と戦っていた。行っても、警察が張り込んでいるかもしれない。推理小説やテレビドラマで「犯人は現場に戻ってくる」というのを地で行くわけにはいかない、と思った。

発覚してから

――19日午前10時頃、NHKと日本テレビで報道があったが、その頃の心境は?

今のところ順調だろうと。全くばれていないだろう、と

――マスコミから弁護人に問い合わせがあり、10時22分にあなたに電話をして、検察が保釈の取り消し請求をするらしいと伝えたが、弁護人の事務所に向かうと言ったまま行方を断った。その後午後9時半すぎまでに何をしていのか。

佐藤弁護士の電話を聞いて、びっくりした。その場でスマホのネットニュースのヘッドラインと2ちゃんねるを見た。2ちゃんねるのニュース速報プラスにスレッドが立っていた。「元会社員自身が送信か」とあり、「今、テレビに出た」「河川敷に埋めたんだって」「片山の自作自演だって」とあったのを読んで、「バレた」とパニックになった。

スマホを握りしめたまま、選択肢を考えたが、すぐに「もう死ぬしかない」と思った。

パニックになって、訳も分からず自転車で走り回って、気がついたら錦糸町の公園にいた。その前に酒を大量に買っていた。トイレで首を吊ろうとしたら、バックルが破断してしまった。亀戸のドンキホーテでベルト2本ネクタイ1本を買って、JRに乗って山の方に行って、人がいないところで死のうと思った。中央線で高尾まで行って、京王線に乗り換えた。酔っ払っていて、このまま山に登るのは無理だと思った。電車に飛び込むことも考えたが、リフトを使って山を登った。しばらく歩いて谷に入った。斜面を使って首を吊ろうと、滑り落ちたり転げたりしてみたがダメだった。

辺りが暗くなったので、やっぱり電車に飛び込んで死んだ方が早いと思い、月明かりを頼りに下山した。どこで飛び込もうかと思案した。快速がとまらない小さい駅がいいと、1つ1つ降りて確かめた。カメラもなさそうな駅があったので、ホームの下に入って、首を数十センチ差し出せば死ねる、次の電車が来たら死のう、次の電車が来たら死のうと思いながら迷って踏み出せないまま2時間近くが経った。佐藤先生に謝ったら死ねるのか、と思って電話をした。

――その駅は?

酔っ払っていたので曖昧だが、おそらく「山田」

――電話では何と言ったか。

「すいません。全部僕が犯人だったんです。今までだましていました。死のうと思ったが死ねない」と。佐藤先生からは「そうか、でも死んじゃダメだ」と強く諭された。

――自殺未遂も演技だと言う人がいるが。

もう、本当に死ぬしかないと、本気で考えていた。

――警察に目撃されていなかったらどうなったと思うか

見つけられなかったと思う。

天網恢々…

――その場合、さらに真犯人メールを送るつもりだったのか。

状況を見て。あの内容では不十分と思っていたので、判決公判後かもしれないが、どこかの時点で送るつもりだった。元々の計画では、猫の首輪についたSDカードの内容と同じファイルが得られるクイズをつくるつもりでいた。

――その計画書もスマホの中から復元された。

はい

――iesysはどうやって入手するつもりだったのか

先生の事務所にある開示証拠のDVDからこっそり入手するつもりだった

――あのメールで十分とは思わなかったのか

onirogoshijuzo2にアクセスした証拠はないので、もしかして検察が(アクセス履歴を)隠すかもしれないので十分ではない

――あれで裁判を終わらせるのは難しい、と

はい

――行動がだんだんエスカレートしていったのは分かるか

はい。横浜CSRF事件が入り口。それがうまくいってしまったため、iesysで事件を起こし、警察を挑発する声明メールを出し、自殺予告、謹賀新年メールと…。

――次々に誤認逮捕される人がいると知りながら、苦痛は感じなかったのか。

まあ…正直に言うとそうでした。

――警察は別々の犯人と考えていたが、犯行声明メールで1人だと分かって、4つの警察が合同捜査本部を作り、必死の体制で捜査を始めた。そうなるように挑発した。

(悪いと)分かってはいたけど、心が麻痺してしまっていた。

――犯行声明メールを送らなければ、iesysが残っていたのは三重の人のPCのみだった。メールを送ったのは愚かな行為だ。

自分でもそう思う。

――江の島の防犯カメラの存在は知らなかったのか

木が生い茂ったところにカメラのようなものがあるとは、全く気にしていませんでした。

――雲取山でUSBメモリが見つかっていたら、と思うことはあるか

あります。見つかっていれば、江の島の行動はなかった。ラストメッセージで最後にしたかったので、そうすれば捕まらなかったと思う。

――5月16日に雲取山で発見されたと聞いたのは?

数日後の公判前整理手続の法廷で、佐藤弁護士の発言で知った。「ああ、あったんだ」「飛ばされてなかったんだ」と思った。

――それで無実のストーリーを考えたのか

元日になくて5月にあったなら、真犯人が埋めたんだろうというストーリーを思いついた

――それを弁護人に言ったか?

自分からは言わなかった。先生方が思いついてくれるのを待っていた。

――弁護人が思いつくまで黙っていた。

思いつかなければ、仕向けたかもしれない。

――弁護人が思いついてくれて、まんまとうまくいった、と思ったのか。

はい。

――今回はバレなくても、またやれば、いつかはバレると思わなかったのか。

自分への監視が厳しくなることは考えたが、うまく目をかいくぐれば、不可能ではないと思った。

――警察や検察はあなたに違いないと考え、行動確認が厳しくなって判決直前に仕掛けるのも難しくなると思わないのか

がんばればできるのではないか、と…。

――「天網恢々疎にして漏らさず」という言葉を知っているか

『相棒』というドラマで水谷豊が言っていた。天の網は粗いように見えて、実は逃れることは難しい、という意味。インターネットという網を舞台にした事件で、この言葉が重要な意味を持つのではないかな、と思う

――(埋めたスマホが)警察に見つからなければ、という思いはないか?

すべてが露見した今、そういう気持ちは捨てないといけない。反省と被害者への謝罪が第一義でなければいけない。そう思いつつも、「あれさえなければ」という気持ちが捨てられない。2つの間で揺れ動いている。

――第9回公判で、「すがすがしい」と言っていたが、うまくいけば違っていただろうに、という気持ちもある

はい。

検察側の質問にも率直に答える

倉持検事

――弁護人には秘密でPCとスマホを入手した。罪悪感はないのか。

ありました。でも、もうすでに1年以上もありとあらゆるウソをついて先生方をだましてきたので、ウソの1つや2つが増えてもたいしたことがない、と。

――最終的には、裁判所をだまして無罪を出してもらおうと。

はい

平光検事

――これまでの裁判で、あなたのPCからいろんな痕跡が出てきた証言がある。それは動作実験をしていた時の痕跡だと分かっていた。

はい。

――弁護人は第三者に遠隔操作されたと言っていたが、それが違うことも分かっている。

もちろん。

――セキュリティ会社の鑑定もある。このままでは有罪になってしまうと思わなかったのか。

弁護側の分析で有利な証拠出ることはまずない。ただ、DNAが違うとかUSBの状況などから無罪になる可能性もあると思った。

――本当に五分五分と思ったのか?

(有罪無罪については)人によって言うことが違う。佐藤弁護士はいつも楽観的で、「裁判は順調に進んでいる」と言っていたので、「そうなのかな」と思っていた。

――江の島の猫に首輪をつけたのも、雲取山にUSBメモリを埋めたのも、あなた自身。

はい。

――それでも無罪になると?

がんばれば何とかなる、と

――放っておいても無罪になるなら、こんなことをやる必要はないのではないか。

99%無罪と思うようなら準備はしない。自分の中では五分五分と思っていた。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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