韓国総選挙の開票始まる...明暗分かれた三党「エース」の表情
15日、韓国で国会議員すべてを改選する総選挙が行われた。午後6時に投票が終わり、開票作業が始まる中、国会周辺で韓国を代表する三党の「顔」となる政治家の表情を探った。
●与党・共に民主党は「ポーカーフェイス」
筆者がまず向かったのは、優勢が伝えられていた与党・共に民主党。同党はソウル・汝矣島(ヨイド)の国会に併設された議員会館の大会議室で開票速報を見守った。
この日、出口調査の結果は6時15分に発表されることになっていた。筆者が到着した5時50分頃にはすでに、壇上をカメラが埋め、最前列には党の指導部がずらりと並んでいた。
6時5分頃に韓国メディアの取材を受けていた李洛淵(イ・ナギョン)元総理が席に着くとカメラのフラッシュが一斉に炊かれた。そしてすぐに「落ち着いた雰囲気で開票速報を見守ってください」とのアナウンスが流れた。派手なガッツポーズを控えろということだ。
壇上にいくつものモニターが並ぶ中、公営放送のKBSの出口調査結果が写し出された。与党(共に民主党と比例政党の共に市民党の合計)は155〜178議席獲得と流れると、会場には拍手が静かに鳴り、ホッとした雰囲気が流れた。
与党だけで単独過半数というのは、確実な勝利に値する。また、5〜7議席の正義党とさらに1〜3議席の開かれた民主党と合わせれば、汎進歩系で法案通過ラインの180議席をも狙える数字だ。
このため、会場にはかくせない喜色があった。だが続いて各候補の出口調査結果が発表されるとため息もあった。
大邱(テグ)で出馬した4選の金富謙(キム・ブギョム)候補の劣勢と、江南(カンナム)で北朝鮮出身の野党候補テ・ヨンホ(本名テ・グミン)氏の優勢が伝えられた時に、落胆は最高潮に達した。
その後、選対委員長の李洛淵氏はマイクを手に「出口調査は出口調査に過ぎない。選挙の開票結果を謙虚な心で待つ」と語った。李氏は結局、筆者が見ている間は一度も拍手をしなかった。非常に抑制された姿が印象的だった。
●未来統合党は「沈黙」
筆者は次の目的地である第一野党・未来統合党が開票速報を見守る会場に向かった。議員会館から200メートルほど離れた向かいにある、国会図書館の地下講堂だ。
会場に着いたのは午後6時40分過ぎだった。入った瞬間、与党の会場とは異なる重い空気が感じられた。カメラの数も与党の会場の約6,7割と少ない。出口調査の結果が「惨敗」の可能性がある107〜130議席にとどまった影響だろう。
やはり壇上に備え付けられた10数台のモニターを、最前列に座る党指導部が静かに見守っていた。中央に座った黄教安(ファン・ギョアン)同党代表は身を深く椅子に沈めたまま無表情を崩さなかった。
それから5分ほどすると、黄氏がメモを手に立ち上がり、指導部たちと握手をし始めた。握手といっても新型コロナウイルス対策の、拳と拳をぶつけ合うものだ。少しぎこちない。
続いてマイクを手にこう述べた。「今日の午前0時頃に(選挙結果を)判断しなければならない。国民を最後まで信じる」、「選挙期間のあいだ、至らない部分もあった。より精進に、革新を続けていく」。
静かで落ち着いた語り口だった。その姿は同じ「選挙の顔」としてソウル・鍾路(チョンノ)で矛を交えた、やはり元総理出身の李洛淵氏の語り口を彷彿とさせた。
だが、会場を出て車に向かう黄教安代表を最後まで追いかけるカメラマンは2人しかいなかった。鍾路でも黄代表は劣勢が伝えられている。明らかな敗北の陰がそこにあった。
●正義党を覆う「悔しさ」
最後に向かったのは正義党だった。党勢は小さいが韓国政界で確固たる存在感を持つ左派政党だ。
当事務所は国会から歩いて5分ほどのビルの5階に位置している。ビルの正面には2年前に自死を選んだ同党の二枚看板の一人、故魯會燦(ノ・フェチャン)氏を模した大きな垂れ幕がかかっていた。
筆者が7時ころ着くと、ちょうど残された二枚看板のもう一人、沈相ジョン(女偏に丁、シム・サンジョン)代表が韓国メディアを前にコメントしていた。
「正義党は今回の選挙で巨大政党の比例政党の競争により、とても難しい選挙をたたかった(中略)出口調査は以前も大きな誤差があったため、実際の結果はもっと良いと期待する。今回は投票率が高く、無党派層が比例衛星政党への評価のために投票したと想う。正義党は夜通し国民の意思を謙虚に見守る」。
事実、出口調査の結果は5〜7議席の獲得と、正義党には厳しい結果となった。
もともと同党は、昨年12月に改定された選挙法「準連動型(準併用型)比例代表制」による恩恵をもっとも多く受けるはずだった。今回の総選挙を控えた年明け頃には、初の20議席もあるとの声が党内外から出ていた。
だがフタを開けると、選挙法改定の際には現実になると思われていなかった、与党と第一野党による比例専門政党の結党という「裏技」により、最もとばっちりを受ける立場へと180度変わった。
党関係者は記者たち数人が集まる前で、「もうちょっと比例で伸びると思っていた」「比例投票用紙の上位に名前が出るので期待していた」と悔しさを隠さなかった。
それでも劣勢とされた自身の小選挙区で優位との結果が出たからか、沈代表の表情はいつもと変わらなかった。
地元に戻るため党舎を後にするところを追いかけ写真を撮った。「ご苦労様でした」と声をかける筆者に「ありがとう」と答えた。