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「もっと人の命を大事に考えて」~冤罪事件で無念の死・遺族が貧困な拘置所医療と人質司法の改善を訴える

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
東京・霞ヶ関で行われた記者会見

 冤罪・大川原化工機事件で、勾留中に見つかった胃がんで亡くなった、同社元顧問・相嶋静夫さんの遺族らが、拘置所が適切な医療をせず、外部の病院での治療も認めなかったとして起こした国賠訴訟の判決を前に記者会見し、貧困な拘置所医療の実情や、無実を訴えていると深刻な病気に罹っても裁判官が保釈を認めない「人質司法」などの問題を訴えた。

7月の血液検査後に「適切な医療」を受けられたら

 相嶋さんの長男によると、相嶋さんは2020年7月7日に警察の留置場から東京拘置所に移された際の健康診断で、血液中のヘモグロビン値が貧血と診断されるべき数字になっていたが、何の検査もされなかった。8月下旬に胃痛などを訴えたが、健胃薬を処方されただけで、診察は行われなかった。9月末にひどい貧血状態となり、ようやく輸血が行われ、内視鏡検査も実施された。その検査で胃がんと分かった。

 その後も、拘置所では適切な治療はなされず、外部の病院での診察を求めても受け入れられなかった。さらに保釈申請は裁判官によって退けられた。治療が受けられないまま時間が過ぎ、11月になってようやく、期間限定の勾留執行停止で、外部の病院に入院。しかし症状がすでに重く、手術はできなかった。化学療法で一次は持ち直したものの、翌年2月に亡くなった。

 相嶋さんの長男は、「法律では、拘置所でも社会一般の医療水準に照らし『適切な医療』がなされる、と定められている。社会一般の医療レベルでは、7月の検査で貧血が認められた時点で、内視鏡検査が行われ、すぐに治療が開始できたはず」と訴える。

高田剛弁護士(左)と相嶋さんの長男
高田剛弁護士(左)と相嶋さんの長男

拘置所医療のリスクを考えて早期保釈の判断を

 また、遺族の代理人の高田剛弁護士は、事件の経緯を説明したうえで、次のように訴えた。

「相嶋さんの無念の死の原因は、何より事件をねつ造した警視庁公安部、そして無実を訴える人の保釈を認めようとしない日本の司法制度だ。しかし、拘置所で一般の人と同じ水準の医療を受けることができていれば、相嶋さんはこんなにも早く他界しなかったのではないか。こうした拘置所医療で被害者が生まれるリスクがあることを踏まえ、裁判官は積極的な早期の保釈判断をする実務に変わって欲しい」

相嶋さんの長男(左)と中村よし子さん
相嶋さんの長男(左)と中村よし子さん

犠牲者はほかにも…

 貧困な拘置所医療と人質司法の犠牲者は相嶋さんだけではない。会見に同席した中村よし子さんは、2016年に破産法違反事件で逮捕・勾留された夫の税理士、故・中村一三さんが膵臓がんを患っており、治療の必要があったのに、保釈がなかなか認められず、拘置所が適切な医療を提供しなかったために、ようやく保釈が実現した時にはがんは転移しており、死期を早めた、と訴えている。

 やはり記者会見に同席した土井香苗・国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表によれば、昨年1月以降に報道された、警察の留置場や拘置所での未決拘禁者の死亡事例は22件に上る。その中には、適切な医療にアクセスできれば救われた命もあったのではないか。

 相嶋さんの長男は、こう訴える。

「警察官についても、検察官についても、裁判官についても、人の命を大事にする、ということをもう一度(刑事事件に携わる)全員が考えないといけない。そのためには、ある程度の知識も必要。(21日に東京地裁で出される)判決がそのきっかけになれば、と思う」

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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